復讐劇『序』:白騎士

 ウィリアム・リウィウスは日課の早朝訓練を終え、テイラー家の庭にある小さな噴水で顔を洗っていた。ひんやりとした水が火照った身体をきゅっと締める。

 空気がつんと張り詰めていた。もうすぐアルカディアに冬が来るのだ。

「精が出ますね」

 身体を拭くための布を渡してくれるルトガルド。「ありがとうございます」とそれを受け取る。テイラー家では日常の光景。この時間起きているのはウィリアムとルトガルドだけであった。テイラー家の男衆は朝が弱いらしい。

「今日は良い日になるといいですね」

「そうですね」

 二人は噴水のそばに据え付けられているベンチに腰掛ける。すっと刺すような冷気が風と共に運ばれてきた。運動した後のウィリアムはともかく、動いていないルトガルドは寒いのではないかとウィリアムは考える。しかし、手元にそれをどうこうする手札はないし、そういう気遣いは求められていない気がした。

「そんなお気になさらなくても大丈夫ですよ」

 ルトガルドはくすくすと笑う。最近ようやくルトガルドも慣れてきたのか自然な対話が可能になっていた。最初期のたどたどしい関係から鑑みれば大いに進展している。年頃の男女として考えれば随分ゆるりとした関係ではあるが。

「しかし寒いでしょう? もうすぐ冬が来ますし、朝は冷える」

「だから着込んでいます。ほら、下にもう一枚……ちょっとはしたないですね」

「確かに」

 二人は笑い合う。特に張り詰めることもなく、朝のこの時間は過ぎていく。策略、謀略、昼も夜も休みなく頭を動かしているウィリアムにとって、この何も考えずただまったりと過ごす時間は、存外悪くない心地であった。

「衣装を用意しました。お気に召していただけると嬉しいのですが」

「ルトガルド様以上に私めのコーディネイトができる方を、私は知りません。拝見していないのに断言するのもどうかと思いますが、とても素敵な衣装なのでしょう」

「あ、あまり期待しないでください。そんな大した物じゃありませんから」

 かあと赤くなりうつむくルトガルド。こういう姿を見るといじめたくなる。

「大した物じゃない衣装を今日着るのですか。まあ大したことのない私です。お似合いかもしれませんね」

 その言葉を聞いて、ルトガルドの頬は先ほどよりさらに朱に染まる。口元はきつく引き締められ、下を向いてぶつぶつとつぶやいている。

 少し遊びが過ぎたかと謝ろうとしたその時、

「……ものです」

 ルトガルドの視線がぐっと上がった。顔は紅潮しているが、強い意志を秘めた目でウィリアムを見つめる。

「大したものです!」

 大声でルトガルドは言い切った。遠くでカールがベッドから落ちた。

「……じ、自信があります。だから、きっと似合いますし、似合うのは、ウィリアム様だけです」

 ルトガルドとウィリアムの視線が交錯する。ルトガルドがムキになった理由は、ウィリアムが自身を卑下したからである。だからこそ、衣装が大したものであると言い、それをまとうウィリアムが大した人物であると言ってくれたのだ。

 気遣いの意図はわかるが、この不可思議な勢いはウィリアムにとって謎である。

「冗談ですよ。私は貴女が用意してくれた衣装の出来を露とも疑ってませんし、それをまとう自分が、その瞬間だけは世界で一番素敵な存在になれると信じています。貴女と、私を信じています」

 見つめあう二人。一瞬、ウィリアムの脳裏にニュクスの感触がフラッシュバックした。だからというわけではないが意識してしまう。だが――

(深みに嵌まるな。こいつは所詮外側の人間だ)

 別の何かが囁く。それもまたきっと『ウィリアム』であり、意識しているのもまた『ウィリアム』であるのだろう。ウィリアムとして正しいのは、きっと割り込んできた方。それでも、こんな日の朝くらいは――

「手が、冷えています」

 結局、ウィリアムは接吻を選択しなかった。その代わりというわけではないが、手を握ることにした。今日は冷えるし、自分の手も冷たくなるかもしれない。それならば、互いの手で温め合う方が合理的である。

「……あたたかいです」

 ぎゅっと握り合う手と手。やはり寒かったのだろう。ルトガルドの手は温度を失くしていた。暖め合うというよりも熱を奪われている状態。他者から奪い続けてきたウィリアムが、他者に奪われている。この程度のことだが、奪われるのは久方ぶりであった。それも、自発的にこうするのは――

「今日は良い日です」

「これから、良い日にするのです」

 今日は、ウィリアムが百人隊長になる日である。

 そんな日の朝の出来事であった。


     ○


 その日はこの国の建国記念日であり、王家が民衆の前に顔を出す一年で唯一の日。この日の催し物のひとつとして、民衆から人気の高い『白仮面』ウィリアムの昇進式が執り行われることになっていた。いち百人隊長としては異例中の異例。

「緊張していますか?」

 そばに控えるフランクとイグナーツ。此度の昇進により明確な階級差が出来た。とはいっても普段から実質的な立場はウィリアムの方が上であったため、二人との関係に変化はない。二人としてはむしろ、わかりやすくなって良いというものである。

「少しくらい、すると思っていたんだがな」

 ウィリアムは哂う。これほど大掛かりなイベント。もちろん大きな建国記念日の催し、その一幕でしかない。が、それでもウィリアム・リウィウスにとって人生で初めてと言って良い大舞台であった。普通なら緊張してしまうだろう。

「普段どおりだ。なら装いの分、普段以上だろ?」

 ウィリアム自身は普段どおり。なればこの衣装の分、自分は普段以上である。言い聞かせているのではなく、自然とそう思えた。それはきっとこの衣装が想像以上によく出来ていたからで、何よりも自らの成長にようやく立場が一つ近づいたから。

 それでも器が満たされる気配はない。充足には程遠い。ゆえに今の地点はただの過程で、ただ踏みしめるだけの今日なれば――

「つまり、今日の俺は無敵だ」

 誰よりも上に立つ。そう思えば緊張などするわけがない。自分より上がいるから緊張するのだ。全てが下ならば意に返す必要もない。

「やっぱ、あんたはすげえや。素直に尊敬するっすよ」

 イグナーツはこの場において、さらに凄みを増したウィリアムに畏敬の念を抱いた。緊張するどころかより輝きを増す、そんな人間を彼は他に知らなかったのだ。

「ありがとう。それでは征こうか」

 白き衣をはためかせ、白き仮面の貴公子が天に向かい出陣する。


     ○ 


 カイルとファヴェーラは、この日この時ウィリアムが式典に参加することを知らされていなかった。それを他者から知ったとき、ファヴェーラは憤慨するもカイルは静かに納得する。ここはウィリアムの、アルにとっての通過点。たかだか通過点を報告する必要もない。今の彼ならきっとそう言うことだろう。

「でも、よくわからないけど凄いことなの? なら教えて欲しかった」

「人からすれば凄いことだろうな。だが、あいつにしたらそうでもない。それにあいつは意地っ張りだから……格好悪いと思ったんだろ」

 カイルは親友の意地っ張りで見栄っ張りな部分を知っていた。努力の過程を見せることを極端に嫌い、最初からすべてこなせるように動いていた。ウィリアムにとって未だ百人隊長でなかったことなど恥以外の何物でもなく、カイルたちに伝えることも恥としたのかもしれない。はたまたカイルたちと枝分かれし、己が道を行くと決めたのか――

「まあ遠くから見ててやろう。あいつの晴れ姿を。あの人の分も」

 カイルは覚えている。この国で三人しか覚えていないであろう女性の姿を。美しい笑顔を。そして姉弟ゆえ面影を残す親友との思い出を。もう見ることは無い二人の笑顔を。

「うん。しっかり見る」

 カイルとファヴェーラは裏通りをするすると抜け、表の人間が知らない最高の見物スポットに位置どる。それは眼下に広がるアルカディアを、度重なる戦勝に浮かれ狂喜する民草と、それを睥睨するこの国の怪物たちが一望できる場所。

「ごみみたい。全部死ねばいい」

「不謹慎なことを言うな。まあ知らん人間が死んでも心など動かんのは一理ある」

 カイルたちは遠くから見る。ウィリアムのもがく世界を。

 そこにカイルたちが手伝えることはない。それを知るがゆえに――


     ○


 民衆は王家の絢爛豪華な居姿を見て改めて知る。王とは天であり、民とは地であることを。人には分があり、相応の居場所があることを。豪奢な馬車に揺られて民衆に手を振る王族たち。民衆との距離はそこまで離れていないが、彼我の差は絶対である。誰も手を伸ばそうとすら思わない。

「騎馬だ! 騎馬が馬車に近づいてくるぞ!」

 民衆の誰かが指を差す。誰が見たって見劣りする。ただの馬に乗るものと、大馬車で天から見下ろすもの。馬から降り地を歩くもの。大馬車で座り天から睥睨するもの。この差は絶対。揺らぐことあたわず。

「あれが、白仮面、なのか?」

 建国記念は祭りである。これより冬を迎えるアルカディア最後の祭り。ゆえに大街道はにぎやかで静まることなどない。

 しかし今、確かに街道が、国中が静まり返った。

 たった一人が馬から降り立ち、歩き進むことにより。

「ほう。これはまた」

 エアハルトは天より見た。地を這うムシケラにも劣る存在が、分不相応にも天に手を伸ばす愚か者が、ようやく掴んだ一本の糸。それを離さぬともがく姿。醜いと思うと同時に美しいとも思う。


 ウィリアム・リウィウスが颯爽と現れた。


 白き仮面、白き装束。真っ白で穢れなき姿は地を這うムシケラにあらず。白き装束は青と金の刺繍が施され、所々を護る白き鋼は武の匂いを醸し出す。腰から下げられている剣は愛用するルシタニアの剣。それを納める鞘もまたルトガルドがデザインした芸術性と機能性が交じり合った一品。

 今の彼は貴公子であり、武人である。

「白き、騎士だ」

 誰かが言った。それは静寂を切り裂き大勢に伝播する。もはやミステリアスなだけの『白仮面』を思うものなど誰もいない。

 貴と武をまとう者。人はそれを騎士と呼ぶ。

 美しき騎士は馬から下りてさえ、その美貌を損なわない。ただ歩くだけで絵になる。ただそこにあるだけで絵画となってしまう。存在が芸術、存在自体が剣。

「御前である。その仮面を外すのだウィリアム十人隊長」

 天からの命。騎士が従わぬはずもない。ためらわずウィリアムは仮面を脱ぐ。

「おお!」

 民衆は息を飲んだ。あれほど隠してきた素顔。あれほど秘してきた真の姿。隠すというのはやましさの現われとして不細工なのではという見方が多かった。しかしそれでも人は期待してしまう。隠された、異国の、市井の英雄。その謎めいた存在に。ロマンを見る。

「失礼します陛下。御見苦しい姿を御前に晒すこと、ご容赦頂きたい」

 世界が揺れる。

 仮面から開放された顔は、誰が見ても魅力的な男性であった。顔立ちは中性的でありながら、歩んできた道が彼に武を、男性を与える。すらりと通った鼻筋、切れ長の瞳は彼の騎士性を際立たせる。極めつけはその白き髪。混じりっ気のない純白。さらりとそよぐ幻想的な光景に、人々は声にならない声を上げる。

 王族や周囲の建物から見物している貴族たちも息を呑んだ。そのあまりの美しさに気絶するものすらいた。すでに天への羨望のまなざしは消えた。すべての視線がウィリアム・リウィウスただ一人に注がれている。

 地の底に揺らめく輝き。最初に会ったときは取るに足らぬものであった。今もって自身の地位を脅かすほどとは思えない。しかし、光は確実に、とてつもない速度で増している。これから先、もしかすると――

「陛下、たかが十人隊長の昇進。陛下のお手を煩わせるまでもありません。僭越ながらこのわたくしめに代役を務めさせていただけませんか?」

 エアハルトの言葉に、玉座に座る男の目が鈍く光る。

「今更それを言うかエアハルトよ。眼下の男、よほど気になると見える」

 近くに座る男が口を挟もうとするも、玉座のひと睨みで押し黙るしかない。

「よかろう。もとより余の手を煩わせることでなし。好きにせよ」

 天の許しを得て、エアハルトは立ち上がった。

「しかしエアハルトよ」

 呼び止められ、エアハルトは玉座に向く。

「わかっておろうな」

 その声は深遠にして超越。その場に居合わせた王族全てがごくりと喉を鳴らす。王と王族では背負うものが違う。王は孤高であり、絶対である。ゆえに――

「無論でございます陛下。圧倒してごらんにいれましょう」

 その代役もまた、絶対をまとう必要があるのだ。


 エアハルト・フォン・アルカディアが燦然と現れた。


 天と地が交差する。黄金の絶対者と白銀の皮を被った化け物。その本質は似ている。その根幹は同じ。奇しくも初めより天上で生きる者と地の底から這い上がってきた者、お互いがお互いを似ていると感じた。

「…………」

 民衆はその黄金に目を焼かれそうになる。絶対者の本性はほの暗い地の底で生きる民にとってあまりに眩し過ぎた。目を焼き、脳をとろかし、心を奪う。エアハルトにはその天性が、王としての資質が十全に備わっている。

「アルカディア王エードゥアルトの名代、アルカディア王国第二王子エアハルト・フォン・アルカディアである! 我が前に来たれ! ウィリアム・リウィウス十人隊長」

 この世界では『力』こそ正義。

「喜んで。我が主、エアハルト・フォン・アルカディア様」

 武力、知力、財力、権力。その総合力が人の価値。そのどれかが秀でていればひとかどの人物であろう。飛び抜けていれば天才だと言える。

 ウィリアムの歩みは澱みなく、エアハルトの笑顔に揺らぎはない。

 そしてその『力』、全ての総合力で最も秀でているものを王と呼ぶ。

「良くぞ参った我が騎士。されば我が騎士、ウィリアム・リウィウスに問う。汝、アルカディア第二軍、このエアハルトが総指揮を勤める軍団に忠誠を誓うか?」

 エアハルトは生まれながら最上の権力を有している。

「我が剣に懸けて誓います」

 ウィリアムは生まれながらに最下の権力を有していた。

「汝、我らが王、エードゥアルトに忠を尽くすか」

 本来なら交錯する筈のなかった両者。

「誓います」

「汝、我らが栄光のアルカディアに命を捧げるか」

「この命、我らがアルカディアに」

 エアハルトが己の腰に帯びた剣を引き抜き、ウィリアムの心臓に剣を添える。微動だにしないウィリアム。エアハルトはさらに突き入れる。

「ウィリアム・リウィウスが命、王の名代であるこのエアハルト・フォン・アルカディアが貰い受ける! 面を上げよ。我が騎士」

 うっすらと血が滴る落ちる刃。それを見上げる形で視線が交錯した。

「ウィリアム・リウィウス十人隊長。汝を我が軍の百人隊長に任ずる」

 群集が一斉に沸き出した。わかりきっていた結果であったが、それでも民衆にとっての人気者が出世したのだ。沸き立つ理由には充分。

「御意」

 ようやくウィリアムは権力の一端を掴んで見せた。最下層から始まった人生。その運命が大きく変わる。地の底から天へ。此処からも邁進するのみ。

 エアハルトは一拍置き、ウィリアムを観察していた。ようやく掴んだ百人隊長の地位。これからどう活かすか考えているのだろう。すでに心ここにあらずの状態。エアハルトは微笑む。まだまだ可愛げのある野心家の姿に。

 まだここは舞台の上、気を抜いて良い場所ではない。

「そして、我が騎士ウィリアム・リウィウス。汝を我らがアルカディア王国における騎士に任ずる。称号に恥じぬ働きを示すがよい」

 世界が、そしてウィリアム自身が激震した。

「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 民衆が雄たけびを上げる。市井の英雄が騎士の称号を得たのだ。異国出身とはいえ貴族などより、よほど親近感のある存在。民衆は市民(ウィリアム)を自分に重ね、それが高みに昇るという事実に浮かれていた。

「驚いたかな? ウィリアム君」

 小声でウィリアムに語りかけるエアハルト。私事にて声をかけられたのは初めてであった。

「もちろん君の活躍は十二分、騎士に値する。でもわかっているだろう? それだけじゃ君たちは上がれない。天が上がらせてくれない。身に沁みたよね? 長かったからねえ、百人隊長までの道のりは」

 当たり前だがすべてお見通し。アンゼルムから陳情があったことを知れば自然と繋がりは見えてくる。どういう手を使ったかまでは誰にもわからないだろうが。

「どなたが手を回してくださったのですか?」

 これまた小さな声でウィリアムが問う。それを聞きまたしても微笑みを深めるエアハルト。

「……やはり知らぬか。く、くく。君は面白い。そして運もある。だが、王宮でやっていくには少し、隙が多過ぎるよ。その問いで君は、自分の手札をさらしてしまったのだからね。気をつけたまえ」

 やはり何らかの力が働いたのだろう。エアハルトは半分程度それをウィリアムが動かしたと思っていたらしい。しかしウィリアムに心当たりはなかった。あるとすればアンゼルムくらい。だが、クルーガーは武家。騎士位をどうこうする権利はない。

 いや、そのことはどうでも良いのだ。良くないが、この場において決して大きな問題ではない。最大の問題は、今この瞬間、騎士位を得たことで緩みを見せてしまった己の迂闊さにある。

「近々君を我が屋敷に招待しよう。身内の質素なパーティだけどね」

 まさかの誘い。何かがエアハルトの琴線に触れたのだろう。エアハルトの身内ならば王族かそれに近しい者たち。質素などとはとんでもない話である。

「喜んで」

 ウィリアムとしても断る理由などない。断れる立場でもない。

「これからもよろしく頼むよ。私は君に賭けているんだ」

 そう言ってエアハルトはウィリアムに背を向けた。二人の間でのみ交わされたやり取りで、彼我の優劣を刻み込みて――

 結局全てが謎のまま、熱狂に浮かれる民衆を他所に、ウィリアムはこのわからないという状況に汗をかいていた。

(騎士位だと? どうなってやがる。誰が動いた? テイラーにそんなコネはないし、クルーガーも畑違い。オスヴァルト? ありえない)

 どれだけ頭を働かせても答えは出ない。情報が少な過ぎたのだ。

 熱狂は過熱する。今日は色々忙しくなるだろう。騎士と百人隊長。カールと同じようでまったく意味合いが異なる事態。考えれば考えるほどドツボに嵌まっていく気がしていた。

(何よりも……今の俺の底を、あの男に見せてしまった。俺に賭けているだと、ふざけやがって。どんだけ高いとこから見下ろしてやがる)

 それでも民衆に向けて笑顔を振りまき手を振る。民衆はウィリアムにとって大事な存在である。貴族ではないウィリアムを支えたいと思わせたならもう勝ちと言っても過言ではない。貴族に好かれねば上にはいけないが、民衆に好かれねば下支えがなくなる。その下支えが上に立った時役に立つはずなのだ。

「ウィリアム! ウィリアム! ウィリアム!」

「アルカディア万歳!」

 冬を前にして、アルカディアの民は熱狂の中に居た。

(くそったれ。今に見ていろ。必ず、その薄ら笑いを粉々に打ち砕いてやる)

 当の本人を除いて――

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