幕間:奪う者×護る者×奪われた者

 ウィリアムの編み出した対策がブリジットの剣を完全に殺した。

 居合い術が通らない。幾度も、幾度も、何度でも打ち込んでいく。それでも、ウィリアムは平然と全てを捌ききる。やはり眼は追いついていない。追えているのはブリジットの体捌きのみ。だというのに――

『何故ッ!?』

 上中下段、あらゆる打ち込み方をしても対応される。完全に見切られているのか、そんな思考がブリジットの脳裏をよぎる。それに首を振り、ブリジットは果敢に攻め立てた。

『とど、けェ!』

 距離を取るため後退、マイナスの運動。その大外から一気に踏み込み、プラスの運動。その緩急は容易に眼を置き去りにする。普通のものならば――

『貴女の動きは見えていますよ』

 確信に満ちた一言。急襲になるはずのそれは、むしろ振り子の揺れを利用され、相手に接近を許してしまった。完全に密着状態。

『くっ!?』

 ブリジットが離脱を試みようとするが――

『離しませんよ。いとしい人』

 ウィリアムが片手で柄を、もう片方の手で背中を抱きとめる。密着状態からの拘束状態。しかし、手がふさがっているのはウィリアム一人。

『この状態で何が出来る!?』

『何でも出来ますよ』

 ウィリアムは笑顔でブリジットの腹に蹴りを入れた。「ゴブッ!?」と血が混じった吐しゃ物を吐き出し、ブリジットの体がくの字に曲がった。それでもウィリアムは拘束を解かない。

『そろそろ祭りも終わり。宴も酣ですが、幕引きとしましょう』

 拘束を自ら解くウィリアム。しめたとばかりにブリジットは後退、引き打ちを敢行する。しかしそれは受けられることもなく虚空を斬った。その空ろな手ごたえに、ブリジットは驚きを隠せない。

『私の、ルシタニアの、レイの剣術を見切ったというのか!?』

 まなじりに涙を浮かべながら、ブリジットは突撃してくる。その動きは激情に浮かされておりながら、染み付いた緩急を使い最速を演出する。

『ええ、まあ』

 ブリジットの居合い術をかわすウィリアム。身体をかがめて、身体をそらして、もはや疑いようもない。ウィリアムは完全にブリジットの居合い術を攻略していた。受ける必要すらない。このような経験、ブリジットの記憶にはない。カイルでさえ、これほど完全に見切っていたわけではないのだ。

『だから、御仕舞いなんですよ』

 ウィリアムは斬撃に剣を合わせて打ち込む。思いっきり、確信をこめて、力で勝るウィリアムが打ち込んだ。ブリジットの手からはじけ飛ぶ愛剣。呆けるブリジット。その一瞬の隙を突いてウィリアムは返す剣でブリジットを断ちにいった。

「アっ」

 反射でかわそうとするブリジット。しかしその動きは先ほどまでと比して遅い。剣がブリジットの体を捉える。ブリジットを守るはずであった護剣。それが――

『私の、剣が、負けた?』

 ブリジットの体、その一部を断った。それはよりにもよってブリジットにとって一番重要なパーツ、居合い術を染み込ませた利き腕であったのだ。

 腕を失ったこと、それはブリジットにとって瑣末なことであった。ブリジットにとっての絶望は自身の剣が完全に見切られてしまったこと、その一点である。『ウィリアム』に対する思いを除いて、ブリジットの一生は剣と共にあった。決して恵まれた身体ではなく、女として生まれたにも拘らず此処まで高められたのは、その異常なまでの執着があったからに他ならない。

 ウィリアムは呆然とするブリジットを前に今一度剣を向ける。種明かしをする必要はない。そこから活路を見出されれば負けるのは自分なのだ。非情に徹し、確実に相手の命を絶つ。そうしなければ、この手合いは何度でも立ち上がってくる。

(君にとって、初めに奪った方は俺、か。そうだな、君は正しい。至極正しい。同じ道を歩むものとして、遠くルシタニアの地からここまで来たこと、復讐の芯をぶらさずに俺の前に立ったこと、全てに畏敬の念を覚える。だからこそ)

 ウィリアムは剣を振り上げた。

「殺さねばならない。俺の道を遮る以上、君を生かすという選択肢は俺にない!」

 それを振り下ろす。夫婦の絆ごと、復讐の情念ごと、ブリジットを断つ。呆けた眼から流れ落ちる一筋の涙。それを――

「理由も理解も必要ない」

 すくい取る。ウィリアムは目を見開いた。

「女性が泣いている。それだけで騎士が立つには充分であります!」

 ウィリアムの剣を止めたのは若き少年。その顔に浮かぶは憤怒。その背が語るは守護するという鉄の意志。ブリジットは正気を取り戻す。この国に来て、一番親しくなった、弟のように思っていた少年。

「貴様、何者だ?」

 名は――

「ガルニア島レオンヴァーン王国国王、ユーヨークの息子。ユリシーズ・オブ・レオンヴァーン。騎士であります!」

 噴き上がる闘志。それが獅子をかたどる。少年が持つ雰囲気を、ウィリアムは知っていた。以前戦場で出会った男、『獅子候』ユーウェイン、彼に近いものを持っている。

「ユーリ?」

 ブリジットが絞り出した声。その生気のないかすれた声を聞いて、ユリシーズは哀しそうな笑みを浮かべる。ユリシーズが幼き頃、姉や兄に呼ばれていた愛称、ユーリ。もう兄や姉がそう呼んでくれることはない。今となってはちょっとした偽名でしかない名前。そんな名でも『彼女』にそう呼んでもらえると力が湧いてくる。

「ご安心ください。もう喰らっておりますゆえ」

 そのまま特異な形状の刃を巧みに動かし、ウィリアムの手から剣を弾き飛ばす。ユリシーズの後方に飛んでいく剣。

「なに!?」

 ウィリアムは距離を取る。あまりにあっさりと自らの得物が奪われたことに動揺を隠せない。

「止血を」

 そのウィリアムから眼を離し、ブリジットの傷に自らのマントを食いちぎりあてがう。喪失した腕を見て、そこから流れ出る血の量を見て、ユリシーズは顔を歪めた。急がねば失血死する恐れもある。

「お逃げください。今すぐ傷を焼くか、縫合すれば一命は取り留められるはずです。この場はわたくしめにお任せを。必ずかの『白騎士』を討ち果たして見せましょう」

 処置を終え、ユリシーズは立ち上がる。視線の先にはブリジットの剣を握り締めるウィリアムの姿。ブリジットの血で染まった紅き剣。その構図の醜悪さに、この状況の胸糞悪さに、ユリシーズは静かに怒りを燃やす。

「アリガトウ」

 此方の言葉で放たれた感謝の言葉。それもまたユリシーズを燃え上がらせる。

 その場を立ち去るブリジット。血染めで動きは緩慢だが、眼は死んでいない。その眼を見て、ウィリアムは危険を感じる。ブリジットの怖さは居合い術などではない。ウィリアムと同種の存在であることが、ウィリアムにとって何よりも恐ろしい要因なのだ。

「逃がさん!」

 ウィリアムが急加速、そのまま曲芸師のように壁の凹凸を伝い走る。元々ファヴェーラほどではないが身軽さが売りであったウィリアム。よく盗みをして逃げる際、このような軽業的走り方をしていた。

 咄嗟のことにユリシーズは反応していない。少なくともウィリアムにはそう見えた。

「貴方の相手は私であります」

 真横上方を通り過ぎるウィリアム。そのはためくマントに突き立つ美しい短剣。それはユリシーズが闘技場で用いたマインゴーシュであった。

 空中で走る速度を殺され、そのままマントが破れて地面に落ちるウィリアム。そこにユリシーズはすかさず右手の長剣を用い斬りつける。ウィリアムはそれを転がって回避した。泥まみれになるウィリアム。この姿のウィリアムを、『白騎士』と思うものはいないだろう。

「邪魔をするなよクソガキ」

「お褒め戴き光栄でありますな。我が兄が世話になった分の返礼、本来ならばカール・フォン・テイラーに返すのが筋でありますが、貴殿にすべてお返しいたす」

 あくまでそれは建前。否、元々この国に訪れた理由はそれであった。兄を下した男たちを見極めるため足を伸ばした。その結果、姉のように強く美しい女性に出会えた。彼女に男として好意をもたれていないことは知っている。好きな人を探し続けたその背を見てきた。だからこそ、今日後をつけることができたのだ。彼女ならば絶対ありえない嘘をついたから。

「参るッ!」

 理由はわからない。しかし彼女を傷つけた。それだけで充分。

 ユリシーズは騎士である。騎士が守らずして誰が守るというのか。

 二人のまったく異なる騎士がぶつかる。


     ○


 幾度か打ち合った後、ウィリアムは理解した。目の前の相手は自分より明らかに劣ることを。その上で、この勝負、決して短時間で終えられるものではないことも理解する。

(あの左手の短剣、厄介だな。あれのせいで迂闊には攻められない)

 ユリシーズの持つ左手の短剣、闘技場で振るったものとは明らかに異なる形状。数多の本を読み知識を蓄えたウィリアムでさえ見知らぬ剣。その恐ろしさは先ほど身をもって体験した。

(あの凹凸、ギザギザの形状が相手の刃を喰らい、固定し、噛み千切る。あの『剣』じゃなければ折れていた。そのための武器か)

 ウィリアムが今持つ剣のつがい。『ウィリアム』の剣だから折れずに済んだ。自身が戦場で振るい続けた剣は、ブリジットに持ち去られた。早急に場を離れねばならないが、目の前の相手はすぐさま倒すには少々強過ぎる。

 ユリシーズもまた額に汗を浮かべる。目の前の相手は自分より明らかに強い。カイルと比べれば格段に弱いが、アークと並んでも遜色はないかもしれない。もちろんまだアークの方が上手に感じるが、それほど大きな開きを感じない。

(ブレイカーでも折れない剣。そもそも最初の一度以外喰わせてくれない。相手は頭も良い。たぶん、もうとっくにこの剣の特性に気付いている)

 レオンヴァーンに伝わる女児の剣がマインゴーシュならば、男児の剣がこのブレイカーである。特異な剣とそれを扱う技術の総体がブレイカー。相手を喰らう獅子の牙、喰らいついたら離さない。相手を噛み千切るまで――

(申し訳ございません姉上、兄上、わたくしは此処で……しかし、必ず守って見せます。騎士の誇りに懸けて!)

 ウィリアムが動き出す。それは素早くブレイカーの逆、ユリシーズの右側を取る。

「速い、が、ブリジット殿ほどではない!」

 その動きにユリシーズは喰らいつく。相手の方が強くとも、ブレイカーもまたマインゴーシュと同じ護剣である。攻めよりも守りの方が強いのは何も戦争だけではない。強い相手から時間を奪うくらいユリシーズにも出来る。

「こいつ!」

 ウィリアムは剣で断つことを瞬時に諦めた。すでにウィリアムの右側はブレイカーの範囲内。振らば喰われる。ゆえに――

「お仕置きだクソガキ!」

 未だブレイカーの範囲外であった左手を固めてユリシーズの右わき腹に打ち込んだ。

「ぐがっ!?」

 苦悶の表情を浮かべるユリシーズ。このまま横をすり抜けようとするも、遮二無二ユリシーズは右手の剣を振るいウィリアムを後退させる。

「ふぅーふぅー」

 涎を袖でふき取りながら、眼はウィリアムをしっかりと見据えている。その眼の色、覚悟の程を感じ取る。

 抜けられない。ウィリアムはそう判断した。

「認めてやろう。貴様を早急に攻略する術を俺は持たない。貴様は無駄に強かった。だから死期を早めることになった。仕事だ白龍!」

 ユリシーズの背に怖気が走った。咄嗟の勘でその場を飛びのくユリシーズ。その虚空を音無き抜き手が走る。空間を削り取るような一撃。

「俺は高いぞ」

「馬鹿を言うな。俺の未来の価値に比べればゴミ同然だ」

 ウィリアムは懐の中から金貨の詰まった袋を取り出す。想定外が重なっているものの、白龍を使う可能性は視野に入れていた。そのための金である。

「……承った」

 投げつけられた袋を受け取り、その重さで自身が買われたことを判断する。そうなってしまえば白龍に思考の余地は無い。ただ対象を殺すだけ。それが暗殺者である。

「安心しろ、俺は無駄な痛みは与えない」

 白龍の足元の石畳がへこみ砕ける。その瞬間、白龍の移動は完了している。爆発的な速度と静謐なる無音の足運び。ブリジットよりも速い。そして――

「安らかに逝け」

 五本の指がバキリと音を立てる。そのまま歪な掌底がユリシーズの顔面を削り取った。かに見えたがギリギリで回避し、そのまま足元を切りつける。その見事な体捌きを見ても白龍が表情を変えることは無い。

「足掻くな。足掻けば足掻くほど無様な死に様を晒すことになる――」

 それを跳躍ではなく、身体をそらしてかわす。その常人離れした体捌きにユリシーズの顔が凍った。ほとんど足の指、それだけで身体を支えている状態。軽業の域を超えている。

 そのままぬっと起き上がり、ユリシーズの追撃を、

「――ぞ」

 指二本で白刃取る。力いっぱい押し込んでもびくともしない。白龍の手に歪な筋が浮かび上がる。それは人を超えた膂力の証。暗殺者の頂点として君臨する最強の握力。

「さっさと行け」

 白龍がユリシーズを押さえ込んでいる間、悠々とウィリアムはユリシーズの横を通り過ぎる。「待て!」と言葉は吐くも、目の前にいる怪物への警戒で精一杯である。

「ありがとう友よ」

 ウィリアムの吐いた言葉に、白龍は顔をしかめる。

「思っても無いことをぬかすな。だから俺は貴様を好きになれん」

 去り行くウィリアム。追う事すら出来ず、ただ押さえ込まれているだけのユリシーズ。そしてその状況を作った張本人である白龍は静かに――

「このような面と向かった状態は本意ではないが、眠れ」

 ユリシーズへ死の宣告を告げた。


     ○


 ブリジットは必死に足を進めていた。すでに多くの血を失い意識は朦朧としている。それでもなお進むのは胸にくすぶる復讐心のため。勝てなかった時のことは考えていなかった。勝った後のことを考え、残していた『モノ』。それがブリジット最後の頼みの綱。これが届くかどうかはわからない。しかし、

(あの完璧主義者にとっちゃ、懸念が消えないのは苦痛でしょ)

 届こうが届くまいが嫌がらせにはなる。それを知ったときの表情を想像し、ブリジットは笑みを浮かべた。あの飄々とした顔を崩してやる。その思いだけがブリジットを前に進ませる。

 ブリジットは進む。祭の灯りの方へ。


 ウィリアムは焦っていた。焦っていながらもその足運びは正確そのもの。少年時代死ぬほど駆け回ったアルカスの裏路地。ここはウィリアムにとってホームも同然である。

(あの状態で祭の会場まで辿りつかれたら厄介だ。愚民どもに気付かれる前に――)

 勝てなくなったブリジットの狙いは一つ。

(――確実に殺す)

 最短を駆けるウィリアム。抜け道、近道、全てが頭に刻み込まれている。

 焦りながらもウィリアムには確信があった。

 この速度なら間に合うという確信が。


 ブリジットは背後に迫る気配を感じ取った。その足運びの速さはブリジットが先ほどまで切り結んでいた相手。追いつかれつつあるという事実。速いのもそうだが、迷いが無さ過ぎる。いくらアルカディアに住み着いて長いとはいえ、異人がこれほど正確に道を把握しているだろうか。しかも裏通り、普通の市民ならうろつかないところを。

(そうか。わかったわ。あいつが何処の誰か)

 ブリジットはこの国に来て普通の市民より、この辺りにうろついている連中の方に交流があった。その中には当然の如く奴隷もいた。解放された奴隷もいた。そして彼らは一様に言うのだ。奴隷では成り上がる術がない、と。

(仕組みはあのじいさんが教えてくれた。この国の制度が、奴隷を『上』に上がらせないのだと。私のウィリアムを奪った理由、裏通りに精通している理由、何よりも、強い理由がわかった。あいつから感じる泥臭いほどの業欲。普通じゃ身につかない)

 ルシタニアにいた頃のブリジットなら勘付くことすらなかっただろう。しかし此処までの旅が、地の底で足掻きまわった行程が、ブリジットの『地』の感覚を与えた。汚物にまみれ、泥水をすすり、その中で身に沁みた匂いを、あの男からも感じる。

(なるほどね。ならなおさら、ウィリアムを選んだ貴方を私は許せない。絶対殺してやる。私自身の手で、殺すことは出来ないけれど――)

 ブリジットの足に力がこもった。背後の気配が大きくなる。それに対峙する力は残っていない。意識は冴え渡っているが、肝心要の体はどんどん重くなるばかりである。それでも、一筋の光明が、ブリジットに力を与えた。

(――貴方が抗おうとしている世界が、貴方を殺す)

 ブリジットの顔に凄絶な笑みが浮かぶ。


 ウィリアムは祭の会場に至った。すでに会場はお開き状態。人通りは多くない。此処に来てウィリアムの顔に焦りが浮かぶ。此処まで来て、ウィリアムはブリジットを発見できなかったのだ。最短ルートゆえかち合わなかったのか、まだ辿りついていないように思える。朦朧とした意識の中、裏路地で倒れているのかもしれない。

(クソが。こっちに出てこられるのは最悪だが、見失うのもありえない。裏路地はこっちに比べて圧倒的に人通りは少ないが、ゼロじゃない。加えて祭がお開きになったなら、むしろ裏路地に向かう人は多くなる。時間帯も状況も、あまり良い状況じゃねえな)

 もちろん裏路地にもう一度入る必要がある。そこでブリジットを発見し、確実に始末せねば自分の身が危ない。ウィリアムは自身の道が閉ざされようとしている感覚を覚えていた。いつもは怨嗟で満ち溢れている頭が、今は狂った嗤いで埋め尽くされていた。

「何処にいやがる! 女ァ!」

 ウィリアムは裏路地で叫ぶ。危険な賭けだが、これで動きを感じ取れればリスクよりリターンが勝ると踏んだ。しかし動きは感じ取れない。賭けは失敗。

(……冷静だな。それとも死んでいるのか)

 死んでいるにしても死体から剣を奪い取る必要がある。『白騎士』の象徴である白銀の剣。それが異国の、しかもルシタニアの女性が持っていれば何らかの懸念は与えるだろう。逃がすわけにはいかない。死体でさえ、零れ落ちれば致命となる。

「落ち着けよ、俺。此処で、こんなところで堕ちるわけにはいかねーんだ」

 業がざわめく。ウィリアムは小石に躓いてしまった。天が、光が、遠ざかる。


 叫び声を聞いて、ブリジットはほくそ笑む。ウィリアムが考える以上にブリジットは冷静であった。満身創痍でありながら意識は冴え渡っている。ゆえに動かず留まることが出来た。その上で相手の動きをウィリアム自らが晒してくれた。

(勝った)

 ブリジットの頭の中で勝利への確信が満ちる。

 ウィリアムの足音がすぐそばを通り過ぎる。つまり、表側への道が空いたということ。ブリジットはゆっくりと足を運ぶ。音を立てず、ゆっくりと、しかし確実に前へ。

「マブシイ」

 光が、目の前にあった。

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