30話 お姉ちゃんがネットで連載してる『女子高生で学ぶ英単語・英熟語』にも出てきたよ

「しょ、しょうがないわね、クルミが言うならあなたと友だちになってあげてもよくってよ」と、江戸川ミナト(3)はトオコにお嬢様っぽく言った。

「キャラ設定変更?」と、トオコは陽だまりのネコのようにニコニコ笑いながら言った。

「だから設定とか言うなし! こういうキャラでもいいかと思ってやってみただけだし!」と、ミナトは赤くなって、隣の席の小泉クルミ(9)をぽかぽか殴りながら言った。

「ミナトは、真面目だけど恥ずかしがり屋さん、という設定なんだ。」と、クルミはトオコに説明した。

「あー、とてもわかるよクルミちゃん。それから怖がりという属性もある奴ね」とトオコは言った。

「何を言うのだ! 私(わたし)に怖いものは何もない。そりゃ素数はすこし怖いが……100以下だったら……」

「あとミナトはちゃんと領主、っていうか代議士の娘だからお嬢様と言えばお嬢様かな。そう言えば、衆議院議員の定数は479人だっけ」

「うわぁぁぁ……。参議院の定数は偶数、偶数! 落ち着けミナト!」と、ミナトは胸に手を当てながら言った。

「じゃあ3人で仲良しの握手、しようよ。メイク・ア・ループね」と、真ん中の席のクルミは、左隣のトオコに左手を、右隣のミナトに右手を差し出した。

「えーっと、クルミちゃん、それは英語だと「回り道をする」って意味なんだけど……ちゃんと知ってて言ってるの?」と、きらきらの金髪で、いかにも英語ネイティブっぽいトオコは聞き返した。

「当たり前だろ。わざとだよ。お姉ちゃんがネットで連載してる『女子高生で学ぶ英単語・英熟語』にも出てきたよ」

 クルミの斜め前の席にいた、後に源氏イハチ(8)と名乗ることになる少年は、ガタッと音を立てて席から立ち上がった。

「ふーん、そうなんだ! すごいね!」と、トオコは雑な驚きかたをした。

「トオコに姉なんかいたんかい! だいたいあれ連載してるの、おっさんじゃないのか?」と、ミナトはガチでムカつく驚きかたをした。

「元女子高生だけど、おっさんじゃないって。この春から大学院生で、今は同じ家には住んでないけど。ミナトが家に遊びに来てたとき、何度か会ってるはず」

「全然思い出せない。それはクルミの脳内お姉さんだと思うぞ、しっかりしろ、クルミ」

「しょうがないなあ。それじゃあ今度の連休には多分帰ってくると思うから、また改めて紹介するよ」

「そ、そ、それって、連休前までにはお姉さんの話を考える、っていうこと?」と、トオコはちゃんと驚いた。

「とりあえずそれでもいいや、面倒くさいから。じゃ、握手ね」

 ミナトは、差し出されたクルミの右手を、ぱちん、と叩いた。

「それは違う」

     *

「私(わたし)たちが白・発・中三国の首脳だとしよう。トオコが白、クルミが発、私(わたし)が中だ。私(わたし)の右手が、こうやって、クルミの左手と握手するのだ。で、クルミの右手は、トオコの左手と握手する。つまり、クルミの手がクロスする形になるだろ。でもって私(わたし)の左手と、トオコの右手が握手する。うまくできないって、手を半回転ひねればできる。な、これが正しい三者首脳会談後の記念写真のポーズだ。総理大臣になろうと思ってたら覚えておくといいぞ。あっ、そこの、私(わたし)の斜め前にいるちっちゃいの、お前だお前、携帯端末で写真撮って。だから……お前だって言うの、内田フタバ(2)!」

 あいつは昔から、ときどき人の話が聞こえなくなる奴だった、と、ミナトは思った。

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