真・巨星対新星:白熊対黒鷹

 シュルヴィア率いる部隊の士気はどん底であった。何とかユリアンが間を持たせているものの、当のシュルヴィアと北方の兵たちは同じ突撃を敢行し同じように敗れ去るのみ。もはやこの部隊は崩壊している。誰の目にもそう見えた。

「潮時ですよシュルヴィアさん。退きましょう」

 シュルヴィアは黙々と何重にも、何箇所にも巻かれた包帯を巻き直していた。ユリアンはその姿を哀れみの目で見ていた。どう見ても敗者、勝ちの芽などない。それでも足掻かんとする気持ちはわかる。否、わからないほど、想像を絶するほどの苦渋の中にいるだろう。諦めた、妥協した者には理解できぬ世界。

 それでも――

「もう、限界じゃないですか。シュルヴィアさんも、部隊の皆も。諦めてください。諦め難い気持ちは察します。それでも、将としての判断を、お願いします」

 個人の矜持で押し通して良い場面ではない。敗戦は多くの兵を失う。我を通すには多くを失い過ぎた。我を通させるには負けを積み重ねすぎた。勝ち目が見えないと、部下の心は動かない。心が動かねば勝てる戦も勝てない。

「……お前から見て、私はどう見えた?」

 シュルヴィアは包帯を巻く手を止めない。

「凄い人ですよ。僕の尊敬する人のうちの一人です。女だてらに武人として戦場を駆け回り、いつだって泥臭くも勝利を重ねてきた。それに、努力家です。僕の知る中で、二番目に。一番に追いつこうと、その目は、いつも遠い背中を見ている。その眼が、す……良いと思います」

 シュルヴィアは苦笑した。

「二番目、か。この結果は私の努力が足りなかった、そういうことなのか?」

 ユリアンは激しく首を振った。

「違います! 武に対してのみの努力は、シュルヴィアさんの方が、この一年、きっと誰よりも頑張っていました。相手が悪かったんですよ! レスターは天才で、シュルヴィアさんは女で、勝てっこ、ないじゃないですか」

「女を言い訳には出来ん。私が一番ならその言い訳も通るが、アポロニア、ラインベルカ、近いところで言えばヒルダもそうだ、私よりも強い。ゆえに私は女を言い訳にはせん」

 シュルヴィアは仕上げとばかりにぎゅっと包帯を締めた。

「才能も言い訳にしたくない。あの男がそれを証明してくれた。私やお前は、いつだってその背を見てきただろう。きっと、私が見る前から、お前が見るずっと前から、この場の誰も知らぬ場で、あの男は今のような理不尽に抗っていたのだろう」

 その顔は、恋する乙女のようで、戦を前にした戦乙女のようで、鬼神のような、阿修羅の如し貌。ユリアンは一瞬で理解した。これを止めるのは。不可能であると。

「あいつは私に機会をくれた。今までのように、ただ安穏と、あの男が用意してくれた勝利に乗って勝った気になるのか。理不尽を打ち破り、その手で勝利を掴む、綺羅星となれるのか。今がその時なんだユリアン。今が、その分かれ道なんだ」

 熱が、湧き上がってくる。今まで会話の行方を見守っていた北方の兵たちも、無言で立ち上がり準備を始めた。ぼろぼろ、満身創痍の、負け続けた女の挑戦を肯定するかのように。ユリアンは、それを止める言葉を持たなかった。何故ならば――

「お前の言葉で自信がついた。誰よりも、あの男のそばで、その足掻きを見てきたお前だ。それが二番と、この一年に限れば、一番と言ってくれた。私は、お前を信じる。だからお前は、私の背中を見ていてくれ。そうしてくれると、嬉しい」

 ユリアンだって努力が才能に勝るところを見たいのだ。ウィリアムだけが特別じゃない。努力を、狂ったような努力をずっと続けていれば、才能にだって手が届くのだと。そう信じたいのだ。だから、ユリアンは頬を高潮させながら口をつぐむしかなかった。

「私についてきたい者のみついて来い。この場で戦列を離れる判断を私は咎めない。好きにせよ、私も好きにする。各自、己が信ずる道を、我を通せ!」

 シュルヴィアは己が準備のためにこの場から歩き去った。ぼろぼろの身体で鎧をまとい、ハルベルトを持ち、あの天才に立ち向かうのだろう。その背中の何と美しいことか。ユリアンにとって世界で二番目に好きな背中は、いつもよりも何か不思議な雰囲気をはらんでいた。勝利を呼び寄せるような、そんな引力を。

「ありがとよ坊主。お前さんのおかげで、お嬢は一歩進んだ」

「いい背中だぜ。大旦那を思い出しちまう。今日は、いい風が吹きそうだな」

「ああ、絶好の、戦日和だ」

 北方の、彼らの誇りである『白熊』の旗が大きく波打った。

 風が、変わった。


     ○


 レスターはキモン死亡の報を聞き、即座に部隊を動かした。もはやオストベルグに余裕は、後はなくなっていた。有象無象とじゃれあっている暇はない。シュルヴィアの部隊を完全に粉砕して、その足で白騎士の後背を取る。

 レスターには勝算があった。自分が後ろを取ったその直後、必ずストラクレスが挟んでくれる、信頼であり確信。三大巨星とはそのような奇跡を嗅ぎ取り、実行するからこそ巨星と並び称されるのだ。自分は切っ掛けを作るだけでいい。それだけで奇跡は成る。

「だから死ね。貴様らは、僕らをなめ過ぎた!」

 白の旗めがけてレスターたちは疾駆する。敵に情けをかける余裕はない。しぶとい相手に対する敬意はあれど、これ以上の交戦は無意味。木々を盾に弩から放たれる矢を防ぎ、一気に距離を詰めていくレスター率いる騎馬隊。散開して多方から自在に攻めてくる相手に対しては弩も効果は薄い。昨日までと同じ、けん制程度にしかならなかった。

「接敵! 覚悟!」

 レスターの部下がいち早く先頭にいるシュルヴィアに接近した。満身創痍ゆえ勝てると見た部下の目は悪くない。事実、昨日までであればダメージ量的にも渡り合う程度は出来ただろう。もちろんそれは――

「失せろ」

 今日この日、分かれ道、果てしなく続く茨の道を選び取った女傑の話ではないが。

 シュルヴィアのハルベルトは重い音と共に馬、槍、鎧、肉、骨、まとめて引き千切った。剛、と唸る風切り音は女が、男がどうこうという次元ではない。人間の膂力とは思えぬ光景にオストベルグ側は少しだけひるんだ。

「ふ、多少覚悟は決めてきたようだが」

 それでもレスターには余裕があった。動きの冴えは見て取ったが、自分を脅かすほどではない。それに、今日は自分の槍も調子がいいのだ。オストベルグ三位、今となっては二位になってしまった、その重みがレスターの成長をさらに加速させる。

「僕には届きません、よッ!」

 接敵、即、突き。槍使いの真骨頂であるそれは、『黒鷹』の名に恥じぬ一品である。鋭く、伸び上がるような軌道は彼独特のもの。リュテスに後れを取ったのもはるか昔、もはや今の己は『疾風』や『白薔薇』、『烈華』に並ぶ力を持つ。

 その一撃をシュルヴィアはハルベルトの柄で受ける。レスターは心の中で「お見事」と称賛した。もちろん、これで終わりではない。

 二撃目、払い。受けられた方向とは真逆にしなる槍。弧を描きシュルヴィアの構えの逆を取った。シュルヴィアはそれをハルベルトの尾で受けた。巧くしのぐ。ただしこれもレスターの掌の上。

 三撃、再度突く。万全の構えなればこそしのげた鷹の一撃。体が崩れかかった状態では受けることもかなわない。シュルヴィアの腹を削る一撃が入った。これで詰み、レスターは高速で槍を引き、次の一撃を装てんしようとする。人間誰しも、傷を負えばひるむ。痛みは感じたなら隙が生まれる。その隙をレスターの槍は突くのだ。

「……え?」

 しかし、相手に隙がなかったならば。傷を負ってもひるまず、むしろ利用しようとまで考えていたならば――それはレスターの想定を超える。

(槍が、引けない!?)

 腹を削った槍、それはそのままの位置でシュルヴィアに抱え込まれていた。柄を通して力が伝わってくる。技術は大人と子供、速度も圧倒的に勝る。ただ一点、戦士として純粋な力だけが目の前の相手に劣ってしまう。

「吻ッ!」

 シュルヴィアはそのまま、槍ごとレスターを持ち上げた。レスターも自分の誇りである槍を手放さなかったために起きた異様。レスターの背に嫌な汗が伝う。絶句するオストベルグ軍。アルカディア側でさえも言葉が出てこない。

「き、貴様、化け物が! レスター様を放せ!」

 レスターの部下が弓を構えた。それに驚いたのはレスター本人である。自分ひとりで片をつけるはずが、この程度の相手に不覚を取り、部下につまらぬ茶々を入れさせてしまった。この状況、許せるものではない。

「おっと、お嬢にゃ指一本触れさせねえよ」

 その射線に割って入ったのはシュルベステルの代からニクライネンを支える忠臣たち。全員小型のハルベルトを携えながら盾も構えている。これでは弓を撃っても届かない。

「感謝するぞ! 誇り高き戦士たちよ!」

 レスターは敵に賛辞を贈った。自分の不覚は自分で雪ぐ。

 そのまま柄をすべりながら回転し、その勢いのまま蹴りを放った。槍は絶対に手放さない。シュルヴィアはその覚悟を見て取り、腹の傷を狙った蹴りを忌避し、槍ごとレスターを放った。レスターは宙に浮かびながらほくそ笑む。

「僕の名はレスター、『黒鷹』のレスター・フォン・ファルケ」

 地に墜ちる鷹。しかしまだ翼は折れていない。

「いずれオストベルグを背負う、大将軍の名だ!」

 地を這うような軌道から天へと突き上がる槍。それはシュルヴィアの馬を貫き、その主にまで穂先が届かんと――

「なれば我が名も刻んでおけ。いずれ白騎士を超え、我が祖国アルカディアの大将となる『白熊』のシュルヴィア、シュルヴィア・ニクライネンだ」

 穂先は、シュルヴィアの足に阻まれた。靴の底に備えられた鉄底が防いだのだ。馬の背に立ち睥睨する様はまるで格上のそれ。レスターは苦笑いを浮かべる。自分の顔に刻まれた傷が疼く。

「本当に、アルカディアの女は気が強いですね」

 馬が崩れ落ち、両雄地に立つ。双方の部下、どちらも手出しを嫌った。双方とも理解しているのだ。自分たちの主が手出しを許さぬことを。

 レスターが名乗ったということは戦士として戦うと宣言した意味を持つ。相手が女であろうと関係ない。自分のもてる力、誇りを総動員して戦う姿勢を決めたのだ。

 シュルヴィアの名乗りは性質が違う。北方ではなくアルカディアを祖国と言い、自分のことを白熊と名乗った。どちらも初めてのこと。それはシュルヴィアの覚悟であった。尊敬する偉大な戦士の二つ名を背負い、大将という高みを目指すと決めた。それぐらいの覚悟がなければどうしてあの男に追いつけようか、追い越せようか。

 その背の輝きに、彼女を幼少から知る北方の兵たちは目を細めた。

(見てくだせえ大旦那。あんなちびだった子が、女だてら一丁前に背負っていやす。あんたに勝るとも劣らない背中でさあ)

 ようやくシュルヴィアにも備わった。先代がまとい持っていた、白銀を溶かす灼熱の風。その熱情が、それを持つものを一歩、理不尽へと近づける。


     ○


 間違いなく、武の素養、武に対する理解、武芸への習熟という点でレスターは眼前の敵よりも遥かに勝っていた。槍の冴え、相手の行動の先読み、それに対する応手、何一つ間違えていない。それなのに――

「こ、の、狂人がァ!」

 槍が敵を削る。血しぶきが舞う。しかし、

「…………」

 敵の歩みは止まらない。むしろ踏み込んでくる。自らを殺すかのような前進、恐怖も、理性も、本能すらかなぐり捨てた狂気の行進。一歩、また一歩、灼熱の狂気が前進する。

「と、まれェェェエエ!」

 致命傷以外はくれてやると言わんばかりの前進に、レスターは変幻自在な槍捌きで対応した。縦横自在にしなる槍に敵は反応できていない。出来ていないのに易々と踏み込んでくるのだ。自分にはこれしか出来ない。だから、踏み込み――

「破ァラァッ!」

 力いっぱい振り回す。思考はそれだけ。どうせ武芸では及ばない。それならばせめて力だけは勝とうと、力のみは寄せ付けぬと思いっきり叩きつけ、薙ぎ払う。

「く、そッ!」

 それをレスターは受けられない。厳密には先ほど受けたことで、絶対に受けては成らぬ暴力だと理解した。目の前のこれは武にあらず。獣が如し暴虐の力である。ただ、それだけであれば容易く御せるのもまた事実。武とは本来その為のものであり、それが叶うから人は武を修めるのだ。

「吻がッ!」

 問題は――

(問題は、このシュルヴィアと言う女、ただの獣じゃないってこと。武を知る獣だ)

 本人は頭を空っぽにして捨て身の攻めを敢行しているつもりであろうが、身体は武を覚えている。彼女が刻み込んだ武に懸けた時間は、性別を超え、人を超え、大熊のような力を持つ獣に武を与えた。

「どうした! 自慢の槍が止まっているぞ!」

 白熊が笑う。雑念が消え、力と武のみが残った。純粋な怪物はようやくその身に宿したポテンシャルを充分に発揮し始めたのだ。遅咲きの怪物、意識次第で人はこれほどに変わる。本人は、変わった事にすら気づいていないのに。

 槍が止まったのではない。槍を止めてでもかわさねばならない一撃が襲ってくるのだ。受けはもちろん、払うことすら許されぬ。接触しただけで残る異質な感覚。ストラクレスの一撃を受けたことを思い出してしまう。

「隙あり!」

 ぞりゅ、と削れる肉を意に介さずハルベルトが地に叩き込まれる。そこは一瞬前にレスターがいた地点、かわしたレスターの背中に嫌な汗がどっと染みる。先ほどから攻撃を当てているのは全て己であり、優勢なのは自分のはず。

「痒いんだよちまちまと!」

 それなのにレスターの心情はむしろ劣勢に傾きつつあった。勢いの止まらぬ、むしろ増すばかりの怪物。理合も、理屈も、何もかも剥き去った跡に残るは――

「はぁ、はぁ、はぁ」

 武の獣。心は獣、恐れを知らず前進する。身体は武、積み重ねた武は嘘をつかない。心と身体が完全なる融合を果たした。雰囲気が迸る。

(僕よりも、強いというのか?)

 一瞬、揺らいだ武への信頼。自分の天性への懸念。積み上げてきたものに差はあれどレスターは天才。疑いなく、己が槍に殉じたならば、その天性は武の獣ですら寄せ付けなかったかもしれない。

 人の強さは才と努力、そして心で決まる。

 レスターは三番目の要素で、

「ようやく、追いついたぞ!」

 シュルヴィアに負けたのだ。

「あっ」

 レスターの足がシュルヴィアの足に押さえつけられていた。逃れようにもシュルヴィアの方が力で勝る。心が揺らいだ一瞬の隙、シュルヴィアはレスターの足を殺した。槍を振るう距離も、死んでいる。

「ありえな――」

 シュルヴィアの剛力がレスターを粉砕した。ハルベルトの柄が歪むほどの速度で叩きつけられ、ひしゃげる肉体。骨が幾重にも折れる音が響き、悲鳴ともつかない断末魔が呼気と共にこぼれる。

「ぶはっ、やはり強いな、『黒鷹』。死ぬかと思ったぞ」

 およそ人間に飛ばされたとは思えぬ軌道で宙に舞うレスターを尻目に、シュルヴィアは緊張の糸がぷつりと切れる。死の恐怖がない人間などいない。シュルヴィアの決死は、彼女の意志によって本能を押さえつけたことで生まれたもの。彼女は獣ではない。獣にだって恐怖はある。それを押さえ込み前に進んだから彼女は勝てたのだ。

 レスターは地面に叩きつけられる。そのままぴくりとも動かず地に伏した。オストベルグの兵たちからは唖然とした絶望がこぼれる。その瞬間、

 アルカディア側から喝采が降り注いだ。受けるシュルヴィアが驚くほどの声量。

「おじょ、いや、シュルヴィア様! お見事であります!」

 北方の兵たちはこの瞬間、シュルヴィアを真の主と認めた。シュルベステルの血縁ではなく、自分たちを率いるただ一人の戦士として、彼女を迎え入れたのだ。

「ああ、信じてくれてありがとう。私の、勝ち――」

 シュルヴィアも、歴戦の武士たちも、誰もが新たなる『白熊』の勝利に酔いしれていた。だが、彼女たちは忘れてはならない。ただの武人であったなら、昨日までのレスターであったならば此処で絶えていた。命繋ごうとも、心が折れていた。

「僕ばぁ、オズドベルグのぉ、第二位ィ――」

 彼を動かすのは執念。守るべき祖国と、託された重責、戦士として、騎士としての誇りをも上回る意志がそこにはあった。

 折れた腕、ひしゃげた右半身をあえて稼動させ、

「レズダァァァ様ダァァァァアア!」

 自分の誇りを投擲した。砕けた骨が不協和音を奏でる。歪んだ肉が千切れる音がした。しかし、溢れんばかりの喝采がそれをかき消す。レスターは微笑んだ。勝利を、確信した笑み。そしてこの瞬間、清廉潔白にて高潔な騎士であるレスターは死んだのだ。

「もーう、駄目じゃないですか。シュルヴィアさんは詰めが甘いんだから」

 その誇りの射線上には、一人の男がクロスボウを構えて立っていた。軍に入ってすぐ、最初にあの人から教えられた通り、二つの足でしっかりと踏ん張り、手順どおりの動作で、

「今日は僕がお尻を拭いてあげますよ」

 矢を放った。弓とは違い、それはカラクリ仕掛けの均一な威力を持つ。使い手を選ばないそれは彼ら弱兵に牙を与えた。弓すらまともに扱えぬ者に生きる場所を与えたのだ。

「ぼくは、ぼくはぁァァアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 レスターの右目に矢が突き立った。弱兵に射った矢が、眼球を貫き頭蓋すら貫通した。これが彼らに与えられた力。白騎士が蹂躙されるはずだった自分たちに与えてくれた牙。今日までこれと知恵で乗り越えてきた。乗り越えさせてもらった。

 今度こそレスターは完全に切れた。心が折れ、思考が闇に落ち、身体が停止する。倒れ付した己が将を抱え、逃げ出すオストベルグ軍。シュルヴィアたちは、追えなかった。何故ならば――

「酷い顔ですよ。折角の美人が台無しです」

「ユリアン! お前、何でだ!」

 立ちすくむユリアンの胸、黒き槍がてらてらと輝いていた。へらへらと笑うユリアンはゆっくりと倒れ付す。それをシュルヴィアが抱きとめた。

「やだなあ。愚問じゃないですか。槍は取らないでくださいね。死ぬのが早くなる」

 勝利の余韻は、一瞬にして掻き消えたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る