67 黄昏よ、時間を止めて 

 


 軍用ヘリ二機は東に向かっている。

 成田毅は操縦席越しに前方をゆく桜子らが乗っているヘリをぼんやりと眺めていた。昨夜はほとんど眠っていない。全員無事だという情報を得て、心が穏やかになった。グレイの背中を擦っていると、絶え間なく睡魔が襲ってくる。

 運転しているのは、蜘蛛頭アンドロイドだ。助手席にいるのも、アンドロイド。

 成田は左足を負傷していた。桂木から貰っていた消炎鎮痛剤と抗生物質を呑んだ。


「後一時間で、ヘリを乗り換えます」助手席のアンドロイドが言った。

「このヘリは攻撃用ですので、輸送用高速ヘリに乗り換える必要があります。それまで、食事と水は我慢してください」

 後一時間というと、午前八時か。

「東京の日没までに、間に合うのか」

「間に合います。何もなければ」

 乗り換えの時に、桂木に負傷した足を診てもらうことにしよう。


 予定通り、ヘリは目的地に着いた。

 寺島軍団の中継基地だった。

 様子がおかしい。ヘリの残骸が点在している。着陸すると、軍団兵士が走ってきた。

「攻撃を受けました。予備のヘリを用意しています」

「もう一機はどうした」

「現在、左後方二キロ地点に避難しています。全員無事です」

「ハバロスクに十二時半までに着けるのか」

「はい。ぎりぎりですが」


 成田は軍用リュックサックを背負ってヘリを降りた。

 グレイも飛び降りる。

 すぐヘリに燃料の補給が始まった。

 ヘリが一機飛んで来て、着地した。桜子が下りてくる。ドルマーが下りてくる。二人が成田に向かって走ってくる。

 ドルマーが成田に抱きついた。桜子も加わる。

 桂木と綾人が歩いてきた。

「無事でよかった」

 桂木はそう言って、成田の肩を抱いた。

「足、ケガした?」

 成田は頷いた。

「見せて」

 桂木は成田をヘリポートに座らせて左足のブーツを脱がせた。足の指を掴んで動かし、成田の顔をみる。

「大丈夫、捻挫と擦過傷」

 桂木は立ち上がると、ヘリに向って歩き出した。医療用バックを取りに行ったのだ。


 成田は桜子たちと共に高速輸送ヘリに乗った。

 八時三十分、ハバロフスクに向かって飛び立つ。いままで乗ってきた戦闘用ヘリ二機が護衛のため追尾してくる。

 成田は軍用リュックサックを抱えると、会話する間もなく眠りに落ちた。


 ハバロフスクに着いたのは、午後十二時三十五分。

 高速軍用機に乗り換える。

 ただちに府中に向かって離陸した。

「飛行時間は何時間?」

 成田は同乗してきた女兵士に尋ねた。

「およそ二時間三十分です」

「時差はどれくらい?」

「一時間です」

「府中の日没時間は?」

 女兵士はタブレットを操作した。

「四時二十九分です」

 成田は後部シートに体をゆだねた。


 黄昏よ、時間を止めてくれ……。

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