20 モンゴルから来た家族
百メートル先に煉瓦作りの寒村が見える。起伏のある丘陵地帯だった。
レッドが一軒の廃屋から飛び出してきた。一目散に走ってくる。
「村に人がいるようです」黒崎桜子がレッドからの信号をキャッチして言った。
「男と女の二人です」
「グレイはどうした」
成田が訊いた。
「ガルバンを追って先に行ったそうです」
「ジャン、武器を持ってきてくれないか」
「武器の種類は、どうします」
「君に任せる」
「わかりました」
ジャンはスパイダ―に入っていく。
タケ爺はジャンのことを、君と呼ぶんだ。なるほど。
桜子は耳から如意棒を出し、一メートルの長さにした。ジャンが左手に一メートルほどの機関砲をもち、左手に三十センチの武器を手にしてスパイダーから出てきた。
「光線銃にしました。よろしいですか」
「これも、インターフェースが必要なのか」
「いえ、この引金を引くだけです」
ジャンは光線銃を成田に渡した。
「意識を失わせるだけの、軽光線銃です」
「ジャン、様子を見てみよう」
成田は寒村に向かって歩いていく。
桜子もその後に続いた。レッドが彼女の後を追っていく。
成田は廃屋の前で立ちどまった。
ジャンが機関砲を廃屋に向けて構える。桜子はジャンの後に隠れた。
廃屋の中から一人の男が両手を上げて出てきた。続いて女が両手を上げて出てくる。男が叫んだ。音声通訳機能が即座に反応しなかった。
「モンゴル語です」
ジャンが言った。
「撃つな。武器は持っていない」
ようやく通訳機能が反応した。
「どこから来た? モンゴルからか」
「はい。ジュンガルへ行く途中です」
「ここで何をしている」
「盗賊に襲われたんです。娘と息子をさらわれました」
「どれくらい前だ」
「一時間ほど前です」
「どうして、ジュンガルへ」
「西モンゴルは、酷いかんばつで羊の飼育ができなくなったのです」
「手を下ろしていいぞ」
モンゴル人は顔に安堵の表情をうかべ、肩を落とした。
「あなた方は、どこから来ました」
「日本からだ。あなたがたと同じく、ジュンガルに向かっている」
緊張感がほぐれたのか、モンゴルの女はうずくまると、両手で顔を覆って泣きだした。男のほうは茫然と立ち尽くしている。
成田は片手を上げて、桂木とテミルベックに来るように合図をした。
モンゴルの女は大地に両手をつけ、成田を見上げた。
「どうか、わたしたちの子供を助けてください」
成田は溜息をついて空を見上げた。
モンゴルの男も、女の横で並んで頭を大地につけた。
「娘は十一歳です。息子はまだ八歳です。これからどんな酷い目に遭うか分かりません」
「悪いがそれはできない。我々は、急いでいるんだ」
「分かりました。わたしが助けます」
桜子は如意棒を振りかざして叫んだ。
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