31話 でもそれ、ケストナーの『ふたりのロッテ』のパクリだと思うよ
「この男は内田フタバ(2)、守備範囲は歴史で、小学校は同じだったんだけど、フタバは公立中学だったのだ」と、江戸川ミナト(3)は雑にトオコに紹介した。
「改めてよろしく! どこらへんで話に割り込めばいいのか困ったぜ!」と、フタバは男らしく、というか江戸っ子っぽく挨拶した。茶褐色の髪は日の光を受けると一筋だけ金色になり、小泉クルミ(9)よりすこし紫色がかった青い瞳で、汚れが目立たない、小学生の男子が着ていそうな服を着ていた。
「フタバは、えーっと、私(あたし)の父が再婚した新しい母の息子で、私(あたし)とは血が繋がっていない弟」と、クルミは言った。
「クルミ、本当に雑に嘘つくのな。小学校のときより雑さが増してないか」
「ご、ごめんなさい、お兄さま。あっ、私(あたし)が妹のほうがキャラ萌え度高い、とかそんな感じ?」
「それじゃあねえ、クルミちゃんとフタバは双子だったんだけど、小さいときに両親が離婚して、別々に育ったんだけど、中学校の夏休み合同学習キャンプで再会するのね」と、トオコは話はじめた。
「ちょちょ、ちょっと待った。トオコって、嘘、じゃないな、物語が作れるタイプ?」と、ミナトは言った。
「でもそれ、ケストナーの『ふたりのロッテ』のパクリだと思うよ」と、クルミは言った。
「いいんだよ。クルミの設定だって、もうさんざんいろんな物語で使われてきた奴だし。なあ、ミナト」
*
一学期。
だいぶ校内に顔なじみが増えたトオコと、その友だちの小泉クルミ(9)は、図書委員のサポートメンバーである2年生の菊村ムツキ(6)と黒沼ナナコ(7)が、図書室と同じ階にあるふれあいルームで談笑しているのを見た。
彫りの深い顔と精悍な体のムツキと、日本人離れをした体型と容姿を持つナナコが「やだもう、何言ってんの」「そんなことないって。それはありだろ」と、割とどうでもいいテレビのバラエティ番組の中の芸能人美形枠のような、というのがいささか冒涜的だとするなら、アントニーとクレオパトラのような、ジェイドとガーネットのようなふたりは、その関係を知らない者にとっては理想すぎる恋人同士のように見えた。
「なんかねえ、ムツキさんとナナコさん見てると、私(あたし)の中のムカムカ度というか、ムラムラ度のゲージが上がるんですよ。特にふたりだけのときは特に。高貴なバカップルというか」と、小泉クルミ(9)は正直に言った。
「おれたちが恋人同士に見えるのか」と、ムツキは苦笑しながら言った。
「わたしたちは双子のきょうだいなの。小さいときに両親が離婚して、別々に育ったんだけど、中学校の夏休み合同学習キャンプで再会したんだよね」と、ナナコはバカっぽい健康さで笑った。
「それ、あたしの考えた設定だ!」と、トオコは言った。
「何だよその設定ってのは」と、ムツキは首をかしげた。
*
「……というわけなんだ」と、ムツキとナナコはそれなりに長い『ふたりのロッテ・改』に関する話を終えた。
「なるほど、『ふたりのロッテ』ではそっくりな双子なんだけど、おふたりの場合は、体と心が入れ替われる、という、劇場長編名作アニメみたいな設定なんですね。あ、まあその、設定、というのは、なし、で」と、トオコは言った。
「なんかそれ、嘘っぽすぎて信じられません! 試しにやってみてください!」と、クルミは言った。
「いいよ。まず、お互いの手をつないで、ちょっと強く念じるんだ。……ほら、変わった。おれがナナコになってるだろ」と、ナナコ(ムツキ)は言った。
「うーん、正直言って、どっちも知力・体力ともにレベルが同じぐらいなんで、私(あたし)にはわからないです」
復習すると、ふたりのパラメータはこんな感じ。
黒沼ナナコ(7)
つよさ 5
かしこさ 1
まりょく 3
菊村ムツキ(6)
つよさ 5
かしこさ 2
まりょく 2
*
「わたしの名前はカーリー・スー!」と、ムツキ(ナナコ)は言った。
「わかりました。確かに入れ替わってますね」と、クルミは納得した。
*
「実は別に手を繋がなくても、離れてても、お互いが携帯端末の画面に手を添えるだけで中身が入れ替われるんだけどな」と、元に戻ったムツキは言った。
「そうですよね! トイレとか入浴とか不便ですし」と、トオコはいつも持ち歩いている携帯端末サイズのメモ用紙にメモした。
「入浴のときは、こいつの洗い方が大雑把すぎるんで、お互い元の体でやることにしてたのよ」
「だっ、だってそれはしょうがないだろ、思春期の男子としては!」と、ムツキは赤面しながら机を叩いた。
ムツキを好きなのは、同じ2年生で女子力の高い生徒会会長の香山イツカ(5)だった。
ナナコを好きなのは、同じ2年生でいろいろ謎が多い黒幕タイプの大岡シロウ(4)? だった。
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