ゴールドラッシュ:それぞれの立場Ⅱ
ギルベルトは雪のちらつくブラウスタットの外壁に立っていた。吐く息は白く、されど身体に震えの類はない。ちょっとした立ち姿ひとつで理解できてしまう。彼が他とは違うことを。近寄りがたい、英雄となるべく生まれてきた人種であることを。
「あ、ギルベルトだ! おーい、そんなところで何をしてるのー!?」
誰もが距離を置いていた。他者がギルベルトに距離を感じるように、ギルベルトもまた他者に距離を感じていたのだ。そこをひょいと飛び越えて馬鹿みたいに擦り寄ってくる男の存在を、未だにギルベルトは不思議に感じていた。
「見ればわかるだろう」
カール・フォン・テイラーは不思議な男である。
「見てもわからないよ。僕の目には立っているだけにしか見えないけれど」
誰もがギルベルトを避けるというのに、彼だけはその距離を感じさせない。初めて会った時からそうなのだ。たぶん初見のときは立場の違いすらわかっていなかったのだろうが――
「瞑想している」
「……こんなに寒いのに?」
「寒いからだ」
「変なの」
しかし今は違う。立場を理解してなお、一緒にいてもつまらないであろうギルベルトの近くにいる。そもそもギルベルトがカールを手に入れるために裏工作をした結果、こういう構図になったことは、当の本人であるギルベルトの頭の中にはなかった。案外馬鹿である。
「そういえばウィリアムからの手紙、読んだ? 僕には届いてなかったけど」
「お前に届くはずがないだろう。あの男の敵はお前の父だぞ」
「あ、そっか。確かにその通りだ」
ギルベルトは不思議に思う。なぜこの男はこれほど能天気に自分の隣に立てるのか。別にギルベルトにその気がなくても、他者はギルベルトを怖がり気づけば離れている。子供の頃からそうであった。
この国においてオスヴァルトとはそういう立ち位置なのだ。それなのに――
「俺は反対したが、父は幾分かの金を出すことに決めたそうだ。理由は国のため、詳しくはあの男にでも聞け。どうせ全部わかっていて手紙をばら撒いているんだろう? 断られる気なんてさらさらないんだ、あの手合いは」
「ヒルダはびりびりに破いていたよ。読んですらなかった」
「……ガードナー相手に理屈は通じん」
「理不尽だよねえ」
理屈で考えたならカールがギルベルトを利用しようとしているのが一番ぴたりとくる。ギルベルトがカールを己が盾として利用しようとしたのと同じように、カールもまたギルベルトと言う剣を利用しようと考えてそばにいる。理屈にそぐう話であろう。
「早く春にならないかなあ。寒いのは苦手だー」
「春になれば血みどろの戦場が待っているがな。隙あらば戦を仕掛けてくるはずだ」
「それも嫌だなあ。平和が一番だよ」
しかしこの男には野心がない。小さな欲望がないわけではないが、大望のようなものは持ち合わせていなかった。戦を好まぬ男が師団長にまで上り詰めたというのだから驚きである。ただ――
「そうは言っても敵は攻めてくるぞ。こちらの都合などお構いなしにな」
この男は戦を好まぬが――
「うん、わかってる。その時までにみんなを守れるよう強くならなくちゃ」
戦に愛されていないわけではなかった。争いごとは嫌いだが、その渦中にいる者たちを守りたい。好きでもない争いごとに首を突っ込まねばならない。その姿勢がカールをアルカディアでも有数の実力を持つ守戦の将とした。弱兵を率いての戦いはウィリアムに次ぐ実力を持つだろう。攻めは相変わらずからっきしだが。
「ふん、言われずとも強くなる。俺はギルベルト・フォン・オスヴァルトだ」
ギルベルトはこういった発言をつい言い放ってしまう自分をほんのり嫌悪する。いつまで自分は己を誇示して強く見せねば気が済まないのか。もはや言葉での強がりなど何の意味もない。子供ではなく大人になったのだ。言葉ではなく武功で示せばいいのに――
「僕だって強くなるぞー!」
そんなことは気にも留めぬ男の隣、そこのなんと居心地の良いことか。多くが自分の下を離れていった。少なくともオスヴァルトの繋がりがないものは皆、ギルベルトと距離を取る。ギルベルトもまたそれをよしとしてきた。自らの意地を曲げてまで繋がりを保ちたい相手などほとんどいなかったのだ。
「ならば、修練を積まねばな」
「ち、父上!?」「将軍!?」
今は、気づけば曲がった道を歩んでいた。ギルベルト・フォン・オスヴァルトという英雄となることを約束されていたはずの男は、自らその道を踏み外して英雄の剣たろうとしている。そこは本当に居心地が良いのだ。己が家にすらなかったやすらぎの場所。嫉妬も羨望も遠く、あるのはあたたかな陽だまりだけ。
「やる気があるのは良いことだ。二人ともみっちりしごいてやる!」
「し、しかし父上には大将としてのお仕事があるのでは?」
「部下に全部投げた。貴様らは安心して稽古を受けるがよい。これは大将命令である」
ギルベルトという男は強情である。そして素直でなく、ほんの少し臆病であった。孤独には慣れている。一人でいることに不安はない。一人剣を研ぎ澄ます時間があってもいい。一人による修練。己がための時間。だが、それはいつしか己のためではなくなっていた。国のため、家のため、それらとも少しだけ違う道。
「往くぞテイラー。今日こそは父上から一本を取る」
「よ、よーし! 僕も頑張るぞー!」
その道はとてもギルベルトにとって居心地が良いものであった。
○
ギルベルトの前には修羅が立っていた。剣を練磨し続けてすでに半世紀。生まれた瞬間から剣を握らされるオスヴァルトの家。其処に生まれたこの怪物はオスヴァルトに大将という栄光を与えた。数多の戦場を駆け抜けた剣将軍。
「そんなものか、ギルベルト」
「ま、まだまだァ!」
立ち向かえども遠い父の背中。ギルベルトにとってそれは憧れであった。しかし今、ギルベルトはそれを超えようとしている。
「もっと研ぎ澄ませ! 貴様の剣はそこまで『広い』ものではないだろうが!」
ギルベルトの視界が細まっていく。雰囲気が一点に集中し殺気が凝縮される。ベルンハルトは肌に粟立つものを感じた。これがギルベルトの剣である。そしてオスヴァルトの剣である。何よりも――
「それでいい。だが、まだ広い!」
己が剣から最も遠い才能であった。
○
「たるんでいる。何よりも雑になっている。戦に染まりすぎだ」
「申し訳ございません、父上」
ギルベルトは憧れである父を見上げる。自身のひざはすでに崩れ、立ち上がることすらままならぬほどである。対する父はしっかりと地面を踏みしめて悠然と立っているのだ。まだまだ遠い。ギルベルトはそう感じた。
「剣として生きるを決めたなら雑念を捨てよ。思考を広く持てば持つほどに貴様の剣は鈍る。ただ敵を断つことのみを考えろ。それ以外は雑事、捨て置け」
ベルンハルトの言葉にギルベルトは浅く頷いた。どうしても気になることがある。ただこの場でそれを問うて良いのか、其処に迷いを見出していた。
「小休止のつもりだったのだがな。どうにも雑念が拭えていない。これ以上は無意味だ。稽古の妨げとなるならそれを解消せよ」
ベルンハルトはギルベルトの剣に迷いを見た。
ギルベルトはしばしの迷いを見せたが父に目を向ける。
「何ゆえ此度、リウィウスに手を貸したのですか?」
ギルベルトの下にもウィリアムから融資の願いが来ていた。当初はどの面下げて願いを出しているのかと自分の手で破棄しようとしたが、一応ウィリアムがこういう活動をしているという報告も必要と思いベルンハルトにこの話を持っていった。
「そんなことを気にしていたのか」
そこでベルンハルトが出した答えに未だギルベルトは納得がいかないでいた。ベルンハルトはこの件に関して金五百を融資すると決定したのだ。如何にオスヴァルトとはいえ金貨五百枚は大金、それをぽんと縁も所縁もない相手に差し出そうという。それに差し出すならば相手が違うとギルベルトは思っていた。
それは至極個人的な感情であったが――ちらりと視線を向けた先にはボロ雑巾の如く地面に横たわる青年の姿があった。意識は無い。
「そんなことと切り捨てるには金五百は大金。納得が出来ません」
「……難しい話だな。確かにやつが鉱山取得のみのために動いていたなら、俺はこの話を一蹴しただろう。それはどんな者にもできることだからだ。あの男である必要はない」
「ではなぜこの話を――」
「北方で一体型の製鉄所を設置する。この文言が俺を、アルカディア軍大将であるこのベルンハルトを動かした。これを成すは容易に非ず。しかし成せるならば、これはアルカディアが長年抱えてきた問題を一気に解消できることになるのだ」
ギルベルトには理解できない。話の繋がりが見えてこないのだ。
「第一に鉄だ。アルカディアには絶対的に鉄が足りていなかった。青銅などで補填していた分を今回で全て鉄製の武器に変えることができる。それも今までにない安価で、だ。しかし現状のアルカディアでは北方で産出された鉄鉱石全てを精錬する設備はない。増設せねばならないが、安定した地盤で森資源に満ちた土地はアルカディア国内に少なく、そしてそれらは貴族が所有している。容易く手が出せんし、出そうとするものもいない」
アルカディア国内にはしがらみが多すぎるのだ。加えて農業の面から考えても周辺での鉄の精製はうまくない話であった。大量の木と大量の水を使う鉄の精錬。そして流れ出る排水は有害とされていた。土地持ちはこれを承服しないだろう。如何に鉄が富を生むといっても、長期的な視野に立てば土地が汚れ森資源も失われる。アルカディア国内で精錬に向いている場所は、農耕を捨てるにはあまりに土地が豊かであったのだ。
「だが、北方ならばしがらみも少ない。もとより土地が痩せており、木々は多くとも農業には適さないのだ。我らが戦勝国であり有利な立場と言うのも大きい。北方に製鉄所を作るというのは至極理にかなっている」
ベルンハルトはため息をつく。
「そしてこれは第二の理由にもかかってくるのだが、住民の反対が極めて少なくなると予想できるということだ。むしろ、歓迎する動きすら出てくるだろう」
やはりギルベルトには理解できない。上の話はあまりに煩雑すぎるのだ。先ほどまで思考を極限まで絞っていた弊害か、どうにも頭が回らないことも手伝って理解には遠い状況であった。
「第二は人。北方を得た我々にとってかの地の民もまたアルカディア国民。未だ双方とも認識が追いついていないが、いずれは思想も含めてアルカディアの一員になってもらう。その上で重要なのは彼らをどうやって活用するか、だ。人資源を有効に使わねば大国に後れを取る。むしろ足を引っ張りかねない。されどかの地で農業をやらせるわけにはいかんだろう。今までどおり狩猟をして生活してもらうのでは活用とは言えぬ」
さすがにここまでくればギルベルトにも理解できた。鉄鉱石の採掘と鉄の精製、この二つを仕事として現地の人間を使えば人資源の活用にもなる。アルカディア国民を使うよりも幾分か安価に使えるだろうし、彼らはそれでも喜んで働くだろう。北方に産業を与えられるのだ。土地も人も有効に活用できる。
「あの男はここまで見越して動いているのだろう。これだけ多方面に頭を下げてでも、これを成す価値を見出しているのが証拠。思っていた以上に化け物。やつ自身か、それとも良いブレーンを持っているのかはわからんがな。極めつけは――」
ベルンハルトの拳に力が入るのをギルベルトは見逃さなかった。
「第三、武器だ。あの男は軍の人間。軍側の視点に立って武器を捌くだろう。今までの無駄や中抜きは消える。完全には消えんだろうが、大幅なコストダウンは期待できる。これから先、戦の時代において武器は数が必要になってくる。それを今の価格で揃えようと思えば国庫に大きな負担がかかるだろう。その軽減が出来るならば、軍を統括するものとしてこの案件、手を貸さざるを得ぬ」
今までの構造を大きく変える動き。これは痛みを伴う改革であろう。痛みを得るのは既得権益。今まで対抗馬がいないことを良いことに暴利をむさぼってきた害虫たち。彼らはまだ気づいていない。気づく前に勝負を決めねばならないのだ。
「そして最後に、これを成すのがウィリアム・フォン・リウィウスであるという点だ。これだけの大事、失敗すればやつは失脚するだろう。奴の名声は薄れ、稀代の愚か者として歴史に名を残すことになる。国を離れることになるかもしれぬ」
それの何が問題なのかとギルベルトは思う、感情では。しかし理屈では、これから先ベルンハルトが何を述べようとしているのか理解していた。
「あの男は傑物だ。間違いなく、どの国であってもあれは成功していただろう。もはや疑う余地などない。戦でも商いでも傑出した動きを見せている稀代の傑物がウィリアム・リウィウスと言う男だ。これから先の時代、波乱の時代が来る。そこで今のアルカディアが彼を欠くのは致命となりかねない。欠くだけならまだ救いはある。しかし、敵となったら? オストベルグに渡りストラクレスと組んだら? 青貴子と、アークランドの女王と……異人である以上そういう可能性もある。それだけは断固阻止せねばならない」
ギルベルトもぞっとした気分になる。失うだけならばまだ良い。問題は異人ゆえの身軽さ。失敗してもウィリアム・リウィウスを欲する国などどこにでもあるだろう。彼がその軍門にくだりアルカディアの敵となる可能性もあるのだ。
無論、ウィリアムの本性を知っていればこの不安は杞憂だとわかる。彼はアルカディアにこだわっているし、アルカディアから天に手を伸ばしたいのだ。まあ、知らぬものからすれば確かに不安になるだろうが。
「無論、道理に見合わぬことまで手助けする必要はない。今回は道理に見合った案件であっただけ。それだけのことだ」
それでも、ギルベルトの中にわだかまりは残る。異人であるウィリアムを偉大な父らがこうまで気を使わねばならぬ、その道理に腹が立つのだ。
「もし敵となっても、この国には父を初め多くの人材がいます」
「……どこにいる?」
ベルンハルトの目には見たことのない光が映っていた。自嘲のような、歯がゆさのような、悔しさのような、諦めのような――
「俺やバルディアスを容易く超えていく人材が、この国のどこにいる?」
「あの男が父上に勝ることなど」
「もうすでに超えられている。平地での野戦なら勝ちの目はあるかもしれんが、軍人としての総合力でおそらく俺やバルディアスはとうに抜かれているだろう。今ある差は立場の差に過ぎん。俺たちは旧くなった。そしてあの男は最新鋭だ。勝てる道理がない」
ギルベルトは愕然としてしまう。あの偉大な父が、尊敬してやまない自分の英雄が、こともあろうにウィリアムを指して自分より上だとのたまっているのだ。
「一騎打ちの強さが将の強さではない。それでさえ数年もしないうちに抜かるかもしれんが。奴の強みは戦場に留まらぬほどの視野だ。大局を見切り、それに応じた策が打てる。戦でも商いでも、勝負事に勝つものにはそういう強さがあるのだ。流れを征する力が」
納得には遠い。ウィリアムの優秀さはギルベルトも認めている。しかしそれが父を超えるとなれば話は別。そんな簡単な壁ではないのだ、ベルンハルト・フォン・オスヴァルトと言う壁は。そんな安い壁ではないはずなのだ。
「……わ、私がそうだとは言いません。しかしヤン軍団長を初めアルカディアにはまだ多くの人材がいるはずです。そう、彼なら、名家ゼークトの跡継ぎなら純国産の――」
発言の中、ヤンの名が出た瞬間にベルンハルトの顔が曇った。
「確かに。俺はお前とカール・フォン・テイラー、この二人の組み合わせには期待している。むしろこの組み合わせ以外、ウィリアムに比肩する可能性はないと思っているくらいだ。ただ、今名が出たヤン・フォン・ゼークトに関しては……認識を改める必要があるな」
ベルンハルトの目に哀しみが宿った。
「あの男はある意味でウィリアムよりも危険な男だ。奴はアルカディアを憎んでいる。この国を、この国を支配する貴族を、貴族が形成する社会を、あれは憎悪しているのだ」
ベルンハルトは深く息を吐いた。
「確かにあの男は英雄だった。誰もが将来を嘱望し、誰もが彼の栄光を疑わなかった。将来は大将になり、かの巨星を超えてくれると、誰もが思っていたのだ。それでも、やつはその道を選ばなかった。たったひとつの悲劇、いや、多くの悲劇が重なり、あの男は壊れた。ストラクレスの喉元にまでその刃を突きつけ、副将ベルガーを討ち取った男が、だ。悲劇が奴の眼から光を奪った。目的を、動機を失った。俺たちは見誤っていたのだ。あれが何のために上を目指していたのかを。アルカディアは、間違えた。それから十年、あの男は北方で幽閉されていた。悲劇と禁忌、二つが風化するのを待つかのように」
ギルベルトの知らない時代の話。兄貴分であった剣騎たちもこの手のゴシップはギルベルトには流さなかった。流すべきでないとの判断だったのだろう。ギルベルトが彼らに憧れたように、彼らもまたヤンに憧れの念を抱いていたのかもしれない。ベルンハルトもまた深く掘り下げることは言わなかった。悲劇とは何を指すのか。どうやらベルンハルトは深く事情を知っている様子であったが。まあギルベルトにとっては興味の薄い事柄である。
「あの男に関しては誰もが扱いを決めかねている。優秀さは折り紙つき。ストラクレスから受けた敗戦も、同世代のキモンを破り、当時上官であったストラクレスの右腕、副将軍ベルガーをも討ち取った上での敗北。ラコニアをあの男の同期であるお前の兄が死守したおかげで、実利は我が方にあった。ベルガーは大きかった。あれでストラクレス軍の力は大きく弱まったからな」
副将軍ベルガー。世代違いのギルベルトでも知っている名前。ストラクレスの剣として時には盾として戦場を駆けた英雄。その力は黄金世代と謳われた先々代、先代の三貴士とも渡り合えるほどで、ウェルキンゲトリクスとも幾度もぶつかり生き延びている。ガリアス、アルカディアからはストラクレスと同等に恐れられた人物であった。
「それでも恐ろしいのは真意がわからぬところだ。何ゆえ今更立ち上がったのか、国家存亡の危機とはいえ北方から出てきてそのまま大人しくラコニアの守備に収まった。今までどんな召集にも断り続けてきた男が、だ」
ヤンの印象にそのような陰は見出せなかったが、確かにあれほどのキレ者が未だそれほど名が広まっていないのはおかしな話である。むしろ風化させようとすらしていたのに、今更何ゆえ動き出したのか――
「話がそれたな。とにかく、ウィリアムを危険と認識するなら構わん。俺とてやつに信用など一切抱いていない。お前とカールがやつを越えれば大きな問題はあるまいよ」
ベルンハルトは休憩の終わりを自らの剣を抜くことで伝えた。ギルベルトもまた剣を支えに立ち上がる。休息は十分。結局のところ強くなるしかないのだ。ギルベルトと言う男が強くなることで抑止力になる。ウィリアムに対する対抗とならねばならないのだ。
「さあ、来い」
「往きます!」
ギルベルトの成長すなわちウィリアムに対する楔。強くならねばならない。内にも外にも敵だらけなのだから。強くなって損はない。
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