13話 これは誰の犯罪の証拠物件ですか、ムツキ?

 物語というのは、書きはじめる前から作者はいろいろなことを考えておく。この人はこういう性格だからこんなことはしないだろう、こういうことはするだろう、この子はこの子が好きだからこう動くだろう、誰と誰は仲が悪いからこういうことを言うけれど、実は別に仲が悪いわけじゃなくて、とかだいたいのこと。

 この物語は、異能バトルとか異世界の話ではなく学園ラブコメのはずなので、ユニークスキルとかややこしいこと考えなくてもいいんだけど(各人の守備範囲、得意範囲はざっくり決めておく)、誰と誰を一緒にするか、ってのは、話を考えていてもちゃんとできないんだよね。物語の中で登場人物たちが勝手に行動しちゃうから。この話だと、まあざっと10+2人いるよね。男女6人ずつ。自分の趣味としては同性を好きな子を出したいんだけど、そうすると男男・女女の2組がそういう関係になるってのは、世間的に多すぎないか。6組中2組だよ。

 なお、左利きの子は、世間の率に合わせてひとりいます。黒沼ナナコ(7)。オリジナル設定にないけど、スポーツ得意な子ならいいかな、とか思った。

     *

「これはひょっとして金属探知機なのかな」

 正常に作動しない、図書室のある階の階段に設けられた図書館資料の持ち出しチェックセンサーをいじってる香山イツカ(5)を見て、鮎川ミレイ(0)は言った。

「それそれそれ! まさにそれ! 多分私(わたくし)が持っていたクッキーの箱に反応したんですね。目的は対テロリスト対策です。短機関銃や日本刀を持ったテロリストが図書室に乱入してきても大丈夫なように」と、香山イツカ(5)は言った。

「そんなこと日本では滅多にないだろ。でもおかしいな、俺は金属っぽいもの持ってないけど。携帯端末や家の鍵でも反応するんだっけ」と、菊村ムツキ(6)は反論した。

 念のために、金属っぽいものを全部外して、ムツキはセンサーのところを通ってみた。

「鳴るな」

「鳴りますね」

「なんで鳴るんだよ」

 ミレイとイツカはムツキのボディと持ち物チェックをして、うす青いファスナー付きのプラスチック・バッグと、その中に入っているものが原因だと判明した。

「クッキーだな」

「クッキーですね。これは誰の犯罪の証拠物件ですか、ムツキ?」

「あー、あー、それは、名状しがたい、冒涜的な、ある存在の……」

「うん、わかった、大岡シロウ(4)か。しかし君とシロウとは仲悪かったのでは?」と、ミレイはムツキに言った。

「仲悪くても図書室は好きなんだよ! 放っておいてくれよ!」

 今朝起きると、ムツキの携帯端末にシロウからの連絡が入っていて、それに従ってムツキは自宅の郵便箱から、指定されたとおりにクッキーの入っている袋を受け取ったのだった。

 ミレイ・イツカ・ムツキの3人は共同でセンサーのところに立入禁止のロープを貼り、雑談室でクッキーの出来具合を確認した。

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