第1話

 四人の写真に笑ってる私を描き足した。

 お姫様に成る夢を忘れる為に――。









 クラスの子が言ってたのを思い出す。

 こんな勉強、将来なんの役に立つんだっつーのと。

 教わってる立場を弁えない失礼な発言に。

 そう一蹴出来なかったのは。

 それが短絡的な不満ではなく。

 ヒトの身体を得たことから来る漠然とした不安。

 自身の存在がいかにちっぽけで無力か。

 この世界の広さを思い知った結果。

 当のヒトでさえ患う不治の病を。

 フレンズである自分にどうしようもないけど。

 考えてしまう、食べて生きて種を残す。

 今の生活では考えられない単純なサイクルなのに。

 動物だった頃は世界ともっと繋がれていた気がする。

 なんて思ったら末期だから。

 皆揃って盲目的に信じる。

 頑張った分の見返りがあるんだって。


 「……フルル。」


 放課後のジャパリ女学園の教室。

 ロイヤルペンギンは机の持ち主の名前を呟く。

 元々PPPの活動に追われ欠席がちだったから。

 ここに彼女の面影は感じないのに言う。


 「逃げ出したい程辛かったなら、いっそ――。」


 その先を自分は口に出来ない。

 結局自分はマトモに会話もして来なかった。

 ただのルームメイトでしかないから。

 ここで向き合った気に成る。


 「……帰らないと。」


 気が進まなくとも寮の門限は守らないと。

 そんな真面目ぶっても耳に入って来る。


 『ねぇ、フルルさんって見付かったの?』


 噂、退屈な学生生活の息抜きに。

 わざわざ放課後までリサーチするいいご身分だこと。


 『まだらしいよ、あれから大分経ってるのにね。PPPのライブどうするんだろう。』

 『考えたくないけど、セルリアンに食べられたんじゃ。今って私達が生まれる前より多いって言うし。』

 『そう言えば図書室で怪しい影を見たって、言ってる子がいたよ。』

 『それ、この間の地震で倒れたりした本棚と見間違えたんじゃない?』


 所詮は取り留めも他愛もない会話。

 気にする必要はないって分かってても。


 『そのことなんだけど私、実は見たんだ。行方不明に成る前に、フルルが寮の部屋から飛び出して行くのを。』

 『えぇ何それ、どういうこと?』

 『詳しいことは分からないけど、でもロイヤルペンギンが部屋に戻って来た直後のことだったんだよね。』

 『それってもしかしなくても、ロイヤルさんが何か関わってるってことじゃない? 先生達は知ってるの?』

 『さ、さぁ。』


 そこまで聞いてお邪魔するのも吝(やぶさ)かではなかった。

 渦中のご本人が登場したらどうするのか。

 きっと釈明させる訳でも糾弾する訳でもなく。

 なぁなぁで済ますのだろう。

 問題は気に成るけど問題と関わりたくない。

 そんな中途半端な良心に自分は……。


 「……はぁ。」


 溜息を吐く、寮の自室を前にして。

 また来てる、と扉の先で待つ先客へ当て付けとして。


 「――マガリァン。」


 部屋に入ると案の定。

 彼女は何故か我が物顔で本に読み耽ってて。


 「ん、あ。ロイヤル、いらっしゃい。」


 そう言いつつ読み途中の本に栞らしき物を挟む。

 取り敢えず今はもう唯一の部屋の主に成った。

 自分を尊重する気はある模様。

 居座る気満々の机に積まれた冊数に目を瞑るなら。


 「また図書室から盗って来たの。」

 「別に問題ないと思いますよ、あの図書室どうせ誰も使ってないみたいですし。」

 「確かにそうだけど、私はバレるかどうか心配してるんじゃなくてね。」

 「もう真面目さんですね、ロイヤルは。じゃぁロイヤルのスマホ貸してください、調べ物するだけですから。」

 「貸さないわよ、というか貴女持ってるんじゃないの? その、フルルの奴。」


 流れで口にしてしまったが改めて考える。

 自分がどんな存在と同室してるのか。


 「それは勿論一緒にいただきましたけど。行方不明のフレンズのスマホに電源が入っただけでも、捜索中のパークの職員達に伝わって騒がれませんか。」

 「まぁ、そうよね。」

 「大丈夫です、本ならあとでちゃんと返します。」

 「ならいいけど……、って盗みが許される訳じゃないからね。危うく乗せられる所だったけど。というか調べ物ってなんなのよ、私に隠れて変な物作ってないでしょうね。」

 「うぅん、物語とか歴史とか。取り敢えず文系に当て嵌まる物だから安心して。」

 「……逆に怪しい思想本とか読んでないでしょうね。」

 「それ、誘拐犯みたいな立場の私に今更言っても仕方ありません? ホント、ロイヤルったら融通が利かなくて不思議に成ります。どうしてそんな貴女が、――PPPに成りたがってたんですか。」


 言いたくないことによくまぁ踏み込んでくれる。

 それがバレてフルルに飛び出されたっていうのに。


 「……別にいいでしょ、私がPPPに憧れたって。」

 「……それもそうですね、それにそれを言うなら。ロイヤルより私の方がPPPに向いてるんでした。」

 「そりゃぁ、そうでしょうね。」


 そんなフンボルトペンギンそっくりな姿をしてれば。

 それもその筈、だってマガリァンは。

 二代目PPPのフルルを食べた。

 フレンズ型セルリアンご本人なのだから。









 ――今から教えるのは。

 私が笑えなく成った理由、二代目PPPが三人な訳。

 そして、例の異変のこと。

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