63 命のペンダントを使うか、ミサイル発射台を壊滅させるか



 目的地点に辿り着いた。

 このまま北上しシベリア共和国に入れば、イルクーツクまで二百七十キロだ。


「黒幕は、唐沢ホールディングスだったのか。それに戸倉絵美が絡んでいた」

 成田毅は朝食をとりながら桜子の話を聞いた。南海のプラットホームを攻撃したのも、唐沢軍団の仕業だったのだろう。成田の心にあの時の悪夢が蘇る。

 そうすると、イルクーツクからシベリア特急に乗るのは困難かもしれない。シベリア共和国の国境は、唐沢軍団が支配しているにちがいない。彼らは、寺島綾人を十一月三十日までに日本に戻らせなければ、目的が達成できるのだ。モンゴルに閉じ込めておけば、後でいくらでも始末はできる。


「タケ爺、これ拾った。タケ爺の鳥でしょう」

 ドルマーがバードロボを差し出した。それはスカイだった。

「どこで、拾った」

「中国に入ったとき、地面に転がっていた」

 スカイの体に銃痕がついている。ララモント兵が発砲した銃弾が当たったのだろう。


「それ、直せるかもしれない」

 桜子が如意棒を一メートルに伸ばした。手元の部分を手前に引く。赤いボタンが現れる。

「ジャンに教わったの。スカイを床に置いて」

 赤いボタンを押し込んだ。

「ダン、修復」

 スカイが緑色に染まる。


 スカイが羽ばたいた。

「スカイ、肩に止まって」

 成田が言うと、スカイが飛び立ち成田の肩に止まった。

「スカイに、もうひと働きしてもらおう」


 スカイが北に向かって飛びたった。グレイが地上を北に向かう。

 タブレットにイルク―ツクへの道の映像が映る。五キロも行かないうちに、唐沢軍団のロボット部隊が密集しているのが映し出された。その先に、ミサイル砲の発射台が見える。

 成田はスカイとグレイを引き返させた。


 成田はテーブルにタブレットを置き、北モンゴルと隣接するシベリア共和国の地図を映し出した。シベリア特急は日に一度運行している。

 できるだけ遠くの駅に行かなければならない。仮にチタまでとすると、千キロ以上ある。遠すぎる。近くの駅は、警戒網が引かれているだろう。シベリア特急で日本に辿りつくのは、非常に困難だ。


「あのペンダントを使う時期じゃないの」

 桂木がぽつりと言った。

 あのペンダントというのは、日本を出発する前夜、寺島総裁から渡された連絡手段用のペンダントだ。総裁の予測通り、一回でも使うと唐沢軍団に今いる場所が知られてしまう。そして寺島軍団救出部隊との戦闘が起こりかねない。

「命のペンダントを使うのは、もう少し、先にしましょう」

 成田は頭を掻きながら言った。


 スパイダーは、東に向かった。

 目的地はヒロクの南、シベリア共和国国境。およそ四百キロ、半日の行程だ。

「わたし、ヒロクに行ったことがある。一年前、お父さんと行った。馬の競り市があったの」

「そうか、行ったことがあるのか。どんな町だい」

「貨物がたくさんある町。そう、シベリア特急の貨物便が停まる町なの」

「貨物便?」

「そう、週一回来るの」


 成田はタブレットで貨物便の時刻表を検索した。

「ドルマー、今年も馬の競り市があるのかい」

「あると、思う」

「そうか、今でもやっているといいが」

 シベリア特急貨物便が、ヒロクを発車するのは、十一月二十七日、午前十一時五分だ。今日は十一月二十二日。後五日ある。

 成田は桜子と桂木に説明した。二人とも腕を組んで沈黙した。

 

「二十七日は、きついわね。残りが、三日しかない」

 長い沈黙のあと、桂木はそう言ってため息をついた。

「やはり、麻莉婆さんに助けてもらった方が、いいんじゃないかな」

 桜子が不安げに言った。


「日本からここまで距離がありすぎる。日本海から東中国都市連合国家の上空を通るか、シベリア共和国から入るしかない。東中国から入るのは、絶対無理だ。必ず撃墜される。このまま北上し、シベリア共和国を通るとすると、唐沢軍団の恰好の餌食になる。ここから東に進み、ヒロクに行くしか残された道がない」

 ドルマーが右手を上げた。

「わたし、タケ爺の案に賛成。モンゴル人の恰好をしていけば、怪しまれない。わたし、モンゴル人だし」

 

「安全第一で行きましょう」

 綾人が言った。彼が意見を言ったのは、初めてだった。

「もし、タイムリミットまでに、日本に着かなくても、いいじゃないですか。寺島ホールディングスがどうなろうと、わたしには、あなたがたの方が大事です。」

 桜子と桂木が顔を合わせ、笑顔を見せた。



 翌日午前九時、スカイが戻ってきた。

 タブレットモニターに敵唐沢軍団の戦闘部隊が映っている。ミサイル発射台も見える。彼らは、国境沿いにスパイダーを追ってきたのだ。綾人をシベリア共和国の国境を越えさせない。強い意志の表れだ。


「スパイダーを捨てて、馬で国境を越えよう」

 成田が提案した。

「ここからヒロクまで二百八十キロ。休憩時間も入れて、八、九時間。今日中に着ける」

「ぼくは賛成だ」

 綾人が言った。


「問題は、ミサイル攻撃だ。寺島総裁に連絡を入れたら、位置を知られ貨物列車ごと吹き飛ばされる。タイムラグを利用しても、問題は解決しない」

「総裁への連絡を諦めるか、ミサイル基地を壊滅させるか。そういうこと?」

 桂木が訊いた。

 成田は頷いた。

「麻莉婆さんに、助けてもらえなければ、わたしたちは日本に帰れない。そういうことでしょう、タケ爺」

「そういうことだ」

「じゃあ、ミサイル基地攻撃に決まり。早速行動しましょう」

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