5・友だちと仲間

29話 そう言えばミナトは素数が苦手なんだったね

 高校一年生になって最初の日。

 小泉クルミ(9)は、またお前かぁ、という感じの江戸川ミナト(3)と、なんか知ってるような知らないような、祭りの半纏が似合いそうな小粋な男子、それに熱心に国語の教科書にさまざまなマーカーで線を引いている男子、そしてキラキラした感じの女子が教室の片隅、自分の机の周囲に配置されているのを知った。

「またお前か」と、ミナトは苦笑いをしながら、それでもすこしうれしそうに言った。

「そうだね、ビューティフル・フレンドシップ、腐れ縁だね」と、クルミが言ったら、クルミの斜め前の席の、どこか外国の辞書っぽい服の男子が素早くメモしたのに、ミナトは気がついた。

「うん。それじゃあたしも、その、友だちにしてもらっていいかな?」と、クルミの隣の席の子が言った。その子がキラキラして見えたのは太陽光のせいだけじゃなくて、本当に蜂蜜を溶かしたような、柔らかくて甘そうな金色の髪のせいだということをクルミは知って喜んだ。その瞳がどんぐり色の、まだ罪を知らないキラキラさであることも嬉しかった。

「もちろん。私(あたし)の名前はクルミ。この学校の中ではね」と、クルミは自己紹介した。

「ちょっと待て。たまたま席が隣だというだけで友だち枠に加わろうというのは図々しすぎるのではないか」と、ミナトは異議をとなえた。

「そんなこと言っても、ミナトだってたまたま、小学校のとき私(あたし)の隣の席だっただけじゃん。なにわがままぶってるんだよ」と、クルミは答えた。

「私(わたし)とクルミが友だちなのは必然。この子の場合はたまたま、だ。まあいい、それではお前が我々の仲間、というか友だちグループにふさわしいかのテストをしてやろう」

「いいよ」と、トオコと名乗ったその子は立ち上がり、キラキラの金髪の頭を下げて、お辞儀をした。

「何か特技とかある?」と、クルミは聞いた。

「私(わたし)を納得させるだけの特技とかな」と、ミナトはえらそうに言った。

「えーっと、素数が言えるというのは?」

「どこまで?」と、クルミはわくわくして聞いた。

「クルミちゃんが、もういい、って言うまで。2、3 、5、7、11、13、17……」

 ミナトは見る見る顔が青ざめ、71まで行くと机にうつ伏せになり、113になったところで弱々しく「もう…その特技は…やめるのだ」と、言った。

「えー? なにこの子、マジ受けるんですけど?」と、トオコは嘘っぽく言った。

「何年前の高校生を想定してセリフ作ってんの? そう言えばミナトは素数が苦手なんだったね、思い出したよ」

「素数アレルギー?」

「そんな生易しいものではない! 素数恐怖症、素数フォビアだ。ヒトとして素数が怖くないものがあろうか! 否、断じて否である、と、私(わたし)は強く主張したい。そもそもフランス革命の1789年、大日本帝国憲法公布の1889年のどちらも素数というのは許しがたい宇宙人の陰謀であって……」

「いい加減にして!」と、クルミは机を叩いて威嚇した。

「ミナトはスピーチモードになると止まらないんだから。もう、トオコは私(わたし)の友だちだから、ミナトもトオコの友だちだよ?」

「やった!」と、トオコは東山奈央を意識した声で小さく言ってガッツポーズをした。

 左に天使、右に悪魔(小悪魔)か、と、クルミは思った。

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