新たなる地平へ:白の王Ⅱ
ローレンシア連盟国家エル・トゥーレの設立から、アルカディアの英雄白騎士ウィリアムと第一王女クラウディアの婚約。そして、エードゥアルト王の崩御。この年は立て続けに国家規模の事件が巻き起こり、最後の締めくくりに今がある。
白騎士改め白の王の誕生。正式な結婚式と戴冠式が同時に行われる。最後の最後でこれほど大きな、めでたい事件はアルカディア国民を熱狂させるには充分な燃料と成った。
この式典を一目見るため遠方から押し寄せるアルカディアの民。王宮周辺は人で埋め尽くされており、警護するのも一苦労といった様子。
王としてウィリアムの最初の仕事は、式典の本会場に入場させる人選であった。当初はラファエルを含む部下たちが無作為に、と言いつつ貴族中心の人選を行おうとしていたが、ウィリアムはそれをやめさせて、完全無作為でやらせた。さすがに他国の招待客、貴賓たちの席は確保したものの、王宮の広場で蠢く人々に統一性はない。
貴族、市民、農民、奴隷、千差万別の状況に当の本人たちが困惑していた。
貴族たちは不満に思っただろう。なぜ自分たちが会場に入れず、市民や農民、果ては奴隷まで王宮に足を踏み入れているのかを。市民らは不満に感じただろう。何故、農民や奴隷が立ち入り自分たちは入れないのかを。農民も同じ。
彼らは口では何と言おうともこの格差を当たり前のものとして生きてきた。下の階層を同じ生き物として見ていない。感じていない。だから人は同じ人であっても下の身分を虐げることに何の疑問も抱かないのだ。
それが世界の当り前。そしてそれが今日明日で崩れることはない。当たり前ほど強固な価値観は存在しないのだから。それでも、ヒビは入る。異人がこの国の王と成る。市民の最下層から貴族へ、そして王と成った『人』がいる。
その実績こそが第一歩。実績を積み上げた先に新たな『当たり前』が生まれるのだ。
アルカディアが、世界が注目する戴冠式。この場でかの英雄は何を語るのか。今後の抱負か、それとも過去の武勇伝か、最初の一歩を見逃さぬために各国も首脳陣を送り込んでいた。ガリアスならばリディアーヌ、エスタードは二代目エル・シド、ネーデルクスはマルサスをはじめとした三貴士全員と新世代たち。ヴァルホールは第一王妃が構える。
世界が注視する中、ようやく、今日の主役が現れる。
白き仮面、白の装束、一歩引いた位置で付き従うクラウディアの美貌も常軌を逸しているが、それでも主役が誰かは誰の目にも明らかであった。風にそよぎ、たなびくマント。胸の中心で光る大粒のルビーは遠く離れていても消えぬ炎を浮かべていた。
何よりも彼を際立たせる衣装、その隅々にまで想いが込められたそれこそ今日のウィリアムが持つ最強の武器。クラウディアという生まれついての美貌と存在感に対抗するための切り札こそ、今は亡きアルカス最高のブランドを誇るローザリンデの主にして、それをまとう男の番いであったルトガルド・フォン・リウィウスが用意した最後にして最高の作品。英雄を王者へ、覇王へと仕立て上げる衣装であった。
歩くたびに、近づくたびに、どの角度からでも最高の見栄えが堪能できる。
王が全てを睥睨できる王宮の演説台に立つ。今日のウィリアムはクラウディアすら凌ぐ存在感を手にしていた。生来の資質で劣れども、最愛が用意した衣装と積み重ねてきた英雄としての功績が、生まれ持った『力』を凌駕する。
今日、最も輝いている者が王冠を得る。それが最初の当り前。
フェリクスが王冠を抱き台上に現れた。彼もまた早々に屈服した者の一人。自身の弟であるエアハルトに対する強烈なコンプレックスが、ウィリアムが彼を上回ったことにより薄れ、同時に王冠への興味も失われた。どうせ勝てない。自分がどうしても勝てなかったエアハルトを凌駕した男になど勝てるわけがない。
ゆえに彼は退いた。今日は王冠をここに持ってくる役割。それ以上でもそれ以下でもない。王族の長子がこのザマなのは笑いどころだが、そんな侮蔑など飽きるほどに浴びてきた彼にとって気にもならない。
「亡き、エードゥアルト王陛下の遺言にはこう書かれていた。次代の王冠はこの国で最も強き英雄に抱かせよ、と。貴族会にてこの解釈で割れることはなかった。市井においても同様であろう。疑問の余地などありえない。次の王はただ一人、これは先王の指名である!」
王宮が歓声で沸いた。皆口々に「ウィリアム万歳!」「アルカディア王万歳」とはやし立てる。フライング気味であるが、それを咎めることの出来る者はこの場にいなかった。
「次なる王、ウィリアム陛下に王冠を!」
誰かの叫び。其処から口々に波紋する賛同の声。
フェリクスは静かに王冠を掲げた。その所作だけで歓声が高まる。
それと同時にウィリアムは仮面を脱ぐ。もう二度とつけることのないそれを、そのために設置された小さな丸机の上にそっと置いた。そして膝を屈し、頭は傾ける。
ウィリアムの素顔が披露され、民衆はさらに沸いた。もはやいつ熱が暴走してもおかしくないほどに高まった雰囲気。
そんな中で、フェリクスは王冠を次の王へ授ける。そのまま敗者である男は静かに台上から身を引いた。これで、本当に己が役目は終わったのである。
王冠を戴き立ち上がる王者。歓声が絶頂を迎えた。
○
「すげーことになってんな。おい大根役者、いつまでも暴れんな」
「放せ人さらい! 鬼、悪魔、馬鹿!」
「最後の以外誉め言葉だな。ほれ、ベルンバッハ御一行様の席だぞ」
「行かないって言ってるの! やっぱ馬鹿クロードは馬鹿だった。情緒がわかってない!」
「あー! マリアンネ何してますの!? みんな心配していたのよ!」
ベルンバッハ家十一女にして十二女マリアンネの天敵であるガブリエーレがマリアンネに気づいた。「ゲェ! ガブリエーレだ」とマリアンネはこの世の終わりのような顔をする。対するガブリエーレはマリアンネを持ち上げているのがクロードだと気づき頬を染めた。妙にくねくねした動きで間を詰めてくる。
「あら、クロード様。そのような馬鹿娘などどこぞへ放ってわたくしと式典を観覧しませんこと? そちらにその馬鹿娘分の席がございますの」
「人の友達に色目使ってんじゃねーぞ行き遅れ」
マリアンネの発言にガブリエーレの頬は程よい赤みから一転、真っ赤に変化した。その背後ではエルネスタが流れ矢で撃沈していたが、二人の猛獣は意にも返さない。
「わ、わたくしが袖にしただけで行き遅れてなどいませんわ。その後たまたま縁談がまとまらずにいますけれど、未だに週五で恋文が届きますわよ」
「行き遅れてるのは事実だもん」
「そっちこそ行き遅れているでしょうに。一度もお付き合いすらしたことないでしょ!」
「マリアンネは独身貴族だからね。仕方ないの」
かなり前に主人と破局したガブリエーレはベルンバッハの家に戻りマリアンネと一緒に暮らす行き遅れ同盟に名を連ねていた。ヴィルヘルミーナの主人でありベルンバッハの主である侯爵は賑やかでいいね、と言っていたが、旦那との蜜月を邪魔され続けているヴィルヘルミーナ自身は何度も堪忍袋の緒が切れている。
「クロード君、マリアンネをいつもありがとう。僕の席で良ければ座るかい?」
「お気遣いだけ頂いておきます、侯爵。おい、マリアンネ、そろそろ落ち着け」
「にゃによ!」
気づけば掴み合いの喧嘩と化していた二人はクロードに視線を向けた。
「あの人が話す。それを聞くために皆此処にいる。お前だってそうだろーが。本当に嫌なら、もっと本気で暴れただろ? そうじゃねーから連れてきたんだ」
むすっとするマリアンネは「馬鹿のくせに」と悪態をついていた。
「大人になったのね、クロード君」
テレージアの微笑みにクロードは赤面して「そ、そんなことないっす」と否定した。姉とか母性とか、彼はそういうものに非常に弱い性質を持っていたのだ。
「さあ、王が語るよ。ベルンバッハに多くをもたらした英雄が、今度はこの国に何をもたらすのか、一言でさえ静聴するに値する。彼の一言は世界を変えるからね」
ベルンバッハの主人である男は優しげに妻の肩を抱いた。きっと彼女は複雑な胸中であろうと察したから。もしかすると彼がこちらに座っていることもあったのだろうか、もう一人の妹共に、幸せそうな笑みを浮かべながら。
王が最前に立ち、手を広げた。その瞬間、騒ぎが一瞬で消し飛ぶ。
静寂がこの場を支配する。
○
「この世は平等ではない」
王の口から最初に飛び出してきた言葉。誰もがそれを願い、それに反し誰もがそれを求めていない矛盾をはらんだ言葉。平等を否定する発言。
「グラスになみなみと満ちたぶどう酒を呷る者がいれば、幾度も足踏みされた泥水をすする者もいる。暖かな毛皮に身を包む者もおれば、薄っぺらな襤褸を纏う者もいる」
地の底から這い上がってきた男の言葉だからこそ、それは真に迫って聞こえた。
「この世は幸福ではない」
幸福とは何であろうか。何処からが幸福で、どこまでが不幸か。誰にも分からない。平等と同じである。同じ人間はいない。同じ環境もない。必ず、双子であっても違う時を生きる。ならば、その定義を定めることは出来ないし、比べようとすれば必ず歪みが生まれる。それが本来ならば総合的に平等であっても、不平等を感じさせる、不幸を感じさせる要因と成ることもある。
ゆえに王はそれを『ない』と言った。
「生まれた瞬間、人は格差の海に落ちる。金持ちの子、貧乏な子、貴族の子、農夫の子、奴隷の子。奴隷に生れ落ちたが最後、這い上がることを上は良しとしない」
指示を出す者、受ける者。考える者、動く者。人が生きる上で存在する役割分担。それが原初の身分であった。群れをよりよく、効率的に動かすために人はわかりやすく身分を設け、よほどのことがない限りそれを変動させないようにした。そうすることで世の中がわかりやすくなり、自身の役割に対して習熟度が上がり、それが代々引き継がれるようになった。お前は力持ちだから石を積め。私は頭がいいから指示を出す。農夫ならば畑を耕せ、商人はそれを回してこい。
効率のための役割分担であったはずのそれが、いつしか差別の温床と成った。差別によって上下が生まれた。それゆえ本来の適性を無視して、下へ落ちたくないからと上下への変動を厳しく制限した。自分が落ちたくないから。そういうシステムを作った。
「この世は残酷である」
システムによって当たり前と成った差別。それによって上位者は下位者に対して同じ存在だと認識しなくなった。虐げることに疑問を持たぬようになり、酷使して死んでも牛馬が死んだのと同じ程度の感覚と成る。貴族は市民以下の下位者をそう見るし、市民は農民以下をそう見る。農民は奴隷を。奴隷は、より弱い者を探す。例えば子供、などを。
人は誰かに虐げられ、それを我慢できるほど強くない。それは必ず別の方へ飛散する。
「誰かの幸せは誰かの不幸せ。一定量の|資源(リソース)をめぐり、人は争い、奪い、殺す。生きるとは屍の上で踊ることである」
ならば世界を変えるためにシステムを変更すればいい。だが、それは出来ないのだ。システムによって効率化が進み、中途であるが発展した世界。これを維持するためには誰かが割を食わねばならない。それを押し付けるための身分。維持するためのシステム。
世界には一定量の資源しかない。平等に全てを満足させるよう分け与えるには、とてもではないが足りないのが現状。自分の生活水準を落としてまで分け与えられる者がこの会場にどれほどいるだろうか。水準を落とさず、分け与え、平等を目指す。
まさに絵空事。理想とはかくも遠い。
ただ生きることさえ出来ない者の上に成り立つ世界が今。今生きる者すべては、どこかで死んだ誰かの分、奪い、喰らい、生きている。
死体の上で生きている。そうとは知らずに、知ろうともせずに。
「狂え、喰らえ、犯せ、殺せ」
狂わねば生きられない。正常で、平等な視点を持つほどにこの世界は狂って見える。どこかで妥協する必要があるのだ。眼を背ける必要があるのだ。幸せを享受するためには。誰かの死から眼をそらし笑う『力』が要る。
「この世は、地獄である」
会場中が静まり返っていた。誰もが王の真意を掴めない。お祝いムードは完全に消えていた。彼が突き付けてくるのは刃、言葉の暴力。彼が身をもって味わってきた歪みを曝け出し、維持してきたシステムを破壊するかの如し愚行。
ほんの少しでも上に立つ者は恐怖する。この王が、何を考え、何を目指すのか。場合によっては奪われる前に抗わねば、そんな気持ちにさせていた。
「ゆえに! 我が使命は明白。変えることだ」
変える方法如何によっては――貴族たちは睨むような視線を向けていた。そもそも背後に立つクラウディアが面白くなさそうな顔で王の背を見ているのだ。
「この世を楽園とする。いつか世界に平等を与えてみせる。誰もが狂わず、誰もが満たされている世界を。奴隷も貴族も関係ない。全てが幸福を享受する世界を目指す。民たちよ、諦める必要などない。甘んじることもない。この私が導こう。今、私たちが享受する幸福など、満足など、通過点でしかない。より高みへ、王が喰らい切れぬほどの幸福を、貴族が吐き出すほどの満足を、市民が、農民が、奴隷が、享受し切れぬほどに私が満たして見せる。千年後、世界は知るだろう。万年後、それが当たり前となっている。私の目指す先に妥協はない。妥協などさせない。このローレンシア、全てを満たすのが我が覇道だ!」
それは理想論であった。誰もが、もはや夢とも思わなくなった理想の果て。しかしこの男は当たり前のようにそれを口ずさむ。そしてもしかすると、この男なら、と思わせるほどの奇跡をこの男は成してきた。
「ローレンシアにある国家全てが協力して生み出したエル・トゥーレは、そのための布石でしかない。彼らが管理し、調整し、より高次へ高める競争を生み出す。土壌は出来つつある。あとは其処で何を成すか、だ」
新たなる時代の象徴であるローレンシア連盟国家エル・トゥーレ。それは理想を目指すための方法でしかない。
「戦え民よ! 戦の時代は形を変えただけ。剣は此処に置いていけ! 貴殿らの鍬が、算盤が、金貨が、新たなる時代を作っていく。発展の痛みはある。革新によって失われるものもあるだろう。だが、その痛みの先に理想が待っている。今の我々には想像も出来ぬほどに発展した世界で皆は知るだろう。今の世界の何と稚拙で、卑小で、侘しいものであったのかを。知りたくはないか? その世界を。見てみたくはないか? そんな時代を。享受したくはないか? 革新が生み出す新たなる繁栄を」
王は自信満々に語る。自分と共に歩んだ先、世界は必ず新たなステージに到達する、と。誰もが鼻で笑ってきた理想論、それを現実にしてみせる、と。もう諦めさせない。眼をそらす必要もない。狂う必要などどこにある。
全てが満たされる世界を目指す。そこに何の文句があろう。
「ならば私についてこい! 私が示す道を全力で駆け抜けろ! その先にこそ輝ける未来がある。私は皆にそれを約束する。私の代で進んだ一歩、二歩、その歩みこそが世界にとって最高の導であり、目指すべき方角であると、私は誓う」
嗚呼、やはりこの王はスケールが違う。
「私についてくる者は天にその手を掲げよ! その手が天を掴む! さあ、私についてこい。私が、ウィリアム・フォン・アルカディアが、この国を、世界を、時代を、導く光と成ろう! 掲げよ、希望を!」
王宮が、その外縁で聞き耳を立てていた者のほとんどが天にその手を突き出した。
「掴むぞ、天をッ! 我々は神すら超えるのだ!」
世界が激震した。咆哮が世界に満ちる。伝播する熱情。アルカス中に広がっていくウィリアムコールと天穿つ人の手。
この王なら出来る。必ず理想を体現する。
「ウィリアム王万歳!」
「白の王万歳!」
白き王が世界に君臨した。リディアーヌはその姿にガイウスを見る。エルビラはそこにエル・シドの姿を、アメリアたちは偉大なる先達たちを、自らが焦がれた栄光をその王に映していた。負けても良いから見てみたい。この王の行く末を。
鳴り止まぬ拍手喝采、万雷の歓迎と共に、黒き髪の名も無き奴隷、白の獣、白仮面、白騎士と名を、立場を、生き方を変えてきた男は白の王として生まれ変わった。とうとう掴んだのだ、天を。望んだはずの景色を。
ウィリアムは鉄壁の笑顔を浮かべながら想う。嗚呼、何と玉座の冷たく王冠の重きことか、と。この場所こそ個の地獄。愛も亡く、救いも無い。
だからこそ歩める道、目指せる先がある。あとは進めるだけ。一歩でも先へ、その命果てるその時まで。走り抜けるのみ。
今日此処に、白の王が誕生した。
○
カイルは遠くからその光景を眺めていた。声などとても届かない。姿とて豆粒程度。それでも彼は親友で、その痛みを知るからこそ彼には分かった。今、かの王が何を想い、何を胸に秘めあそこに立っているのかを。
「おとーさん泣いてるの?」
「父さんの親友を思い出してな。少し、泣いてしまった」
「おとーさんにも友達いたんだ」
「学校に行っているミラほどはいないけどね」
「まーね。舎弟も出来たし。アルフレッドって言うんだ。へたれのお坊ちゃん」
「そーか、仲よくな。親友は大事にするんだぞ」
「親友、かなぁ。まーいいや。それで、おとーさんの親友ってどんな人?」
「ん、そーだなあ。やせっぽっちで、そこそこ器用で頭も回るが、優しいから損ばかりしていた。ついでにシスコンだ」
「……全然いい風に聞こえないけど」
「ははは、そうだな。あとは、真面目で繊細で、誰かの騎士を目指していたよ」
「やせっぽっちなのに騎士?」
「ああ、やせっぽっちなのに騎士さ。良い奴だったよ。本当に」
カイルの眼に、新たに浮かぶものを見てミラはそれが失われたことを察する。最近、集団生活で空気を読むことを覚えた少女は無言でその場から立ち去った。たまには一人で浸りたい時もある。大人とはそういうものなのだろう、と子供ながらに思った。
「お前の夢は、結局最後まで叶わなかったな。お前は誰かの騎士じゃなく、皆の王に成った。それはきっと望みから一番遠く、一番つらい道だろう。許せ、アル。俺はその道を歩けるほど強くない。俺は、弱いんだ」
カイルは手を掲げなかった。その大きな手を眺め、中途半端なところで握る。
「さらばだ友よ。いつかお前が許されたと思った時に、三人でりんごでも食べようか」
その時は永劫来ないことを彼は知っている。いつか許される、そう思えるくらい強かったら彼は『王』に成らなかっただろう。否、成れなかったに違いない。真面目で繊細、潔癖で、優し過ぎる。だから目がそらせない。
積み重なった業を無視して笑えない。人がただ生きていく中に生まれる簒奪すら彼は許せないのだ。そうある世界すら許せない。許容出来ない。諦めることが、妥協することが出来ない。だから背負うしかない、弱いから。無視する強さすらないのだから。
絶望の渦中にいる友を想いカイルは涙を流した。共に戦えない己が弱さと、誰かの絶望を切り捨てて自分の大事なものを愛し守ることのできる強さを、憎みながら――
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