4-4話 や、やあ、みんな、お久しぶり
ネバダ州と日本の東京都の時差は16時間で、昼の12時は向こうでは前日の夜8時になる。
ちょうど修理作業が一段落した工学系の新生徒会長・香山イツカ(5)、その仲間の農民・菊村ムツキ(6)、カリスマ系お嬢様の黒沼ナナコ(7)、何考えてるかわかんない黒幕の大岡シロウ(4)の4人の2年生メンバーは、5人の1年生メンバーと共に、生徒会室に置かれた非携帯系の大きい通信端末の前に座った。
3年生メンバーの鮎川ミレイ(0)は、ごめん、昼休みは図書室利用者の対応しなければいけないんで、ということで、その場にはいなかった。
同じく、3年生メンバーの生島ヒナタ(1)は、ミレイの話によるとこれから家を出る、とのことで、やはりいなかった。
「リアル映像トークなんて、友だちともしたことないんで、なんかドキドキするね」と、1年生の小泉クルミ(9)は言った。
「ネットアイドル以外の普通の人はしないけど、面白そうなのでちゃーんとアメリカにいるトオコを呼び出してみるのだ。生きてるのがこれで確認できる」と、江戸川ミナト(3)は言った。
*
「や、やあ、みんな、お久しぶり」と、モニターの中の、トオコと認識できるキャラクターは言った。
「これは……」と、ミナトは首をひねった。
「これは……?」と、源氏イハチ(8)は口元を押さえた。
「これは……!」と、内田フタバ(2)は驚愕した。
「な、なんか変かな?」と、トオコ(仮)は言葉を続け、もじもじしながらまばたきを一度、しばらく間を置いて二度、おこなった。
「変どころか、あんた、バーチャルネットアイドルだよ! アニメとかゲームの絵が動いてるぐらいに実在感ないよ!」と、小泉クルミ(9)は拳で机を叩いた。
「そんなことない! あたしはちゃんと実在するって! それならむしろあんたたちのほうがアニメのキャラクターっぽく、あたしのほうには見えるんだけど」と、トオコ(仮)はモーションをつけながら力説した。
「なるほど、これは興味深い技術ですね。つまり、実在する人物の動きに合わせて、情報データを再構成してる。トオコさん、悪いんだけど立ち上がって、くるっ、って回ってみてくれませんか」と、イツカは工学的興味を持って尋ね、トオコ(仮)は言われたとおりにした。
トオコ(仮)の、ふわふわとしてすこしウェーブがかかっている蜂蜜色の髪は、ネットアイドルっぽい淡い水色のワンピースの裾の動きと合わせるように、非実在的にふわっと回転して、ふわっと止まった。
「単純なヒトの動きだけなら、ひと昔前でも、体のあちこちに動作認識デバイスをつけることで可能だったんだけど……これに関する自分の解釈は、今の時点でのトオコはAI(人工知能)の可能性が高い?」と、シロウは言った。
「うむ、冥界に属する存在か。私(わたし)にはそこまで強く断言はできないが、何かあなたの実在の担保となるものはないか」と、ミナトは言った。
「えー? そ、そうだ、ネコがたくさんいるよ。画像見せるよ」
トオコ(仮)は、さまざまな大きさのネコを撮った画像を十枚ほど見せた。
「……これはフリー素材として流通してるネコ画像じゃねぇかよ。この、洪水で水の中泳いでるネコとか、ドアノブがつけかえられて抗議しているネコとか、何度も見たぜ」と、ネコ(645.7)が守備範囲のムツキは力強く断言した。
「ねぇ、別にAIでもいいんだよ、トオコちゃん。もう……そんなに無理しなくても……犯人は必ずこの私(あたし)が」と、すこし涙目をしてクルミは、女装男子のトオルのほうを見ながら言った。
「十分に進化したAIは、自分をAIと認識することが不可能?」と、シロウは言った。
「ふんふんふーん。だったらあんたたちのほうがAIだっていいわけだよね」と、トオコ(仮)は答えた。
「何を馬鹿なことを言うのだ。我々がAIなわけがなかろう」と、ミナトは言った。
「あ」「う」「え」と、クルミ・イハチ・フタバの3人は言ってお互いの顔を見合って、次にミナトの顔を見て、最後に読者のほうを見た。
「はっはっはっ、愚かにも程がある」と、ミナトは引き続き笑っていたが、その顔は若干引きつっていた。
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