4-5話 あなたは路上でバナナを持った暴漢に襲われている一般人を見かけました
10分程度の対人あるいは対AI(人工知能)のチューリングテストを、小泉クルミ(9)とその仲間たちが、トオコ(仮)に対しておこなった結果は、「われわれとトオコのどちらが現在AIかわからない」という結論に達した。
「それって、あたしがAIじゃなかったとしたら、やっぱあんたたちがAIってことじゃん! やった!」と、モニターの中の、どうみてもバーチャルネットアイドルのアニメっぽいトオコ(仮)は、ぴょんぴょん跳ねながら言った。
昼休みはまだ時間があったので、図書室サポーターの2年生組、香山イツカ(5)・菊村ムツキ(6)・黒沼ナナコ(7)・大岡シロウ(4)の4人は、それじゃおれたち、別のところで食事するから、と言って生徒会室から立ち去り、残った1年生組、小泉クルミ(9)・江戸川ミナト(3)・源氏イハチ(8)・内田フタバ(2)の4人は、筆記によるチューリングテストを試しにやってみた。
新メンバーのトオルは、おれ、そういうのどうでもいいから、ということで参加しなかった。
4人は、おにぎり、サンドイッチ、ファラフェル(ひよこ豆コロッケ)パン、ハンバーガーといった、片手で食べられるものを手にして、がしがしと問題用紙を見ながら解答用紙に書き込み、ふたりずつの組になって解答用紙を交換して採点した。
*
「つれーわー、チューリングテストまじつらいわー」と、江戸川ミナト(3)は焦点の定まらない、魂が抜けた瞳で天井を見ながら言った。
「わっ、58点。ミナト、ひっくーい」と、小泉クルミ(9)は鼻で笑った。
「そういうお前だって64点、似たようなものではないか」と、ミナトは怒った。
「でも、あの問題の配点がそもそもおかしいんだよ。「あなたは自分がAIだと思いますか」というのに「ノー」って答えると、それだけでマイナス30点なんだから」
「テストの結果は要するにふたりとも「あなたがAIであるか否かは不明です」の範囲内だったな」と、ミナトは言った。
「なんでこんだけ差がついたかというと、ミナトは「わからない」って選択が多いからだって、一応確認しとくね。あと「わからない」の選択肢のあとに「!」を入れて、力強く断言する必要あんの?」と、容赦ないクルミは言った。
『問18:あなたは路上でバナナを持った暴漢に襲われている一般人を見かけました。どうしますか?』
『通報する・逃げる・一般人を助ける・わからない(!)』
「こんな設定と設問があるか。だいたい暴漢がバナナを持ってるなんて……いや、たとえば凍ったバナナなら十分に凶器になる上、あとで食べてしまえば証拠隠滅……」と言いかけたミナトは、生徒会室のドアを開けて、バナナを持った暴漢が入ってくるのを見て仰天して、座っていたパイプ椅子からガタッと音を立てて立ち上がった。
「俺の実在性を疑う奴は誰だ! まずはそいつからだ!」と、暴漢は言った。
身長2メートル体重0.15トンぐらいありそうな暴漢の手の中のバナナは、黄色い爪楊枝のようだった。
震えながらも素早くミナトはクルミの後ろ側に回った。というよりはっきり言ってクルミを盾にした。
イハチはフタバの前に回って、自分のバッグの中をひっくり返して武器になりそうなものを探した。数丁の銃器と数種類の刀剣類が出た。しかしいずれも偽拳銃と刃を殺してある武器で、本気で人を殺傷できるようなものではなかった。
フタバは小さいほうの携帯端末を取り出して、警察関係に通報していた。だが関係者が来るころには4人残らず惨殺されているだろう。
「待てまてまてぃ! うろたえるでない町人ども! こうなった時の対策は半世紀も前にブリテン人が考えてある」とクルミは、恐れを知らない人間のように言った。
「まず暴漢からバナナを奪う! 皮をむく! 食べる! 暴漢の前にバナナの皮を置く!」
暴漢は、この野郎、と殴りかかるところで、バナナの皮で派手にすっころび、実在と不在の曖昧な境界の中に消えた。
「マジ怖かったのだクルミ! これからあなたの実在を疑ったりなんか決してしない」と、ミナトは涙目でクルミの首にすがりついた。
「疑ってたんかい!」と、クルミは言った。
まあいずれにしても、私(あたし)たちが人工知能かどうかはわからないな、とも、クルミは思った。
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