52 成田毅、再び投獄される

「ナリタタケシ、おまえを逮捕する」

 ローランマーラの執務室に入るなり、ローランが叫んだ。

 しばらく間をおいて、成田毅は尋ねた。

「罪状は?」

「国家反逆補助罪」


 成田は苦笑した。

 言いがかりもほどほどにしてほしい。

「その罪状は、承服しかねる。わたしは、カリムゴロフキンに加担していない」

「講和の場に同席した。講和に積極的に加わった。それだけで、罪状は十分だ」


 そうであるならば、桜子が真っ先に逮捕されるべきだろう。それなのに、彼女は開放された。

 ララモントがローランの耳元で囁いた。

「おまえが今何を考えているか、わたしには分かる。サクラコのことだろう」

 成田は腕を組んだ。

「サクラコは、カリムゴロフキン同様、反逆罪に相当する」

 それなら、何故開放した。成田は心の中で尋ねた。

 

 成田は話題を変えた。

「わたしと、ドクターを捉えておく必要がどこにあるんだ。教えてくれ」

「わたしは、サクラコが気に入った。まず体が気に入った。それから、彼女の将来性だ。綾人と結婚して、寺島の権力と富を手に入れる。わたしは、サクラコの体をいただき、彼女のすべてを引き継ぐのだ」

「サクラコは、ここに戻ってこない」

「いや、戻ってくる。おまえたちが、ここにいる限り、必ず戻ってくる。おまえたちを救出するためだ」

「彼女は戻ってこない。そう言い聞かせた」

「戻ってくる、必ず。そのことを一番知っているのは、ナリタタケシ、おまえだろう」


 ローランは満足そうに声を出して笑った。

「だから、おまえと、ドクターはここから出すわけにはいかないのだ」

「それならば、ドクターだけでも開放したらどうだ」

「ドクターはおまえの人質だ。そしておまえはドクターの人質だ。二人とも開放することはできない」

 今のローランは人間の感情を持ち合わせていない。ローランを正常化させるには、医学の力を活用するしか方法がないのか。しかし、その方法も確実性は不確かだ。それに、桂木にロボットスーツを着衣させなければならない。


「牢獄に連れていけ」

 ローランは衛兵に命じた。

 衛兵は成田の両手を皮ひもで縛り、腰紐をつけた。

「一つだけ頼みがある」

 ローランは成田を見つめ、首を傾げた。

「牢獄は窓のある部屋にしてくれないか」


「窓のある牢獄は寒いぞ」

 ララモントが言った。

「暗いより、寒いほうがましだ。前の牢獄には、窓がなかった。気が滅入ってしまう」

「好きにしろ」

 ローランは吐き捨てるように言った。



 成田は行政庁ドームから六、七十メートルほど離れた兵士待機所に連れていかれた。地下への階段を下り、暗い廊下を進む。突き当りのドアを開け、まず先導の衛兵が入った。後ろから衛兵に押されて成田も入る。

 二百平方メートルほどの監視用の前部屋だった。鉄格子のついた牢が三つ並んでいる。窓側の牢に押し込められる。広さは三十平方メートルほどだ。壁際に朽ちかけた木製のベッドがある。床には板材が敷かれてある。歩くと軋んで音をたてた。

 最初に投獄された場所とは別の牢だった。最初の牢の方がましだった。

 この牢獄は罪人用の土牢だった。

 

 床から百五十センチメートル上方に細長い鉄格子のついた窓がある。半地下室だった。窓から風が吹き込み、夜には極端に寒くなることが予想される。多分、寒さで眠れないだろう。

 しかし、窓がなければ、地図情報モニターと通訳機能イヤホンを充電することができない。どうしても太陽光が必要なのだ。


 衛兵が羊の毛皮の毛布二枚と、羊の毛皮の外套を持ってきた。




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