12話 やっ、やめろよミレイ、こんなところで

 ところで、学校に限らず図書館・図書室の利用率が今イチ高くない理由に、資料になりそうな高くて重い本は貸し出ししないのと、原則飲み食い禁止(蓋が締まるペットボトルみたいなものは可)・雑談禁止、というのもあるんじゃないかと思う。

 それをなんとかするために、普通の図書館もいろいろやってる。飲食・雑談できるコーナーを館内に設けるとか。要は、建物の中に図書館と飲み食い・雑談できる施設やスペースを作り、その建物の出入口のところに、勝手に図書館の本を持っていったらビーとかブーとか鳴って赤く光るセンサーをつけておけばいい。

 夏休み中に業者の手を借りて、鮎川ミレイ(0)が通っている高校の、ミレイがほぼ管理している図書室もそんな感じになった。

 つまり、図書室のある階には図書準備室と視聴覚準備室、それにかつては書道準備室で今は空き教室となっている雑談室があるのだが、図書室の出入口のところにあった持ち出しチェックセンサーを、階段のところに移したのだ。そのことによって、飲み食い・雑談ができる雑談室で、外部持ち出し不可の資料も利用できるようになった。

 図書室のサポートメンバーである香山イツカ(5)と菊村ムツキ(6)が、手作りクッキーを持ってミレイのところに行ったのも、雑談室の利用者のためだった。

 クッキーとかピーナツとか乾き物を、そのまま雑談室に放置すると変なことする人がいるかもしれないので、図書室のカウンターにケースつきで置いておいて、雑談室を利用したい人が持っていくようにしようかな、というのがミレイの案だった。

     *

「うーん、これはセンサーがなんかおかしいんですね」と、イツカは、下の生徒会室から工具箱と一緒に持って来た遠視鏡(老眼鏡とほぼ同じですけどね)をかけて、ミレイに話しかけた。イツカは素の美人というほどではないが、アニメだったら複数ヒロインの一人にはなれる程度の整った顔立ちの工学系女子だった。図書室に行く途中で転んだためやや埃っぽくなっているとはいえ、瞳が大きく見える眼鏡と作業に集中している顔つきは、なかなかの眼鏡美人ぶりだな、と、ムツキは思った。

「ほらほら、泣いちゃだめだろ、男の子なんだから」と、埃だらけの通路に半身を横にしているムツキに、ミレイは言った。

 イツカより身長も体重も大きい(日本男子の平均よりも大きめな)ムツキは、イツカよりだいぶ派手に転んだうえ、ミレイが支えて図書室まで連れていけるほどの大きさではなかったため、救急箱を持ってミレイのほうが廊下のムツキのところまで行ったのだった。

「ふむ、打撲による青あざはあるけど、捻挫と骨折はないようだな」

「やっ、やめろよミレイ、こんなところで。いたっ、痛いっつーの。もう、もうちょっと優しくできねぇのかよ。イツカが見てるじゃないか」

「…………うるさい、です!」と、イツカは怒った。

「とりあえず、キープアウトのテープと張り紙して、業者に連絡しましょう。週明けには来て直してくれるとは思いますが、臨時の補修は、全校集会が終わったら私(わたくし)が、ちゃっちゃっと、そうだな、1時間ぐらい? でやっておきます」と、イツカは続けて言った。

「これで新設備の問題点がわかった。つまり」と、ミレイは言った。

「私(わたくし)にもわかりました。つまり……つまり……つまりそれは」

「図書室が使えないと雑談室も使えない、ってことか」と、ムツキはあっさり言った。

 図書室と雑談室が同時に使えるということは、同時に使えなくなる、ということだった。

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