3話 僕が図書委員でなければ、いったい誰がこんなところに来るだろう
同時刻。
鮎川ミレイ(0)は赤鉄鉱色の髪と、鋭利さを感じさせる鉄柘榴石色の瞳を持つ、ややえらそうな男子で、図書委員長だった。
9月の学校がはじまる日の早朝、高校の図書室でミレイは新しく入った本の整理をしていた。新しい本は週に2回、大学の図書館に収められ、その中から高校の図書館にあってもいいような本・あったほうがいい本が週に1回回ってくる。汚れが目立たない程度の高校生っぽい服と、気配が消せる図書室用のエプロンをかけて、図書室のカウンターでミレイは黙々と(粛々と、でも問題ないのかな。『小説の言葉尻をとらえてみた』の著者・飯間浩明さんに聞いてみよう)中身を確認して、面白そうな本を何冊か自分用に選んで、棚に並べられるようにしていた。
通常の作業としては一緒に働いてくれる図書委員のメンバーや、サポートしてくれる図書室ギルド(仮)がせっせと、貸し出し・返却処理作業もいるのだが、夏休みの間はみんなそれぞれの事情があるのでそんなにボランティアには期待できない。おまけにおそらく始業式の日の午後は、夏休み中に読まれた本が返されたり、新学期から読む本を借りる人もいるだろうから、通常の5割増しの作業が想定される。
とはいえ、高校の図書委員の仕事は暇だった。
足を伸ばせば近くに地域の公立図書館の、それなりの規模の分室もあるし、すぐ隣の大学図書館も付属高校の生徒なら利用できる。しかし一番の問題は、紙に印刷された書籍を好んで読む者は、絶滅危惧種(レッドデータブック系)ということだ。
僕が図書委員でなければ、いったい誰がこんなところに来るだろう、と、ミレイはすこし思って、眼鏡の鼻に当たる部分を左手で触れて動かした。ただし、口には出さなかった。それはどう考えてもやりすぎだし、んー、なんて言うのかな、キャラ設定が安定するまでやめておこう、ぐらいな感じだ。
図書室は高校の特別棟の最上階にあり、同じ階には図書準備室と視聴覚準備室、それにかつては書道準備室で今は空き教室となっている雑談室(いくつかの生産系ギルド? の集会場所。机とテーブルと畳敷きのコーナーつき)もあった。
残暑はまだまだ続くだろう。ミレイは朝日の当たる側の、上下に動くカーテンを全部閉めてから半分開け、空調を動かすべきかどうか考えた。図書室の温度は通常、そこに一番長くいる者、つまり図書委員の受付担当者が勝手に決めていいことになっている。机は複数の者が調べ物をしたり攻略作戦図が広げられる程度の大きさのものがひとつと、4人がけのものがいくつか、それに日の当たりすぎない場所にはひとりがけの自習用のものもいくつか置かれていた。
まあそれは、直射日光が嫌いな誰かが来たらまた考えよう、と、ミレイは思った。
*
突然、カウンターのところにあった警報器が空襲警報なみの勢いでわんわんと鳴り、赤いランプが点灯しながら図書館を照らしたので、ミレイは驚いた。空襲ということはないので火事か地震か逃亡した連続殺人犯だろうか。
ああ、そう言えば図書室の設備が新しくなって、今朝から作動したんだな、と、ミレイは気がついた。
ミレイが本の整理に集中するのをやめて、カーテンのところに向かったとき、確かに、たったったっ、という音、どたという音、きゃっという小さな声が聞こえたのだった。
「……はじまったな」と、ミレイは言って肩と手を、やれやれ、という感じで上下に動かしてみたが、そのポーズのあまりのリアル感のなさは、作者が呆れてしまうぐらいのレベルだった。
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