33 ローランの体は悲鳴を上げていた



 ローランの左の腎臓が、空間ホログラフィーモニターに浮かんでいる。

 桂木は吐息を洩らした。

 脳から体の臓器すべての検査を終えた。ヒラゲンのアームが、四枚の検査器板を上部に持ち上げた。

「検査が終わりました」

 桂木がローランに言って、背中に手を回し上半身を起こした。


「肝臓と腎臓に問題があります。肝臓は重度の肝硬変です。すでに黄疸がかなり進行しています。それから、腎臓はその機能がほぼ失われています、尿毒症が進行しています。奇跡的に心臓と肺に問題が無かったことが幸いです。体がきつかったでしょう。よく我慢してきましたね」

「わたしの体はいつまでもつかしら」

「今すぐにでも発作を起こして、予後不良になっても、おかしくありません」

 ローランは唇を噛みしめて頷いた。


「マ―ラですが、脳がガンに侵されていて、呼吸がいつ止まってもおかしくない状態です。彼女は、献体を望んでいますが、どうしますか」

「うん……」

 ローランは天井を見上げた。彼女の顔は苦悩で歪んでいる。


「マ―ラと、お会いになったら、どうです」

 黒崎桜子が囁いた。

 ローランは立ち上がると、杖をついて滅菌室に向かった。滅菌室を出ると、マ―ラが両眼に涙を湛えて立っていた。ローランはマ―ラに近づき、彼女を抱きしめた。マ―ラは声を出して泣いている。


 桜子は離れた場所から、ララモントと共に、二人の抱擁を見ていた。

 ローランが涙声で言った。

「マ―ラ、あなたの命をもらうわ。あなたは、わたしの体の中で生き続けて」

 マーラはローランを見つめて大きく頷いた。


「ドクター桂木、よろしくお願いします」

 ローランは桂木に深く頭を下げた。


「これから、あまり時間を置かずに、手術を行いたいと思います。手術に関する説明と手続きに入りたいと思います。どこか、場所をお借りできますか」

「それでは、わたしの執務室で」

 ローランはララモントに体を支えられながら、手術室の脇を通って、ドームの奥に歩きだした。


「ありがとうございました」マーラが桂木に頭を下げた。

「わたしの記憶は、無事でしたか?」


「大丈夫だと思います。問題は移植です。腫瘍に小さな穴を開け、神経線維を差し込みます。結果は保障できませんよ」

「それで、結構です。感謝します。ドクター、わたしの記憶のことは、ローランには伝えないで下さい。お願いです」

 マーラは桂木の手をきつく握りしめた。



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