53 待ち受ける者は、裏切り者
綾人は寡黙だった。三日間の間、ずっと物思いにふけっていた。黒崎桜子の問いかけにも、積極的に答えようとしない。夕暮れ時になって、目的地に後二キロの地点まで辿り着いた。
北の空から偵察用バード二体が現れた。
綾人は馬の歩みを止め、重い口を開いた。
「サクラコ、やはり、引き返そう」
「落ち合う場所まで、後少しだよ。何言っているの」
「ララモントは、日本人なんだ。悪い予感がしていたんだ」
「ララモントが日本人? そんなわけないでしょう。考えすぎだよ」
「麻莉婆さんに出した八つの条件、あれを提案したのは、ララモントなんだ。日本人と無線で相談していた。おかしいと、ずっと思っていた」
「もう遅い、綾人、気付くのが遅すぎた」ジャンが言った。
「戦闘用ロボットが十体近づいてきています」
「何、どういうこと」
「サクラコ、我々は、日本に帰れません。日本に裏切り者がいます」
スカイが上空から映像を送ってきた。巨大戦闘用ロボット十体が機関砲を構えて近づいてくる。
「まず、スカイとレッド、それから馬を遠くに避難させましょう」
桜子と綾人が下馬した。馬上から、折り紙テントと食料、水筒を下ろし、手分けして桜子と綾人のリュックサックに詰め込む。
馬たちを追い立てながらスカイとレッドを南方に遠ざかるのを確認すると、ジャンが言った。
「サクラコ、如意棒を渡してください。わたしが保管します。如意棒をどうした、と訊かれたら、ガルバンとの戦いで無くしたと答えてください」
「降伏するの」
「生き延びるためです。それに、誰が裏切り者か知りたくありませんか」
桜子はジャンを見つめて頷いた。
「あの戦闘用ロボットは、唐沢ホールディングス社の製品です」
「五社連合の、あの唐沢?」
「そうです。今回の件の全貌が分かりました。唐沢の五社連合国家の実権を握るための企みだったのです」
「ジャン、逃げよう。すぐ」
「間に合いません。戦闘用ロボットの後方にミサイルの発射台が見えます」
ジャンは桜子と綾人にリュックサックを背負わせた。
「サクラコ、いいですか。わたしと、あなたのロボットスーツ、アヤトのアンダーシャツは、機能停止にされます。如意棒をだして、一メートルにしてください」
ジャンは如意棒を受け取ると、手元の位置を掴み、引いた。
「ここに赤いボタンが見えますね。そこを押して、ダン、修復と言います。わたしも、ロボットスーツも、自己修復能力を持っています。ダンが、その能力を稼働させます」
なんというロボットなの。桜子はジャンを見つめた。
「もし、わたしが機能停止になっていたら、この胸のポケットを開けて取り出してください。サクラコ、復唱してください」
桜子はジャンの言葉を復唱した。
戦闘用ロボットの一団が前方に姿を現した。
桜子たちは全員両手を挙げた。
「撃つな、降伏する」
ジャンが叫んだ。
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