終末に笑う君

武上 晴生

世界、続き、木曜日

「いよいよ明日が、世界滅亡の木曜日となりました」

もう1ヶ月も前から予告されていたことだから、今更誰も驚かない。

世界は、静けさに満ちていた。


確かに、始めこそ騒がしかった。

世界が終わる前にあれをやっておきたいだとか、終わるくらいだったら何をしたっていいだろうとか。

でも、次第に、何かを悟った人々は、ものを望まなくなった。

こんなことをしていても仕方がないのだと、この話に続きはないのだと、諦めたように、静かにそのときを待っていた。


そんな世界で、ぼくの前の、君はたった1人笑っていた。

どうしてそんなに楽しそうなのかと問うと、ただ、続きが楽しみなのだと答えた。


「何かが終わるということは、何かが始まるってことなんだよ」


ぼくは、その不思議な話を、黙って聞いていた。

世界が終わったら、何もかもが終わったら、話はきっと分かる、と感じていた。


別れは唐突に訪れた。

日付が変わる前に、どこか遠くへ行ってみたい。終わるまで歩いていたい。君はまた笑った。

でも、君の話は、まだ終わっていないはずだった。

君から、ぼくは何も得ていなかった。


「続きは」


消え入るような声で呼びかけた。


君が、手を振るのが見えた。


「続きは、きっと、木曜日に」

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終末に笑う君 武上 晴生 @haru_takeue

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