第8話 観測者とルナ

 ハクエン達が外に出ると、ギルドのメンバーたちが広場に集まって何やら騒いでいた。


「どうした?」


ハクエンがそう尋ねると、メンバーの一人が、慌てた様子でハクエンに答える。


「あぁ、リーダー!探しましたよ!とにかく、例の森に来てください!」


 そういって、彼は走りだしてしまった。ハクエンはササネとセンラにここに残るように指示し、彼を追いかけた。言われるがままついていく道中で走りながら彼__フクロウの獣人であるロロが状況を説明した。


「太陽の国の男が発見された場所、あそこに遺跡があったのはご存知でしたか?」


「あぁ。それはルナたちから聞いている。」


「それなら話が早い。そこに、マナが突然現れたんです!」


「なんだと?」


 マナとは魔法を使うための根源となるエネルギー体。自然界に存在すること自体は珍しくないが、それは長年の時を経て形成されるものだ。突如現れたという場合なら…原因は二つある。


 一つは、男が強力な魔法武具マジックアイテムを装備していた可能性だ。魔法武具はその内にマナが宿っている。ゆえに、所持しているだけでその人の体内にマナが供給され、強力な魔法を使うことが容易になる。しかし、魔法武具が壊れるとその中に入っていたマナは外に出てきてしまうため、今回のような件ではこの可能性が高い。


 第二の可能性として、誰かの魔法だ。魔法にもいくつか種類があるが、特に転移魔法テレポートの類は移動先にマナを移動させてから行う場合が多い。しかし、テレポート系列の魔法は透明化の魔法以上にレアな魔法である。習得できる人間は魔法大国の〝魔法の国〟ですら数えるほどしかいない。前者より非常にレアなケースだ。


「それで、観測者オブザーバーは何て言ってた?」


 ハクエンがロロに確認する。観測者とは、このギルドに所属するメンバーの一人…ではあるが、普段は監視塔に籠りきっている。その獣人は珍しく魔法を使うことができる獣人で、探知魔法に長けている。この付近の治安はその獣人によって確立されているようなものだ。その問いにロロが答える。


「観測者は恐らく彼の装備していたナイフがヤドの熱によって融かされたことでマナが大気に放出されたことが原因だといっていました。ただ、問題はそこじゃなくて…」


「なんだ?まだなにかあるのか?」


 たしかに、うちのギルドが大騒ぎしている程のことはあったんだろう。彼らはこの程度のことでうろたえたりはしない。それはリーダーであるハクエンがよく知っていることだった。


「さらに、そのマナに相乗して転移魔法用のマナが展開されたんです!まるでが死んだらあらかじめ発動するように仕掛けていたように見えた、と…」


 ハクエンはそれを聞いて歯ぎしりした。太陽の国は自国の男を殺されたことについて来週の会談で白黒つけると手紙魔法メッセージで送ってきたが、どうやらそれすらダミーの様だ。我々獣人は完全に舐められている。だが、ロロの報告はまだ終わらなかった。


「それで、私たちが騒いでた理由なんですけど…ほぼ同時刻に新人の〝ルナ〟の姿が消えまして…観測者によると例の遺跡に向かったようです。」


「…なんだと?」






同時刻___森の中の遺跡では___



「あの男のナイフが溶けた時…マナが外に漏れだしたのに気が付けてよかったわ。」


 ルナは目の前の巨大なテレポート用の魔法陣の前でそうつぶやく。魔法陣の上には、すでに太陽の国の連中と思われる男が三人来ていた。


「まさかナイフの中にあるマナをテレポートに利用するなんてね。」


「お嬢ちゃん、何しにここに来たんだ?俺たちがここに来ると分かっていて、戦いを挑むつもりか?」


 男の中の一人がそう言い放った。


「さぁどうかしら。悪いけど、負けるつもりはないよ。」


「はっ!生意気なガキだ。これだから獣人は嫌いなんだよ!お前ら!兎ごとき俺が___」


「兎ごとき、なんですって?」


 その瞬間、ルナは一番先頭に立っていた男の腹に殴りを入れていた。あまりの移動速度の速さに後ろにいた男二人も目で追えていなかった。その速度の衝撃が、衝撃波となって遅れてやってくる。


「がっ…」


 殴られた男は、声も出せずに背後にある木々に打ち付けられる。彼は瀕死だろうが、見ていた二人は衝撃波で吹き飛ばされてしまってはいるものの、流石に致命傷ではなかったようで、立ち上がろうとしている。


「お、おまえ…何者だ?!」


「この国にこんな強い奴がいるなんて聞いてないぞ!?」


 ルナはゆっくりと歩み寄りながら二人に向けてこう言った。


「貴方達…ジョウガって名前の獣人を知らない?」


「ハァ?知らねぇよそんなヤツ!」


「そう、知らないなら…!」


 ルナが拳をふり上げたところで「待て!ルナ!」とハクエンの呼び声が聞こえた。彼女は彼の言う通り動きを止め、彼の到着を待った。


「ハァハァ…ルナ!これは一体…」


「どうやらさっきの男が持っていたナイフがテレポートの土台になっていたようね。新たな"不法入国者"が三人入ってきたわ。」


「ハァ…なるほど、わかった。だがとりあえず落ち着け、ルナ。その男には話を聞かねばならん。」


 すると、男の方もなにか察したようで、大声を上げる。


「俺を拷問する気か!?」


「場合によってはな。」


 ハクエンがキッとにらみつける。

 侵入してきた男も、鋭い目つきこそしているものの、抵抗する様子はなく、おとなしく捕まった。


__その後、ルナは身勝手な行動をとったことを指導され、リーナとヤド、その他のギルドのメンバーは自室待機の令が下された。



数日後、ギルドの会議室___


「__以上が、先日捕縛した男から入手できたデータだ。」


 ハクエンはそう言って席に着く。大体の事象が想定通りではあったが、今回三人が新たに上陸してきた理由は謎であった。わかった事実は2つ。まず獣人の国の内部戦争は太陽の国の仕業であった。それの工作員も特定済みで、すでに国の特殊部隊が捜索にあたっている。もう一つは、太陽の国は会談を行うことを装ってこの国に攻撃を仕掛ける作戦内容だ。


「…やはり、この国の内部混乱は太陽の国が原因だったのね。」


と、センラの発言に対し、他のメンバーも頷く。


「それにしても、意外とあっさりと情報を吐いてくれたわね。忠誠心とかないのかしら?」


 続いてセンラが発したことも、みんなの心の中で引っかかっている事象であった。太陽の国は、獣人の国ほどではないが、『カミサマ』の存在によってある程度意思は団結しているはずだ。…奴らはまだ、何かを企んでいる。それは確かなことであった。


 会議後。ハクエンはリーナたち新入団員らの戦力を上げる方針を立てた。この国は世界の北側にある国で、冬になると雪が積もる。春までにはあらかた溶けるが、この国最北端の島は年中雪景色である。その過酷な環境でトレーニングをさせようというものだった。

 リーナたちもその話を聞いたときは驚いていたが、事の重大さを把握すると、ダダもこねていられない状況であることは承知したようだ。近々起こるであろう太陽の国との戦争に向けて___各々は動き始めたのであった。




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エイト・フュージョン~Mafiri すとろべりぃ @StrawBerry15

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