64 シベリア特急貨物便




 成田毅は軍用リュックサックに、五日間の食料と水を詰め込む。武器、日常品、予備の食料、水を大型バックに入れ、馬の背に載せる。桂木は薬品類をバックに詰め込み、馬上に括り付けた。


 成田毅は展望室に入った。

 運転操作盤の右端の緑色の蓋を開ける。赤いボタンが現れた。そのボタンを押す。モニターにメニューが現れる。その中から、攻撃を受けた瞬間戦闘モードに突入。バリアを張る。電磁波攻撃を開始。ミサイルに接近し、射程に入ったら自爆する。五つのメニューを選択する。ミサイルの映像を入力し、記憶させ、待機状態に設定する。最後に待機解除行動システムを設定する。

 エンターキィを押した。

 


 各自リュックサックを背負った。

 桜子はレッドを袋に入れ抱えた。

「サクラコ、レッドは置いていけ。レッドはスクラップだ」

 成田毅は作業の手を止めて言った。

「日本に連れて帰る。ここに残していけない」

「だめだ。ここに置いていけ。これから、何が起こるか分からない。あしでまといになるぞ」

「わたし、レッドと約束した。もう、置き去りにしないって。わたし、絶対約束を守る」

 成田はため息をついた。

「だめだったら、わたしもここに残る」


 成田は桂木に視線を送った。

 桂木は笑みを浮かべている。

 成田はリュックサックを下ろすと、中の物を全部出した。桜子からレッドを受け取ると、リュックの中に押し込む。床に転がった食料と水を選別し、手持ちのバックに入れる。桂木はリュックを下ろすと、成田に手を差し出した。

「わたしも、あなたの食料を持ってあげる」

 綾人もドルマーも桜子も、手を差し伸べた。



 遠くにゲルが一棟見える。その脇に馬が一頭繋がれている。

 ドルマーが先頭にたって馬を走らせる。

 ゲルに辿り着くと、ドルマーがドアを叩いた。青い縦襟の長衣を着た若者が現れた。


 成田がドルマーの肩越しに言った。

「あなたが、今着ている服を譲ってくれませんか。わたしたちは日本から来た医療団です。これからシベリアのヒロクに行くのですが、寒さに耐えられそうもありません」

「五着か。今はかえ着の一着しかない。無理だな」

「ヒロクまで案内してくれないか。勿論、お礼はする」

「お礼?」

「ヒロクに着いたら、馬を全部譲ってもいい」

「水はあるか」

「ある。少しなら」

「馬に飲ませる水だ」

「バケツ一杯分ぐらいなら」

「明日、仲間が七人来る。バケツ一杯では、足りない」

「明日?」

「明日、ヒロクに羊毛を売りに行くんだ。八頭分必要だ」

「その服は、五着揃うのか」

「揃う。ヒロクでも、デールは売れるのでね。持ってくるはずだ」

「分かった。お礼は馬五頭、水八頭分でどうだ」

「それでいい」

 若者は手を差し伸べた。成田は強く握り返した。


 結局、ヒロクに向かうのは、二日後の十一月二十五日になってしまった。平坦な道ではないので、途中で一泊し、ヒロクに着くのは十一月二十七日、午前十時ごろとのことだった。ヒロクをシベリア特急貨物便が出発するのは、午前十一時五分。時間的には厳しいが、モンゴルのキャラバンに加わって行けるのは心強い。

 

 二十四日正午、若者の仲間七人がやってきた。荷馬車を仕立て、スパイダーまで水を取りに行く。帰ってきたときは、夕闇に閉ざされていた。

 成田はスパイダーをシベリア特急停車駅ウラン・ウデの南方、シベリア共和国国境に向かわせた。ウラン・ウデに向かいシベリア特急に乗る。唐沢軍団にそう思い込ませる陽動作戦だった。

 

 二十六日早朝、桜子チーム五人はモンゴルの民族衣装デールに着替え、モンゴルのキャラバンと共にヒロクに向かって出発した。

 

 ヒロク駅に着いたのは、午前十時五分。シベリア特急貨物便が出発するまで、一時間。成田はスパイダーの待機を解除、シベリア共和国に向かわせた。間もなく唐沢軍団の攻撃が始まるだろう。攻撃をうければ自動的にバリアが張られ、電磁波攻撃を開始する。バリアは一時間は持つだろう。スパイダーが向かうのは、ミサイル発射台だ。一時間あれば、辿りつくはずだ。


 成田は馬五頭をモンゴルのキャラバンに譲りわたし、別れを告げる。

 軍用リュックサックを背負い、バックを抱えて鉄道ヤードに入る。時間は十時五十分。発車は十五分後。

 貨物車最後尾に辿りついた。デッキにドルマーを乗せる。桂木を乗せる。綾人を乗せる。桜子を乗せる。グレイとブルーが飛び乗った。各自のリュックサック、バックを一つずつ持ち上げ、桜子の手に渡していく。

 午前十一時五分、発車のサイレンが鳴った。

 成田はデッキの手すりを掴んで体を持ち上げ、乗り込んだ。貨車が激しく揺れる。成田はその場に座り込んだ。


 西の空に閃光が走った。爆発音が響き渡る。

 スパイダーが自爆したのだ。


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