12 麻莉婆さんからの贈り物 如意棒

 鈍い金属音で、黒崎桜子は目覚めた。

 昨夜は興奮していたためか、なかなか寝つかれなかった。首筋が寒い。ベッド脇のデジタル時計を見た。午前四時三十五分だった。窓の白いカーテンが僅かに明るさが滲んでいる。

 カーテンを開け、外を見た。

 照明灯に照らされた滑走路に、ジャンボ軍用輸送機が見えた。プロペラがゆっくり廻っている。後部搬入口へ、八脚の蒲鉾型トラックがゆっくり歩きながら入っていく。あれがタケ爺が言った蜘蛛型輸送歩行機か。想像していたより大きい。


 桜子は外に出た。

 外はまだ薄暗い。夜が明けまでまだ時間がある。

 輸送機をバックにして、ダチョウ型歩行椅子がすくっと立っていた。乗っているのは麻莉婆さんだ。

 桜子は急ぎ足で彼女の所に歩いた。


「やっとお目覚めかい。わたしの桜子」

 麻莉婆さんは、桜子に体の向きを変えて言った。桜子は腕を組んで大欠伸をする。

「なんだい、その頭は」

 桜子は苦笑して両手で頭髪をまさぐる。

「まるで、男の子じゃないか」

 桜子は頭に手をやったまま無言で麻莉婆さんを睨みつける。

「でも似合っているよ。前よりずっと賢く見える」


 麻莉婆さんが、桜子に二十センチほどの黒い棒を投げてよこした。桜子はあわててその棒を掴んだ。金属製だが、紙のように軽い。

「それは、如意棒だ。わたしのお前への門出の贈り物だ。寺島が総力を上げて開発した最新鋭の武器だ」

 ただ軽いだけの、ありふれた金属のただの棒だ。握ってみると、いくつかのボタンがついており、リング状のねじれが入っているのが分かった。


「おまえの柳生新陰流の腕前を、十分に発揮できる優れものだ。防御にも、攻撃にも、優れた機能を備えている」

 この婆さん、わたしがひたすら隠し続けていた柳生新陰流をどうして知っているんだ。油断も隙もない。

「使い方は、ロボットに記憶させてある。ジャンという名前だったね、そのロボット。おまえは、ジャンからその如意棒の使い方を学ぶんだ」

 ジャンに教えを乞うのか。あのロボットに頭を下げるのは、絶対いやだったのに。


「サクラコ」

 格納庫の扉の前で、戸倉絵美が両手を振っている。

「ロボットスーツを着て、早く来て。みんな待っている。朝飯を食ったら、すぐ出発するよ」


 桜子は戸倉に手を上げると、宿舎に向かって歩きだした。

「サクラコ」

 背中に麻莉婆さんの声がした。立ちどまって耳を澄ます。

「生きて帰ってくるんだ。何があっても」

 桜子は大きく頷いた。そして宿舎に向かって走りだした。






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