遅延
さんすう
遅延
行きも帰りも、電車の遅延に遭遇した。
10分や20分の話だとはいえ、同じ日に二度も遭うと、なんだか辟易とする。
スピードを上げたかと思うと、時にゆっくりになる。ノロノロとしばらく走って、また気がついたように加速する。ゆらゆら、揺れながら。カーブを曲がりながら。
月曜からこれか、とうんざりした気持ちを抱えて、街の灯りが後方に流れてゆく車窓に目をやる。
今日の仕事も、疲れた。これといって張り切ったわけではないのに、ただ机の前に座って時間が過ぎていただけなのに、ひどく疲れた気がする。
上司とのやりとり、同僚の笑い声、部長の苛立ち。
身体の疲れと一緒くたにして、流れゆく車窓に投げ捨ててしまえたら、どんなに良いか。
流れる車窓を見ていられなくなって、無機質に明るい車内に目を向けた。
座席に埋もれるようにして眠る中年男性、スマホを忙しく触る女子大生、本を読みふけるOL、うとうと舟を漕ぐ女子高生。
誰もかれもが、誰もかれもの日々を終えようとしている。
何が彼を眠らせているのか、何が彼女をスマホに熱中させるのか、何が……私はそれらを知り得ない。
だけれども私達について確かなことは、速度を加減速しながら進む電車に、同じくして揺られているということだ。
ふと、車両の隅の方に縮こまるように俯いて座る女性が見えた。
毎朝、通勤時間が被っている、名前は知らないあの人だった。
あなたも、今日が終わろうとしているのですね。
今日は、どんなだったですか。
お疲れでしたか。充実していましたか。
車掌の放送が流れ、次が降車駅だと気付いた。
いつの間にか、遅延時間も縮まっていたようだった。
遅延 さんすう @i_ssue619
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