告白

胸糞の悪い話を成田美鈴は真剣なまなざしで聞いていた。どうしてこの話を成田美鈴にしたのかは自分にもわからない。おそらく、わかってもらいたい自分がいたのだろう。当の昔に、わかってもらおうとすることをあきらめていたのに。

「千葉君は本当にその人のことを愛していたんだね」

 無言の後に成田美鈴は言った。もちろん愛していた。いや、過去形じゃない。

「今でも愛してるよ」

 そっか。と成田美鈴は吐き捨てるようにいった。言葉にはあきらめのようなものが浮かんでいた。

「それで、真帆ちゃんは幸せなのかな」

 ん? こいつは何を言っているんだ。

「死んでしまった人が、本当に愛していた人に願っているのは、ずっと愛し続けてくれることなのかな?」

 自分の中で醜い感情がうごめいているのが分かった。それが、言葉となって出てくる。、

「お前に、俺と真帆の何がわかる」

 気が付くと、自分では出したことのないような低く、どすのきいた声が出ていた。それに、いつの間にか、成田美鈴を壁際まで追いつめていた。

 さすがの成田美鈴もここまですればおとなしくなるだろうと思っていた。しかし、成田美鈴の目は変わっていなかった。

「死んだ人はもう帰ってこない。どれだけ思い続けても」

 そんなのわかってる。いわれるまでもない。言葉の一つ一つが僕をイラつかせる。

「死んでしまった私を忘れちゃうのはさみしいけど、私に縛られて幸せを掴めないのは本望じゃないよ」

「あ?」

「うんん、そう思ってるかなって思っただけ」

 成田美鈴はにこっと笑って付け加えた。なぜそこで笑う。毒気を抜かれたように怒りが静まっていく。

「ちょっと、いい加減離れてよ」

 言われて、成田美鈴との距離感に今更気づきb飛びのいた。怒り任せに鼻がつくような距離まで近づいていたようだ。

「それじゃ、僕は今日は帰る」

 気まずくなってカバンを背負って逃げるように部屋を出ようとした。しかし、それに待ったがかかった。

「最後にいいこと教えてあげる」

 部屋の扉に手をかけたとき呼び止められたのだ。無視することもできたが、耳だけを傾ける。

「七不思議。最後の一つ」

 思わず耳を疑った。まさか、成田美鈴からその言葉が出てくるなんて思ってもいなかった。思わず振り向こうとしたが、なぜか体がそれを拒否している。

 そんなことお構いなしに、成田美鈴は続けた。

 それを最後まで聞き終えた僕は笑うしかなかった。最後の一つは、現実味がなさすぎて。そして、あまりにも切なく、悲しいものだったから。僕は、こらえきれなくなって思わず天を仰いだ。









『決められた花を決められた順番で花瓶に入れて飾ると、死んだ人と話せる』

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君の伝えたいこと 横本 優志 @takashi19992407

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