65 生き残れるか、最後の戦いが始まる
シベリア特急貨物便は十両編成だった。先頭から前の五両は無蓋車、エゾマツ、カラマツの木材が積載されている。その次の二両は有蓋車でチタン、ニッケル、プラチナなどのレアメタルが木箱に入って詰め込まれている。最後尾の三両は空の有蓋車だった。途中の停車駅で貨物が積み込まれてくるのかもしれない。
食事をし、仮眠をとった。
停車した。前の車両で、扉が開く音がする。
成田毅は前の車両へ歩いた。八両目車両に貨物を積み込む作業をしている。成田は九両目車両の明り取りの窓を引いて、外を見た。大型トラックが横付けされていて、作業員が大声で怒鳴りながら、段ボール箱を貨車の中の作業員に数人がかりで
明り取りの窓を閉じて、十両目車両に戻った。
全員が起きていた。成田は説明した。もし作業員が来たら、誠実に事情を説明するしかないと付け足した。
二十分ほどして、貨車は動き出した。
成田は手首のモニターを見た。午後四時十分。このスピードで行けば、ハバロフスクまで何日かかるか分からない。成田はペンダントで寺島総裁に連絡することを提案した。反対する者はいなかった。
首からペンダントを外す。手に持つ。直径が三センチもある大きなペンダントだ。今まで気に留めたこともなかった。それが良かったのかもしれない。ララモントにも、ローランマーラにも知られることがなかった。
ペンダント真ん中の指先ほどの灰色のボタンを押した。ボタンが赤く光った。そのボタンをさらに押し込む。ペンダントが揺れた。
「こちらは、マリ」
すぐ寺島総裁の声がした。
「ナリタタケシです。今シベリアチタ付近を、シベリア特急貨物便で。ウラジオストクに向かっています。全員無事です。至急救出お願いします」
「アヤトはいるか」
「お婆さま、アヤトです。サクラコも元気です」
「すぐ救出部隊を送る」
通信が途絶えた。
成田はペンダントを床に置き、靴で踏みつぶした。
「さあ、みんな戦闘開始だ。唐沢軍団が追ってくる」
成田はモンゴル衣装デールを脱いだ。
成田はヘルメットを被り、レッドを入れた軍用リュックサックを背負った。電磁波砲を肩に担ぎ、電磁波銃を手にする。桜子も桂木も、成田と同じ武装をした。問題は綾人とドルマーだった。成田は綾人に電磁波銃を渡し、操作方法を教えた。桂木とブルーを綾人の護衛に当たらせる。ドルマーは桜子とグレイに任せた。
星空の下、シベリア特急貨物便が朝焼けに向かって走っていく。今日は十一月二十九日、午前五時二分。タイムリミットまでおよそ三十六時間。
後方から轟音が聞こえてきた。
成田はデッキに出て、西の空を見た。
軍用攻撃ヘリが、熊蜂の群れのように飛んでくる。
成田は深呼吸した。
さあ、最後の戦いだ。
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