17話 図書室に来れば、イツカの手作りクッキーが食べ放題だぞ!

香山イツカ(5)

つよさ  2

かしこさ 4

まりょく 5


 相変わらず全校集会の出席率は悪いな、と、きっちり系の江戸川ミナト(3)は体育館のステージに設けられた副会長席に座って思った。いつもより違う、すこしかかとのある靴を選んだのは、別に新会長と並ぶと自分がやや小さめに見えるからではなく、立っているときの姿勢がかっこいいからだ。俗っぽい言いかたをすると、尻が小さく見える。嘘だと思うならあなたもかかとのある靴を履いて立ってみるといい。なお、歩くときもかっこいいけど、そんなに長い距離は歩けない。ステージの端から端までぐらいかな。

 一学期の最後の週に新会長の選挙がおこなわれ、順当に一年生のときの副会長で、今は二年生であるゆるふわ系の香山イツカ(5)が選ばれたため、夏休みの間からイツカは新会長なのだが、月に2回ある全校集会でのスピーチはこれがはじめてのことだった。

「はーい、みなさん、新学期がはじまりましたね! みんなの夏休みは楽しかったかな? そう言えば私の夏休みは……えっとですね……えっと、秘密です!」と壇上のイツカは、ゆるく手短に話を終わらせた。

 集会に参加している全員は、リアルボーナスアイテムとして配られた「みちびきのたて」という名前の厚紙のうちわ型段ボールを手にして、顔や体に風を送っていた。

 イツカたちの高校は、毎日ショートホームルームに参加するとリアルログインボーナスがもらえて、始業式などの特別イベントには特別アイテムがもらえる。MMORPGみたいなもんかな。なおログインボーナスはトレードも現金化もできないポイントで、これがあまり溜まってない人は特訓が課せられる。

 全校集会という名前だが、来てるのは3分の1ぐらいか。まあそのあとのクラス別ホームルームは大半が集まるだろう、と、ミナトは考えた。さらに短い前髪を、もうすこしヒロインだったら長くするもんだろうか、とも考えながら引っぱってみた。

 生徒会長は原則として二年生が選ばれ、ゆるきつの法則で代々受け継がれている。要するに、ゆるい会長のあとはきっちりした会長ということだ。そして、イツカは場の雰囲気をゆるいものにしていた。直立して話を聞いている者はあまりおらず、いても仲間と「それやばくね?」的な頭の悪い私語を小声でしている。床に座っている者や、中には体育用マットを敷いて寝転んでいる者もいる。これはさすがにまずいかもなあ、と、イツカは思った。このような軍、いやそれ以前の蛮人を率いてローマと戦えるのか。とはいえ勇猛果敢なスパルタはローマに滅ぼされ、ローマは蛮人の群れによって滅ぼされたんだから、ま、いっか、という気持ちにもなった。イツカ自身も体育会系のノリは嫌いだったし、熱くて狭い、整備中の自動車の底のようなところは好きだったが、広くて生ぬるい体育館は苦手だった。そもそも運動そのものが。

「それでは、新学期の伝達事項を、新副会長のミナトからお伝えします。ではどうぞ!」と言って、イツカはステージの中央にある壇とマイクから離れ、会長席にたらたらと戻り、ミナトはつかつかとマイクに向かって、すれ違いざまにイツカに対して、大岡シロウ(4)にお願いされた通りのことをした。

 つまり、イツカのうなじに指を当てて軽くさわり、何かをつまむようにして指をなめ、マイクでこう言った。

「クッキー、ついてた」

 な、な、な、な、と、イツカは驚いて頭の中が白くなり、次にまっかっかになって、それは顔から体全体に広がった。ステージに立つ前に何度も鏡を見て、そのような失策がないよう、身だしなみを確認したはずなのに。

「図書室に来れば、イツカの手作りクッキーが食べ放題だぞ!」とミナトは言い、その場にいた全員が立ち話やごろ寝をやめてミナトに注目した。

 ミナトも他の者と同じく、れっきとした図書室のサポートメンバーのひとりだったのだ。

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