幕間:空白の動乱
三つの星が入れ替わり、一つが隠れ、二つが君臨する。
ヴォルフ・ガンク・ストライダーは烈日を討った後、契約を更新せずネーデルクスを離れた。アークランドが放棄したサンバルトの土地、かの地の良港を貪らんと数多の小国が動き出していた矢先、それら全てを蹴散らして狼が玉座を奪取した。
サンバルトはヴァルホールと名を変え、海運を基幹とする商の力そのままに、地上最強の武力をバックボーンとした新国家を樹立。最強の英雄と共に戦わんと各地から腕に覚えのある傭兵たちが集い、一気に強力な陸戦力を手に入れた。
のちに傭兵王と呼ばれるようにも成る男の奇想天外な国策によって、世界中にヴァルホールの力が波及し、戦乱の嵐が吹き荒れる。
アポロニア・オブ・アークランドは聖都に残った民を、兵を丁重に扱い、大聖堂を中心とした焼身自殺、神に殉じた者たちも手厚く葬った。英雄王と聖女の亡骸は共に埋葬し、大聖堂から離れた小さな高台にアポロニア自らが墓を設けた。
彼女が望む望まずにかかわらず、ガルニア出身で無い者も彼女のカリスマ性に惹かれ、ヴァルホールと同様戦力が拡大していく。騎士も、商人も、あらゆる人々がかの地に集う。小さく、英雄王の手中にのみあった土地はにわかに拡大を気配を見せていた。
聖ローレンスの在った土地、ローレンシアの要、今、カタチを変える。
アルカディアにとっても正念場であった。
白騎士不在の中、ヤン、カール、アンゼルムを中心とした若き力を結集し、各地で奮闘を続ける。旧オストベルグ方面の担当はヤンとアンゼルムの両大将が構え、ネーデルクス方面はカールが担当する。膨れ上がる戦乱、そこをどう蓋するか。
カールは野戦にて勝利をもぎ取り、大橋を奪還してのけた。されど、その先は難攻不落の要塞都市ブラウスタット、否、今はフランデレンと言う名を冠す巨大な壁が阻む。指揮棒を振るうは元ガリアスのディエース。エルビラに負けて世間の評価は少し落ちたが、其処に混ざっていた相手が相手と言うこともあり、国内での評価は依然として高いまま。
そんな男が構える以上、簡単に隙は見せてこないだろう。
それでも取ると決めた。
「穴を掘ろう」
唐突なカールの弁。そう言った搦め手を使いたいのは誰もが同じ。正面から落とす難しさを彼らが一番よく知っている。ゆえに、敵が警戒しているのも当然その搦め手が中心である。加えて、指揮するのがその手のスペシャリストであるディエースなれば――
「嫌と言うほど妨害されるだろうが」
それらの手、成就させるは至難の業。
「いや、させないところから掘るんだ。もっと言えば、気づかないところから、だ」
カールの眼に宿る確固たる意志。
これより始まるは長き戦い。敵の眼にすら触れぬ遠大な作戦。数年がかりで彼らは完遂するのだ。人工の、世界最大のトンネル。のちにルーリャまで伸ばし下水を排出する設備と成った長大な克己の結晶。
簡易の砦を拡大しながら、その後ろで大橋からブラウスタットまでの穴を掘ると言う遠大な作戦。あらゆる策を駆使し、相手の攻めをいなし、策の匂いを悟らせぬように、戦い抜いた年月。その執念と其処までモチベーションを保たせた男への称賛を併せ、
穴掘りカールの異名を世界に轟かせる。
世界の動乱、その間隙を縫って男は秘密裏に北方へ赴く。
いくつかの確認と、ある決断をするために。全てのことに意味がある。彼にとっての意味、全ては秘めたる想いと共に。その数か月後、アルカディアに、世界に激震が走る。
あらゆる国が、あらゆる陣営が、揺れ動き、ぶつかり、消滅し、再誕する。
ゆえに小さな国の消滅など、誰も意に介さない。薄れゆく英雄の出身地よりも重要な情報は世界中に散らばっている。動乱の中、少しずつ膨れ上がる悪意。
「さあ、僕と友達に成ろうよ」
何かが生まれつつあった。
革新王ガイウスが皆を集めて語る。自分の想像する未来を、生き残るためには何をすべきか、何を為すべきか、後継者も含めて全てを差配した。もう、残り火は僅かも残っていない。最後くらいは己が欲を超え後世へ、未来へつなげよう。
「余は存分に今世を満喫した。卿らもそうあることを望む」
ガリアスの未来に光あれ。
革新王はそう言って旅立った。
そして時が流れる。
一つの星が不在のまま――
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