14 作戦行動計画


「それでは、今後の作戦行動について説明します」

 内務省役人の有村勇哉が百インチのモニターの横に立ってこれからの計画について話し始めた。テーブルを前にして、モニターを見ているのは、黒崎桜子、成田毅、ドクター桂木の三人。戸倉絵美は桜子の後に立ってモニターを見つめている。


 モニターには、縮小された地図が映されている。現在位置とその南方に広がる広大な砂漠地帯だ。有村は現在位置とすぐ南にある山脈を指し棒で示した。

「ジュンガルのある盆地に入るには、このアルタイ山脈を越えなければなりません。東側のモンゴルと西側のカザフスタンとは国交がありません。事前に両国に入国許可を求めましたが、拒否されました。険しい行程ですが、この道しかありません」

 成田は腕を組んで溜息をついた。

「シベリア共和国の全面的な協力を得て、この作戦を立てています。まだ到着していませんが、軍用大型ヘリで、すべての資材を運びます。スパイダ―は吊るして運び、医療関係の資材と、その他の資材は別々のヘリで運びます。ヘリ三機で、このアルタイ山脈の山峡を越えます」


 疫病が蔓延したとき、ロシアはウラル山脈を境に東からの人の流れを封鎖した。それを機に東西が分裂したのだ。東側はシベリア共和国と名を変え、現在に至っている。その時、シベリア共和国を支援し、疫病を封じ込めたのが、寺島ホールディングスであった。


 中国とアメリカは同じ運命を辿った。世界恐慌の時代、貧富の差がますます激しくなり、暴動が多発した。冨者たちは新たに都市を造り、その廻りを城塞で囲った。城塞都市の誕生である。城塞都市は連合して国家を創造した。いわゆる城塞都市連合国家である。中国では大海に面した地域中心に三十五の城塞都市が誕生した。広大なその他の地域は、一時無政府状態になったが、2060年代になって、ようやく統治機関ができてきた。統治者たちは、その統治機関が支配する地域を西中国共和国と名乗った。

 世界大恐慌、疫病蔓延のあと、ジュンガルの盆地は長い無人の空白地帯になっていた。まだ西中国共和国の支配が及んでいないが、あと何年かすれば、西中国共和国の影響下に入っていくことになるだろう。


「アルタイ山脈を越えた、砂漠に着陸します。ここです」

 有村はその場所を指し棒で示した。なんの特徴もない荒れ地に思われた。

「ここから南は、旧中国軍のミサイル制空権に入っています。今までミサイルが発射された事例はありませんが、ミサイル発射レーダー網が確認されています。したがって、救出チームは地べたを這っていくしか方法がありません」

 成田はコーヒーを飲みながらじっとモニターを見つめている。

 有村の説明が完全に終えるまで、沈黙していようと考えていた。

「着陸地点でジュンガルの案内人と待ち合わせることになっています。案内人はすでにその地点近くに来ているはずです」


 成田が沈黙を続けているので、有村は話を続けた。 

「彼らは、医療チームが七日間でジュンガルに到着するように言ってきています。八月三十一日から七日間ということです。したがって、到着期限の九月六日まで、あと実質四日しかありません。ジュンガルへの行程は、二泊三日の予定です。途中で予期せぬことが起きる可能性があります。そのときは、すみやかにこの本部に連絡を入れてください」

 成田が手を上げた。

「質問していいか」

「はい」

「その着陸地点から、ジュンガルまでの距離はどのくらいあるんだ」

「およそ五百キロ。ロスを見込んで、青森から東京の間くらいになると思います」

「そうすると、ジャンガルは天山山脈に近いということになるね」

「かなり近いと思います」


 まだ訊いておかなければならないことが沢山ある。ありすぎて考えがまとまらない。これも歳のせいか。

 だが、護衛の任務として、重大なことを一つ訊いておく必要がある。

「ジュンガルに行く間に、気をつけておくべきことがあったら、教えてくれ」

「重大な懸念が一つあります。天山北路に拠点をもつ武力集団が、近辺一帯を勢力下においています。行程において、レーダーを活用するなど、接触しないように、万全の注意を払ってください。集団の名は、ガルバンといいます」

 有村という人物はいいかげんな男だ。ガルバンのことは、第一に知らされるべき情報だ。他にも、何か隠してあることがあるかもしれない。


「ジュンガルの武器はどの程度の武器だ」

「聞くところによると、今世紀初頭の中国の兵器のようです」

「航空機や、ヘリはないでしょうね」

「はい。確認されていません」

「こことの連絡は、どうすればいい?」

「通信は、ジャンに任せておいて大丈夫です。彼に命じてください」

 当分の間は、ジャンとの交流を通じて学んでいくということなのか。


「手術用電源はどうなっています」

 桂木ドクターが訊いた。

「スパイダ―に搭載されています。外皮の下に太陽光パネルが設置されています。それも、ジャンに指示してください」

 時間的な制約があって、マシンの操作方法などを習得する時間が持てないことは理解できる。桂木ドクターが前に言っていたとおり、やはり。このプレジェクトは出たとこ勝負なのだ。

 有村に部下の田中祐樹が耳打ちした。

「シベリア基地の指揮官との打ち合わせが入りましたので、三十分ほど中断します。ここで休憩していてください」

 有村はそう言い残すと、二人の部下を連れてテントを出ていった。


 戸倉絵美が成田の前の椅子に腰かけた。

「皆さんに、忠告しておくことがあります」

 彼女は声を潜めて言った。

「有村勇哉には気をつけて。寺島を国家に没収することを企んでいる。いい、連絡は彼にではなく、わたしに直接してください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます