王会議:プレリュード

 ガリアスは七王国の中では比較的新しい国である。それが超大国と言われるようになったのは、先代の王である『武王』が当時隆盛を誇ったオストベルグ、アクィタニアを退け、後の『革新王』が超大国のカタチを作り上げた。ここ百年ほど、たったの二代で此処まで至ったのだ。現在の王が王座に至り半世紀余り。今をもって絶対の存在として君臨し続けている。

 そのガリアスを飾る上で忘れてはならないのが、王都であるウルテリオルの存在である。超大国が超大国である理由、それが世界最高の都市と謳われるウルテリオルの壮大さにあったのだ。

「こ、これがガリアス・ウルテリオル……あまりにも違い過ぎる」

 四年に一度、七王国が持ち回りで行われる王会議。その参加者たちは並みの王都であれば見慣れている。自国より段違いに発展している都市でさえ、目の肥えた彼らにとっては大した驚きはない。しかし、ウルテリオルはそれらを完全に凌駕するものであった。一言でその都市を表すならば『最大』、これに尽きる。

 世界最大の建造物である王宮『トゥラーン』をはじめとした巨大建造物。それらは遠目から見ても、それこそ山脈を見るかのような存在感を放っている。この時代としては規格外の大きさ、大きいながらも大味ではなく作り込まれた建造物はただただ壮麗。白亜の王宮『トゥラーン』は世界最大の芸術作品であった。

「……ガリアスには敵わん。二十八年前も思うたものじゃ」

 二十八年ぶりに王会議がガリアスに帰ってきた。国威を示す祭典であり国を挙げて王会議が行われる二週間を盛り上げていく。そして知らしめるのだ、誰が一番か、を。

 王都ウルテリオルを歩む外側の者たちは、委縮し背を丸めて歩む。自分たちの矮小さを都市そのものが押し付けてくる。都市が放つ重圧、それはまさに威容と言うしかなかった。

 ウルテリオルの市内には多くの王侯貴族が集まっていた。ウルテリオルに圧倒されているものもいれば、ウルテリオルを堂々と歩く者、その威容を食らわんとする者、そしてそれらすべてを圧倒する者がいた。

 彼らもまた己が国を背負っての行進である。恥ずべきところは見せられないし、時には気負い過ぎて問題になることも多い。

 そして血の気の多い者同士が出合えば――

「ここは我が国の通り道、退くがよい!」

「貴殿らこそ下がれ! 我々を誰と心得る!?」

 こうなってしまうのだ。一触即発、武装した兵力は国家を背負う重責から容易く暴走してしまう。戦争は許されていないが、喧嘩ならば出来るのだ。

 むしろそれを華とする文化すらあるほどである。

「おいおい、こりゃあスケジュールを組んだのはリディアーヌ様だな。わざと色々起こるように動かしてやがる。ほれ見ろ、あっちもこっちも大騒ぎだ」

 やんややんやと喝采が起きる。ガリアスの国民も例に漏れずお祭り好きである。世界最大のお祭り、そのプレリュードとしては最高の幕開けとなっていた。


     ○


「おーおー、元超大国のネーデルクス様じゃあないか。道を開けては頂けないかねえ」

「ふざけるな! 属国風情が! 七王国に刃を向けるか!」

 青の国ネーデルクスと鉢合わせになったのは――

「七王国にも位ってもんがあるでしょうが……『今』のあんたらはあっしらと大差ねえよ」

 ガリアスの属国であり、半世紀前までは七王国として第二位であったアクィタニア。ストラクレス擁するオストベルグ、武王が荒らし革新王がまとめたガリアス、そして東方の蛮族に囲まれる立地上、属国にならざるを得なかったが、国力だけならば今でさえサンバルトや聖ローレンスの比ではない。準七王国と呼ばれる国々の一つであった。

「なんだよ騒がしいなーもう、だから嫌いなんだよねえ、王会議ってさ。むさ苦しいし、無駄に熱くなってるし……馬鹿だなーって思わない? ん?」

 大馬車からひょっこり顔を出したのはネーデルクスが誇るハースブルク家の後継、『青貴子』ルドルフ・レ・ハースブルクであった。隣にはいつもの御供、『死神』のラインベルカも付き従っている。

「国の格はそっちが上でいいよ。嗚呼、素晴らしき……え、と、なんて国だっけ?」

「無礼だねえ青貴子、礼儀ってもんを刻んでやろうかい」

 アクィタニア側が剣を引き抜く。それを見てネーデルクス側も剣を抜いた。

「無礼はどちらだ、アクィタニアの将!」

「名も知らぬってところが無礼だって言ってるのよ、『死神』のラインベルカ殿」

 アクィタニアを先導する男がとてつもなく長い剣を引き抜いた瞬間、その場全員の熱気が一気に醒めた。ラインベルカの眼が細まる。

「この気合い、『竜殺し』のガロンヌ殿とお見受けする」

「竜っていうかでかいトカゲだったんだけどねえ。火も吐かないし。東方じゃあ家畜として飼われてるんじゃないかい?」

 ひと睨みで雲散霧消する闘志。ほんの少し臨戦態勢を取っただけでこれなのだ。東方の蛮族に対する防波堤として長きにわたり最前線で戦ってきた武の男。オストベルグとの戦にも参加しストラクレスとも幾度となく刃を交わしたことがある。

「それで、退くのかねぇ? 退かんのかねぇ?」

 ガロンヌの闘気に気圧されるネーデルクス側。

「ラインベルカ、ヘルム!」

 ルドルフの声が奔る。驚嘆するのはネーデルクス側。何よりもラインベルカが驚いていた。この場で、『死神』として戦えと言うのだ。

「良いのですか?」

「もちろん。てけとーなら退いてやってもよかったけど、威嚇されてなめられたまま退くってのはありえないでしょ。ちょっとした喧嘩、一人のおっさんが死ぬだけさ」

「……わかりました」

 意を決したラインベルカは部下に手渡された黒のヘルムを手に取り――

「蹂躙致します」

 ヘルムを被り、その視界が闇に包まれ――

「そこまでだ! 両人刃を退け」

 鮮烈な声が場を制した。ラインベルカも堕ちるギリギリのところで踏みとどまる。ガロンヌもまた刃を納めてその声の方に膝をついた。

「ガロンヌ、戯れもほどほどにせよ。他の者も祭の熱に浮かされるなよ」

 日差しの関係か、突如現れた男の顔は見えない。後光が差しているというべきか。

「へえ、話の分かる相手みたいだね。名前、聞いておこうかな?」

 ルドルフの反応にラインベルカは驚いた顔をした。何故ならば、ルドルフが他人に興味を持つことは稀。他人に名を問うなどという低姿勢を見せたのは、ラインベルカの記憶でも数えるほどしかなかった。

「ガレリウス、ガレリウス・ド・アクィタニア。彼らの長だ」

 ルドルフは軽く会釈する。それを見てガレリウスもまた頭を下げた。アクィタニアの王でありながら頭を易々と下げられる胆力。

「ルドルフ・レ・ハースブルクだよ。よろしくね」

 ここで矮小な行動をとればそれこそ国の名に傷がつく。ルドルフがそこまで考えているかはさておいて、ガレリウスという男は間違いなく並みのものではなかった。

「それじゃあお先に失礼するよ、アクィタニアのガレリウスと……おじさん」

「ガロンヌだぁよ。ほんと無礼ながきんちょだねえ」

 ネーデルクスの大馬車が先んじる。アクィタニアの面々はそれを見送る形となった。喧嘩を止めての形とはいえ、これを承服せぬ部下もいるだろう。それでも、ガレリウスとガロンヌはこれで正解だったと切に思うのだ。

「あれが『死神』か。ちょっと……危険だね」

「ですなあ。深淵が蠢いた瞬間、冷や汗が止まりやせんでした」

 もし、死神が現れていたら、それこそこの場は血の海となっていただろう。最終的に仕留めたとしても、それは喧嘩の範疇に収まるものではなかったはずだ。ガロンヌとしては死神を覗いてみたかったが故の挑発、それを汲み取って取り返しのつかない事態を引き起こしそうになった青貴子という男――

「愚者か賢者か……ルドルフという男もまた底が見えない」

「で、ありますな」

 見定めようとした結果、より品定めが難しくなっていた。


 先んじたネーデルクス側、

「いやーなかなかぴりぴりしたね。ラインベルカが暴走しなくてよかったよかった」

「暴走させようとしたのは坊ちゃまです!」

「そんなことはどうでもいいんだけどさ――」

 ラインベルカのツッコミを華麗にいなしてルドルフは窓枠から外を覗く。

「彼らは傑物だった。総合力って意味であの二人より上にいってる将って、たぶんネーデルクスにはいないよねえ。そして今、この国にはそういうやつらがうようよしているんだ。あえてマルスランやジャクリーヌではなく、君たちを帯同させた意味、考えてよね」

 ルドルフの視線の先には赤、白、黒の若者が並ぶ。

「三貴士の背中を追っているだけじゃ駄目。先人の背中を追い続けた結果が今のネーデルクスだって理解しなきゃね。超える意気込みと、そして超えるための方法をこの会議の間に探しておいで。いい刺激になるよ。特に今回はね」

 ルドルフははにかむ。今、このウルテリオルには各国が擁する怪物たちがひしめき合っている。そこから何を吸収できるか、そこから何を汲み取れるか、ルドルフがあえて三貴士ではなくその下を連れてきた。その意味を今一度確認せねばならない。


     ○


 紅蓮の女王の前には屈強な男たちが並んでいた。

「私たちも客人だと理解していたのだが?」

 にやにやと笑みを浮かべる男たち。その中心に立つ男は豪奢な毛皮をたなびかせ一歩前に進み出た。その顔に張り付いた侮り、それを見て脇に控えるベイリンの顔に青筋が奔る。

「客人にも格ってのがあるのだ、島国のお姫様よ」

 爆笑する男たち。ウルテリオルの市民たちにも大笑いが伝染していた。

「なるほど、七王国を討った我々では格が足らぬと?」

「サンバルトではなあ。所詮ガリアスの紐付き、ただの交易の拠点でしかない。そんな国を滅ぼした程度で、我らが偉大なるローレンシアの大地に根を張る我々と同等と思うな小娘、貴様らとは歩んできた歴史が違うのだ!」

 やんややんやの喝采を浴びる男。その上機嫌な顔に――

「勉強になった。ありがとう名も知らぬ男よ。……ベイリン、メドラウト、謝礼をくれてやれ」

「御意ィ!」「はいはい」

 紅蓮の女王の号令で前に進み出る二人の騎士。ベイリンはともかくメドラウトは背が小さい。その姿を見て噴き出すもの、指笛を吹いて茶化すもの、嘲笑の渦が生まれていた。

「サー・ベイリン。貴方がキレてるのはわかってる。その上で頼む。……こいつら全部僕に寄越せ!」

「……ぬかるなよ。中央の男にしろ、かなり闘い慣れしているぞ」

「はン、がたいがでかいだけで強いなら、僕は騎士になれてねーよ」

 メドラウトが最も嫌悪するのは自身への嘲笑である。主であるアポロニアが何を言われようと大して感情を動かすことはないが、自身のことになると別。特に体型に対する侮りは――

「殺さなきゃ、何してもいいんですよねェ!」

 相応の対価を必要とすることになるだろう。


     ○


「こりゃあやり過ぎだぜリディアーヌ様……いくらなんでもこの鉢合わせだけは駄目だろうよ」

 三大巨星が揃い踏み。桁外れの熱気が周囲を蕩かせる。

 オストベルグの大将軍『黒金』のストラクレス、エスタードの筆頭将軍『烈日』のエル・シド、そして聖ローレンスが誇る王『英雄王』ウェルキンゲトリクス。彼らの脇を固めるタレントも豪勢極まる。普通の国ならば一人ひとりが頂点に立てる逸材ばかり。彼らがかすむほど三人の存在感はずば抜けているのだが。

「久方ぶりじゃのう、筋肉馬鹿に若作りじじい」

「一段と老け込みましたねストラクレス。そろそろ老衰で死ぬんじゃないですか?」

「腹の立つ顔が並ぶな。俺様に殺されたいのか?」

 この場だけは祭りの空気を超えていた。誰もが口を開くことを躊躇し、無言のまま張り詰める空間は異質極まる。彼らの部下は一様に口を閉ざしたまま、押し潰されそうになる感覚に耐えていた。目の前とするだけでこの圧力、敵として戦場で前にしたらどれほどの絶望感であろうか。

「さっさと行こうぜウェルキンゲトリクス。そろそろ休みてぇよ」

 その空気の中を悠然と歩み、三人の間に割って入った男。ストラクレスとエル・シドの顔つきが変化する。ストラクレスは興味を、エル・シドは――

「あれだけやられてまだ俺様の前に立つか、弱き小僧よ」

 殺意を。本気の殺意に部下であるエルビラやディノら、ストラクレスも驚きの視線を向けていた。戦場さながらの殺意の衝動、遠く離れて見ているものでさえ震えて青ざめるもの、小便を漏らすものすら出てくる始末。様子を伺う男もまた、

「こりゃあひでーな。あれを直接ぶつけられたら失神する自信しかねえぞ」

 直接浴びせかけられている男に哀れみを覚えていた。ガリアスの百将でさえあれだけの強さと濃度の高い殺意をあてられたらただでは済まないだろう。戦場ならば大軍ですら足をすくませる、そういう引力が彼らにはあった。

「その節はどうも。勉強になったぜ。マジな話、感謝すらしている」

 その殺意をすべて受け止め、それでもなおその男は前に進む。エル・シドの眼前、刃の届く範囲でその男は立ち止まった。エル・シドは内心の動きをおくびにも出さず己が得物に手を添える。いつでも断ち切ってやると、言外に表していた。

「礼は戦場でする。今の俺じゃまだ勝てねえが……まあ見てろ、すぐに追いつく」

 そしてエル・シドの横を通り過ぎていく。エル・シドは目を細め、自らの得物を握った手を解いた。それを見て、ディノとエルビラも男を通す。

「なるほどな。デシデリオやセルフィモが勝てないわけだ。これが――」

 黒き男が三大巨星の支配する空間に割って入った。そして存在感を残した。あれほど殺意の充満していたエル・シドが刃を止める。その異常事態を理解できるものは少ない。されど、その歩み、その姿勢、間違いなくその男に――

「これが、『黒狼』のヴォルフか」

 聴衆は圧倒された。その鮮烈なる雰囲気に。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、彼らの視線から三大巨星が消えたのだ。それがどれほど凄いことか――

「新時代、か。自らの首を絞めているぞ、ウェルキンゲトリクスゥ」

「感謝して欲しいな。貴様にとって最高のプレゼントだろう? 狂戦士よ」

 にんまりと微笑むエル・シド。自分から逃れた小僧はひと冬越えて大きく力を伸ばした。逃げた先が英雄王のテリトリーであった幸運。それを引き寄せた生命力。もはや疑う余地もない。エル・シドは天に感謝する。

「良い時代になりそうだなァ老いぼれども」

「貴様も老いぼれじゃろうが……何をにやついておる若作りじじい」

「いや、何でもない。先に行かせてもらうぞ。お互い、何とか喰らいついていかねばな」

「心までじじいになっておるのう。わしは今でも全盛期、むしろ今がピークじゃて」

「言葉までじじい化した奴が吼えるな。俺様はいつでも最強だ」

「わしゃあガキの時分からこのしゃべり方じゃボケ!」

 新時代の襲来に心を躍らせる巨星もいれば、新時代に恐れを抱いているものもいる。彼らの恐ろしきは感情の動き、プラス方向であれマイナス方向であれすべてを己が原動力と出来ることである。彼らは強い。今でも疑いなく強い。そしてこれから先も強くあり続ける。生半可な新時代ならば容易く飲み込まれてしまうだろう。

「捻り潰してくれるわ!」

 最強は未だこの三人。彼らの牙城を揺るがせた者は未だゼロ。


     ○


 アポロニアの視線は三大巨星が集う場所でも、自らの部下の方にもなかった。ガルニアの騎士の強さを十全に表している若き新鋭。彼一人に蹂躙され絶叫するネーデルクスの北にある海賊の連合国家。アポロニアの興味はそこにもない。

「震えるな。この場でもわかるぞ。我が愛しき好敵手よ」

 アポロニアの目が熱に浮かされていた。その瞳の色をベイリンは知っていた。アポロニアが大陸を見るときの目、日増しに強くなる予感、そしてアークの便りがアポロニアの予感に火をつけた。その予感の元凶がいる。それは、巨星ではない。

「今すぐ会いたいな。急ぐぞ、ベイリン! メドラウトもそこまでにせよ。暇潰しは終わりである!」

 その場の長である男を踏みつけているメドラウトは、それを足蹴にしてアポロニアの方へ歩む。すでに彼らを茶化す聴衆は誰もいなかった。ガルニアの騎士、その精強さをまざまざと見せ付けられたのだ。何よりも、無名のメドラウトでこれほどの戦力というのが恐ろしい。

 アークランドが歩む。予感のする方へ。


     ○


「ちっ、だーいぶ良い感じに仕上げてやがるな」

 ヴォルフもまたアポロニアが見ていた方に視線を向けていた。ヴォルフすら持たぬ支配領域の広さ。雰囲気がウルテリオルを覆ってしまいそうである。

「ったく、負けてらんねえなあ。こんちきしょう」

 強さが負けているとは思えない。しかし自らが上に立っているとも思えない。強いのに弱い、強いのに勝てない。今をもって黒狼は過去にあった敗戦、その時にあった差は縮まっていないことを確信した。

 こちらは力を伸ばした。あの男は――


     ○


「坊ちゃま、この悪寒は?」

 ルドルフはゆがんだ笑みを浮かべた。

「僕が予感したって時点で本物。あの時点ならラインベルカをぶつけるだけで殺せた。そうせず剣騎、剣鬼を取ったってのが今となっちゃ悪手だったね」

 予感はあった。そのためにヴォルフをぶつけた。だが、その手でさえ手ぬるかったとルドルフは思う。今、ウルテリオルを覆うほどの雰囲気を放つ根源は、あの時殺せていたはずの男である。あの時殺さねば成らなかった、そういう男であった。

「僕の不手際。ネーデルクスは隣でこれほどの怪物を育ててしまった」

 最初の一手、それさえしくじらなければ――


     ○


「たかが一冬、さらに磨きをかけたか」

 ストラクレスは難しい顔をする。武人である己は歓喜に満ち満ちている。性根はエル・シドよりなのだ。それでも、今の己にとって一番重たいモノが悲鳴を上げていた。

「ねえじい……ストラクレス。実はさっきレスターにガリアスのお菓子を買ってきてもらったんだ。半分はエィヴィングが食べちゃったけど、どうかな?」

 ストラクレスは険しい顔を崩して微笑む。

「いただきましょう」

 オストベルグの直上に生まれつつある巨大な星。もはや範囲だけならば己たちに比するほど。そして感じる強さもまた上がっている。一太刀でどうにかなる相手ではなくなっていた。すべてがあの一冬前の戦時より上がっていたのだ。


     ○


「ほう、これが白騎士か。噂に違わぬ、否、噂以上だな」

 英雄王が新時代の旗手となるであろう男を見定める。

「気に食わんな。広いが浅い。俺様の好みではない」

 烈日は新星の輝きを切り捨てる。

 良きにしろ悪しきにしろ、世界が刮目する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る