真・巨星対新星:無双のアンフィス、覚醒の獅子

 アナトールの前に立ち塞がるはエスタードの強兵たち。強い兵、強き将、彼らの群れは下手な策での優位など吹き飛ばすほどである。少しずつ右翼、左翼共に押し込まれている現状、いずれ包囲が完成しすり潰されてしまうだろう。

 未だエル・シドは遥か彼方。ヴォルフを届けるにはこの強者の群れを掻き分けていかねばならない。すでに黒の傭兵団は手一杯の状況。ネーデルクスにも余裕は無い。

「俺がやるしかあるまい。腕が鳴るな」

 アナトールが槍を旋回させて前進の意思を示す。死の行進になるだろう。理性で考えたなら届く前に死ぬ。しかし、負けたまま明日を迎えるという選択肢もすでにない。

「馬ッ鹿ねえ。あんた死ぬつもり?」

 アナトールの隣に現れたのはネーデルクスが誇る三貴士の一人、白薔薇のジャクリーヌである。アナトールとは同門で若き頃は共に研鑽を積み、汗を流し、無二の親友のような関係になったこともある。しかし、ジャクリーヌの身体が飛躍的に大きくなり、才能を開花させたことを機に関係は悪化。今に至る。

「死ぬ気はない。俺の全てを賭して必ず道を開いてみせる」

「死ぬわよ。あんたがそれなりになったのは見てたわ。でもね、戦争ってそんな甘いものじゃないでしょ。一人の命なんて吹けば散る。先代も、マルスランも、皆散ったのよ」

 此処は戦場。一人の覚悟など意味を為さない。手を伸ばしても届かぬ時は届かぬのだ。テオのときは指先が引っかかった。今度も引っかかるとは限らない。

「それでも俺は往く」

 それでもアナトールは前に進むことを、自分の道を信じて進む。その真っ直ぐな瞳に、ジャクリーヌはため息をついた。何故、祖国にいた時にその眼が出来なかったのか。何故、自分を前にしてその眼をしてくれなかったのか。喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。

「本物の馬鹿ね。いいわ、『アンフィス』で往きましょう」

「ネーデルクスの伝説、蒼空を統べる双頭の龍。その名から付けられた戦技。お前の相手、俺で適うか?」

「知らないわよ。とにかく全力でついてきなさいな。凡人なんだから」

「委細承知。全力で喰らいつく!」

「暑苦しいわねえ。ま、何とかなるでしょ」

 同門同士。二人の槍使いが手を組んだ。

「槍でも合わせておくか」

「何年ぶりかしらね。あんたと槍を合わせるなんて」

 アナトールとジャクリーヌは二人の間で槍を重ねた。すでに薄れつつあるが、ネーデルクスの花形である槍を得手とする騎士、彼らが共に戦場を駆ける前の挨拶が槍合わせであった。伝統とはいえ、すでに彼らの道場以外では教えていない旧い慣習。今から行う戦技もまた旧いものである。

「かなりの年月が経った。お互い良い年のおっさんだな」

「わたくしは年を取らないのよ!」

「そのオカマ言葉はやめたらどうだ? ごつい身体には似合わんぞ」

「あーた、先に死んでおきたいみたいね」

 ジャクリーヌは無造作に槍を振るった。無造作ながらその槍は美しい軌跡を描き、アナトールへ向かう。アナトールはそれを槍の穂先で撫でるように優しく軌道をそらしてやる。躍起になって連撃を打ち込むジャクリーヌ。それをことごとくすかすアナトール。

 敵にはそれが仲間割れをしているように見えた。戦場のど真ん中で味方と争う愚挙。それを見逃すほどエスタードの兵は愚かではない。

「ジャクリーヌ!」

「アナトール!」

 二つの方向から挟み込むような形でエスタードの騎士が殺到する。未だ気づいていないのか二人の仲間割れはエスカレートしていく。その攻防のレベルの高さは折り紙つき。これだけの争い、視野が狭まってしまうのも無理は無い。

 そう思った彼らこそが愚者であったのだ。

「「覚悟ッ!」」

 その剣が、その槍が二人に届く遥か遠く、武器を持つ腕を両断し驚く間も与えず胴を撫で斬ったのがジャクリーヌ。攻撃の動作に入った瞬間、その出先である肩を射抜き無効化、悠々と次の一撃で脳天を撃ち抜いたのがアナトール。

 彼らに隙など無かった。そもそも本気で喧嘩をしていたわけではない。

「あんたと並んで槍を振るうなんて……ホント最悪」

「俺だってオカマと並びたくなぞないわい」

「最悪ついでだ。今のお前の力はわかった。『俺』も、全部出すさ」

 ジャクリーヌは自らの髪をかき上げた。それを紐でぎゅっと縛り、紅をぬぐえば、そこには精悍な貌つきの戦士が一人。

「ジャクリーヌ、お前――」

「俺はジャン・ジャック・ラ・ブルダリアスだ。今だけ、な」

 準備運動は終わり。互いの力量も深く理解した。これで駆けられる。此処より先、二人は同じ生き物、双頭の龍と化して進撃するのだ。

「心得た」

 同じ道場で研鑽を積み、同じ師を仰ぎ、競い合っていた歳月が胸に浮かぶ。もう二度とありえないと思っていた視界を同じくすること。共に槍を振るうなど、考えたくも無かった。片方は挫折、もう片方は期待するのに疲れたから――

「いざ往かん、地平の果てまで」

「己が命、槍に乗せ羽ばたかん」

 二人は同時に動き出した。背後にはネーデルクスの心得者たちが付き従う。先頭の二人、その背にはネーデルクスの誇りが詰まっている。お家芸であった槍、テオの登場から今日にかけて苦汁をなめてきたネーデルクスにとって、この光景は胸が躍るものであった。

「「双頭の龍、此処に在りッ!」」

 アンフィス。華美で過剰、ネーデルクスらしい戦技の名であった。戦術としてあまりにも稚拙な、強者二人を並べて突っ込ませるという子供じみた策。これが双頭の龍アンフィスの中身である。

「いざ!」

 ただの突貫。

「いざ!」

 しかしてその名を笑う者はいない。エスタードにとっても、アルカディアにとっても、その名は忌み名であった。ただの突貫、それにどれだけの英雄が屠られてきたか。

 アンフィスには名乗るべき条件がある。その辺の戦士を並べて突っ込ませたものをアンフィスとは言わない。アンフィスとは――

「「いざいざいざいざいざァ!」」

 ネーデルクスが誇る最強の槍使いを並べて突貫させる策なのだ。

 かつてこの策を多用した三貴士がいた。史上最高の槍使いとして名高い、ネーデルクス黄金時代の立役者。彼ともう一人、影のように付き従う副将と並んで周辺各国を脅かし続けた。その副将もまた三貴士の推薦を受けるほどの槍の達人。しかし彼は主である三貴士と共に槍を振るう道を選んだ。主である三貴士は「副将を含めて己は三貴士である」と普段から吹聴していた。二人は双頭の龍として若きエル・シドに屠られるまで人生を駆け抜けたのだ。

「くそ、どうなってるんだこいつらァ!?」

 その因子を彼らは継いでいる。ネーデルクスで槍を学んだならば、一度は憧れる英雄の技がこれであった。誰もが憧れ、誰もが諦めるその愚策。愚策を押し通せる力が在って初めて、この策は埒外の輝きを放つのだ。

 交戦中のアメリアは目の端に己が主の猛威を映す。

「……ジャクリーヌ様、御武運を」

 ジャクリーヌと、白薔薇と呼ぶにはあまりにも猛々しい姿が其処にはあった。これが槍の天才と謳われたジャン・ジャック・ラ・ブルダリアスの槍である。力強く、雄雄しく、荒々しい。暴虐の槍が其処にあった。ひとたび振るえば臓物雑じりの血が舞い踊り、常に血と臓物にまみれる姿は美しさに欠ける。

「ジャンの野郎、カマトトぶりやがって。んな貌もまだ出来たんだな」

 ディノはふつふつと心が煮え始めるのを感じた。

 ジャクリーヌの、ジャンの本当の槍は美しさとは対極の『力』が源である。まず力があって、それを武装する形で技術がある。美しい槍を振るうジャクリーヌも当然厄介だが、この状態のジャンは手がつけられなくなる。

「テオもいらんもん残して……どいつもこいつもアホばっかだぜ」

 そしてもう一人、双頭の片割れもまた先程の一戦で何かを掴んだのか、異様なほど槍が冴えていた。ジャンのような荒々しさは無い。優しく、鋭く、いなして、そらして、作った隙から一瞬で射抜く。隻腕ながらその槍はさらなる成長を見せていた。

「何としてでも止めろ!」

 止まらない。

「たかが二人だぞ! 何をしておるのだ!」

 止まらない。

 剛と柔、動と静、二つの槍が敵陣をかき分けて止まることを知らぬ行進を見せていた。その行進に追従する者たちは開いた道を維持するために全力を尽くす。此処しかないタイミング、生み出したのはアナトールとジャンの攻め。

 二人は止まらない。止まれば最後、敵陣のど真ん中で死ぬことが確定してしまうから。進むしかないのだ。進んで、勝つまで龍であることはやめられない。

「何処まで行く気だ、こいつら」

 愚問、敵陣最奥、烈日のところまで――

(駄目だ。あの二人、仲が悪いくせに息が合い過ぎだ。テオがいねーなら、俺しか)

 ディノは未だ戦意の翳らぬ三人の新鋭を見て哂った。

「俺ァあの二人を止める仕事があるんでな。とりあえず、本気で往くぜ」

 粉砕。マルサスを大剣ごと押し潰す。意識が飛びかけるほどの衝撃。ぐらつくマルサスのサポートをしようと、隙を見せたアメリアにもきつい一撃。アメリアは吹き飛ばされ、落馬することになった。そして最後は、

「最後だ、ちびィ!」

 ディノの一撃が意識朦朧と揺らいでいるユリシーズを襲う。


     ○


 ユリシーズという少年は皆から愛されながら成長した。年の離れた兄と姉、大事に大事に、優しく、過保護とも思えるほどに育てられた。兄の強さを、姉の多彩さを、存分に引き継いだ子獅子。期待があった。兄が敗者となり、ガルニアから去って、過保護はより一層その傾向を増した。姉は持てる戦技全てを注ぎ込み、獅子を守る牙を授けた。

「もう限界か? まだやれるんじゃないのか?」

 よく兄は弟にその言葉を向けた。腕が上がらなくなるほどの稽古、その先に涙を浮かべて倒れ伏す弟がいた。幼子に厳しすぎると姉は抗議する。それでも兄はいつも最後にそう問いかけるのだ。お前の限界は、何処にある、と。

 ユリシーズは実年齢に見合わぬ技術を身に着けた。同世代ならどれだけの体躯を持っていても、どれだけの才能を秘めていても、手が届かないほどの技術、歴代レオンヴァーンの戦技の多くを修めたのだから当然である。

「兄上、ようやくわかりました。兄上の真意が……自分は、弱かったのでありますな」

 目の前の兄は自分の見ている幻。自分は今、死に瀕している。相手は自分より圧倒的格上。技術だけでは届かぬ強さを持っていた。

「ああ、ガルニアにいた頃のユーリは弱かったよ」

 幻想の兄が言葉を発し、ユリシーズは驚愕する。

「ユーフェミアの気持ちはわかる。この才能を、大事に育てたいと、家を守る者ならば皆考えてしまう。それが結果として強さの芽を摘むことになろうとも、眼が、眩んでしまうのだ。ユーリの才はそれだけの輝きがあった」

 教えた戦技を容易くものにする器用さ。明らかに常人とは一線を画す身体能力。全てが同じ年の兄を超え、レオンヴァーン最高傑作と謳われた兄を超える逸材として、丁重に扱われるのも無理は無い。

「可愛いユーリ、お前に強さを教えてやれなかった。それだけが心残りだったんだ。でも、ローレンシアの大地で再会して、心残りは杞憂と知った。お前はたくさん経験してきたのだな。喪失を、己が無力を噛み締め、今だって成長している。それがあったから私は命をとしてヴォルフを守れた。お前は大丈夫だと、そう思えたから」

 これは幻想だとユリシーズは自分に言い聞かせる。幻想相手に心が揺れるのは未熟な証、この光景こそが弱さの現われなのだと。そもそも戦の最中、夢を見ている場合ではない。

「だから私は何も言わんよ。お前は全部わかっている。牙を持った獅子だ。あとは自分を信じなさい。お前は戦う牙を持っている。心に獅子を飼っている。後はゆだねるだけでいい。自分の中の獅子に。それだけでお前は私を超えるよ」

 兄の言葉。幻想だとわかっていても泣きそうになる。ずっと求めていたのだ。稽古の後、あの言葉を言って去る最中、去り際の表情を崩したかった。認められたかった。可愛いユーリではなく、一人の騎士として。

「お前の信じる道を往きなさい。その道と私の道が少しでも重なってくれると嬉しい。これは我が儘だな、忘れてくれ。私はヴォルフを主とした。お前までそう思う必要はない。あくまで己が心に従うのだ。心の底から、尽くしたいと思える相手が出来た時、それが騎士道の始まりなのだから。獅子が本当に輝く時なのだから」

 ユリシーズは苦笑する。未だにヴォルフが最高の主であるかはわからない。自分の心には白と黒が入り乱れている。愛憎渦巻く、複雑な感情。それでもこれだけは言える。自分が命を懸けて尽くすも、討つも、あの二人の内のどれかである。

 そしておそらく、その答えはもう出ている。

「自分は……『俺』は、心に従います。未だ未熟なれど、相手は遥か高きに君臨すれど、俺が退く理由にはならない。高いなら、超えればいい。限界を、俺は決めない」

 多くの人に出会ってきた。多くの経験を積んできた。もう自分は家人が用意してくれた揺り篭から外に出ている。怖い思いを何度も経験した。外に出たことを何度も悔いた。今は、その全てが血肉になっている。

 自分が心から勝てないと思ったのは、白と黒の英雄のみ。巨星ですら、自分の道の果てで凌駕出来ぬと諦めるほどではなかった。だからこそ剣を捧げる、剣を向ける理由になる。

「それでいい。私は見ているよ。お前の背中を通して、新たなる時代を。地獄のような戦場跡で出会った、あの日からどれだけ成長したか、あの日に感じた予感は正しかったのか、黒き狼の道の果て、時代の移り変わり、そしてユリシーズ・オブ・レオンヴァーンの騎士道、その行く末を。私は見ている」

 幻想が薄れる。ユリシーズは手を伸ばしかける自分を押さえ込んだ。強くなると決めた。強くならねば、守れないし戦えない。自分が守るべき者は遠く、戦うべき者も遥か彼方。弱く生きるなら騎士である必要はない。堕した獅子に価値はない。

 強くあれ、強くあろう。忘れてはならない。あの強き女性を守れなかった己が無力を。筋を通せなかった無念を。騎士道を貫くための力が要る。あの時の自分は持っていなかった。今の自分はどうか、諦めるほどに彼我の差は大きいか。

 心の中の獅子が吼える。

「最後だ、ちびィ!」

 諦める、ほどではないと。

「ッ!?」

 ディノ渾身の一撃は、満身創痍の子獅子に止められていた。今まで得物の関係上、そらされたりかわされた経験はある。幾度も経験した。しかし、この巨大な石斧を普通の剣で止められたのはそうあることではなかったのだ。

 それも、このサイズの少年が止めた。才能は認める。技術も高い。

「どういう、こった?」

 しかし、力は、そうでもなかったはず。

「牙(ガ)ァァァァァアアアアアアアアアアアッ!」

 吼えた相手を見て、ディノは子獅子が獅子に化けたのだと知った。

 ニーカが、ガルムが、黒の傭兵団の多くがユリシーズの咆哮に驚きと、ようやく来たかという笑みがこぼれる。才能は知っていた。努力も認めている。あとは開花するだけ。それだけで人物が、戦士としての何もかもが変わるだろう。皆知っていた。

 アナトールとジャンは背中から感じる圧に対照的な顔を見せる。アナトールは微笑み、ジャンは驚愕に顔を歪める。戦士としての開花、あまりにも膨大な雰囲気の発露。これは一介の傭兵にあらず。下手をすると自分すら喰われかねない、それだけの雰囲気があった。スケールだけならば、自分はおろか――

 エル・シドが片目をうっすらと見開く。この戦場でエル・シドが動いたのはヴォルフ相手の時のみ。ヴォルフ以外が巨星を動かして見せたのだ。片目だけではあるが。

 そして皆に守られながら進軍するヴォルフは、凄絶な笑みを浮かべていた。あれが自分を守る者とは限らない。自分に刃を向ける日が来るかもしれない。そう思うだけで心が躍る。それだけの雰囲気がある。この、新たなる星には。

「テメエ、名は?」

「ユリシーズ・オブ・レオンヴァーン。俺は貴殿を倒すぞ!」

 レオンヴァーン、その名を聞いてディノは笑った。この雰囲気から察しもしかしてと思ったが、見事に予感は的中したのだ。すでに十年以上前のこと、ガルニアからやってきた侵略者たち。その中で燦然と輝く三人の騎士と、もう一人、自分を凌駕した雰囲気を持つ獅子がいた。先程まで、動きに似ている点がある程度にしか思っていなかったが、雰囲気を感じて、その眼を見て、得心がいった。

「テメエを戦士と認めてやる。俺の名はディノ・シド・カンペアドール。昔、テメエの兄には世話になったぜ。だが、そりゃどうでもいいこった。とにかくテメエを潰さねえと槍馬鹿二人を止めにいけねえ、ひいては我らが大カンペアドールの手を煩わせることになる。それは、今日という日にはありえねえことなんだよ!」

 ディノもまた雰囲気を炸裂させた。先程垣間見せた戦士としての姿を見せる。油断も慢心も、甘さも全て捨て去った純粋なる戦士。それに立ち向かうは子獅子から生まれ変わった獅子であり、己が騎士道を貫かんとする一人の騎士である。

「参るッ!」

 言葉短く突貫してくるユリシーズ。それはディノの重撃が迎え撃った。爆音が戦場に奔る。ユリシーズは圧されるも、ギリギリのところで拮抗して見せた。そこからは回転速度がものをいう。ディノもさるもの、これほど大きな石斧を用いてなお、普通の剣を扱うユリシーズに追いついて見せるのだ。

(にゃろう、このガキ、生意気にも俺と張り合ってやがる!)

 先程まで見せていた精緻なだけの剣はない。荒々しく、雄雄しく、力に溢れた剣。そこにレオンヴァーンの戦技が宿る。ただ闘志を燃やし、全てを力に回す。技術は身体にしみこんでいる。思考を割く必要はない。ゆだねればいい。それだけでユリシーズという獅子に見合った剣が生まれるのだ。

 今まさに新たなるレオンヴァーンの剣が生まれていた。ユーウェインともユーフェミアとも、歴代のレオンヴァーンの誰とも違う、しかし何処か面影のある剣。

 ディノの破壊的な力に、力と技の集合で立ち向かう。相手が力を出し尽くせぬところで打ち込む、出鼻をくじく、出足を遮る。先程まではそれすらさせてもらえなかった。力が違い過ぎて、出鼻だろうが出足だろうが平気で蹂躙されていたのだ。

 今は違う。止められる。先程までとは違うのだ。

「超えるのだ! 限界を! 血の一滴すら搾り出し、燃やし尽くせ! 俺はまだやれる! 俺の限界は此処じゃないッ! 俺は騎士だ、騎士に成るんだ!」

 主を守るために限界を超えるのも騎士の務め。どんな相手が来ようとも主を守らねばならない。時には自分よりも強い敵も現れるだろう。その時、諦めるくらいなら最初から騎士など志したりはしない。強くても関係ない。超えればいいのだ。

「俺は、貴殿を止める! 一歩も進ません!」

「しゃらくせえ! やってみろやユリシーズ!」

 命を燃やせ。勝てぬとも、守りきったなら自分の勝ち。アナトールが、ジャンが、皆が道を切り開いてくれる。万全の、文句のつけようが無い状態でヴォルフを送り出すと決めた。ヴォルフに頼りっぱなしでは駄目なのだ。今日くらいは、甘えさせてあげなければならない。道を開くくらいなんだというのか。此処で怪物を一人止めるくらいなんだというのか。守りきるだけでいい。守りきってみせる。

 もう、道は違えない。貫いたなら己の勝ち。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る