第2話
――そして私はお守りと七人の神様に願いました。
物語、或いは歴史の一節が口遊まれる。
オリジナルのフルルを真似た鈴を転がす声音(せいおん)は。
睡眠時に聞いた所でむしろよく眠れる筈が。
「あ、もしかしてお姫様のお目覚めですか?」
「別に、お姫様の夢は諦めたわよ。」
本を閉じたマガリァンに対してロイヤルは今。
目覚ましにも成るスマホが鳴る大分前だと確かめる。
眠りを妨げられた割りには。
音読内容に触れずそのまま机に向かう。
「今から勉強ですか? 寝起きがロイヤルっぽくて安心したような。でも起こした立場で言うのもアレですけど、二度寝した方がいいと思いますよ。」
「一度目が覚めるとどうしても寝付けない質(たち)でね。」
「ロイヤルって神経質なんですね。」
「……そういう貴女は無神経よね。」
「思ったことがつい口に出ちゃいまして、これでもロイヤルの力に成れればと思ってるんです。」
「ふぅん、喩えば?」
「カンニングのコツとかどうでしょう。」
パークの脅威たるセルリアンだけあってか。
イメージ通りの物騒な発想を仕出かす。
「ほらカンニングペーパーというのは、本とかに挟んどいてテスト中に盗み見するものなんですよね。ならそれが習慣付いてる私の方が、要領よく分かってるんじゃないかなって。」
「どういう理屈よ? まぁこの学園で本を読んでるのは貴女位でしょうけど、生憎そもそもテストに持ち込める物は限られてるわ。」
「資料を参照するテストもあるんじゃないでしょうか。」
「ない訳じゃないけど、そういう時は授業で使うセキュリティの掛かったタブレットにデータが配布されるから。」
「そうですか。でもタブレットがテストでも使われるなら、セキュリティに侵入さえすれば……。」
ブツブツとでも物騒な発言しかしない。
アレな居候に構うより勉強々々っと。
「……。」
何、張り切っちゃてるんだか。
今こんなことを頑張ったって将来に役立たないのに?
「ふぅ。」
「――そう言えばなんですけど、ロイヤル。」
目覚ましより先に復習と予習に一区切りが付き。
何かまだやることはないか思った矢先。
「もし生徒の誰かがテストでカンニングしたとします、それが先生とかにバレなかったとしたらどう成るんでしょう?」
「どうってそんなの、……そのまま採点されて合格するだけじゃないの。ちゃんと勉強して来た生徒からすればムカ付く話だけど。」
「ロイヤルのことですね。」
「そこ、わざわざ言う必要あった?」
「言ったら問題でしたか?」
「そういう訳じゃないけど……。」
不正を許せないのは自然な感情、なのに。
いつからかどうしてか良心で動くのが恥ずかしくて。
「兎も角それって要するに。それがちゃんと勉強して来た生徒のテスト用紙なのか、それともカンニングした生徒のテスト用紙なのか。傍からすれば区別が付かないってことなんです、ビックリしませんか?」
「そんな驚くことかしら。」
「だって過程が全く違っても、それ所か中身がない位なのに。同じ結果を、価値ある物が生み出せてしまうんですよ。下手したらカンニングした生徒の方がいい点数を取れる可能性もある、こんなやり方があっていいんでしょうか。」
「って言われても……、私には。」
どうしようもない、なかった?
言い訳ばかり逃げようとする自分に、ピピピピと。
「あ、ごめんなさい。」
間の悪いことにタイミングよく。
目覚ましが話を遮る、それを逃げ道にする自分。
「話の途中で悪いけど、朝食を取りに食堂に行くわね。」
「はい、むしろ切りはいい位ですし。どうぞ遠慮なくいってらっしゃい、ロイヤル。」
やることがあるからと逃げるように部屋から逃げる。
自分は結局今も彼女と向き合えてない。
「やっぱり、私が悪いわよね。」
だからマガリァンと名付けたのに。
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