第7話 不穏な空気

 次の日、私たちはハクエンさんに呼び出された。話の内容は大方予想通りだった。クエスト中に遭遇した謎の人間…持ち物から見て、あの人間は太陽の国出身だということが分かったそうだ。


「太陽の国か、厄介な…」


 ブラックがつぶやく。だが、そう思ってるのは彼だけじゃないはず。太陽の国の連中はどの国の誰であろうと、関わろうとはしない。それほどまでに彼らは異常だった。


「ルナ、リーナ、ヤド。あいつと戦ってみてどうだった?」


 ハクエンさんが私たちに問う。


「戦闘相手としてはかなり厄介な魔法を持っていたと思いますわ。透明化…最初に攻撃されたのがヤドでなければ、この中の誰かは死んでいたと思います。」


「私も同意見だな。私なんて体が固まって動けなかったからな。ルナには感謝してるぜ。」


「とくに大したやつじゃなかったかなぁ?」


 と、一人だけ余裕そうに答える。そりゃお前…


「ふむ、お前らの今後の課題は戦闘経験を積むことだな。」


「でも、太陽の国は一体何の目的で刺客を送ってきたんだ?」


 ブロンズがふと呟いたその疑問は、私たち六人が微かに抱いていた疑問でもあった。


「こちらでは大方予想が付いてる。…だれか、予想の付く者はいるか?」


 ハクエンさんの問いに、オレンジが答える。


「…もしかして、太陽の国は獣人の国を内部から崩壊させようとしてる?」


 その答えにハクエンさんは深くうなずく。


「そうだ。本来なら俺達獣人は仲間内で争うことはない。だが、ここ二年で増え続けている内乱。そして見つかった太陽の国からの密入国者…」


「そうか、洗脳…!」


 ルナがハッとしてハクエンさんの言葉の先を紡いだ。流石にここまでヒントを出されてわからない私ではなかった。簡単にまとめると、太陽の国は少しづつ人間をこの国に送り込み、獣人たちを洗脳して内部崩壊を装って国を潰す気だ。


「よし、事の重大さは理解したな。このことは後で国の会議でもするつもりだ。お前たちはゆっくり休んでくれ。それじゃ、解散!」






その後、ギルドの会議室では___


 ハクエンは、説明を終えた後、ガチャリと扉を開けて会議室の中に入った。


「あ、ハクエンが戻ってきたわ。」


 ササネが待っていたかのように席を立ち、書類をハクエンに渡す。ササネは、入団試験の時にヤドの相手をした兎の獣人だ。あの時は、見せる暇もなくやられたが、ギルドではナンバー2の実力者である。彼女の能力は、手で触ったものを一回転させる能力。触れた場所を軸として起動する能力らしく、敵の右腕に触れば触った場所を中心に強制的に一回転する。彼女に折れない腕はない。それに兎のすばしっこさを兼ね備えた強力なアタッカーだ。


「これは?」


 ハクエンが訪ねると、ササネは表情を暗くしてこういった。


「例の男のデータだよ。でも、肝心なところはそこじゃなくて___」


「太陽の国が動き始めたみたいよ。」


 ササネの背後にいたセンラがそう続ける。センラは入団試験でリーナの相手をしていた猫の獣人だ。猫といっても、普段は重い鎧を身に着けているため、彼女を一発で猫と見抜ける人はいない。しかし、リーナと戦った時はその重さが仇となったわけだが。能力は洗脳系で、近くにいる生き物を魅了する能力だ。ただし、発動条件は軽装備に限られるので、むやみやたらに味方に被害がいかないようこの装備になっている。センラとササネ。この二人がハクエンのチームメンバーであった。


「どういうことだ?」


「太陽の国が、今回の件を口実に私たちの国に攻めてくるって宣言してたわ。」


「馬鹿な!悪いのはあの人間だろう!不法侵入してきたのは何処のどいつだと思ってやがる!」


 ハクエンは抑えていた感情をあらわにする。彼は、前々から太陽の国の人間たちを嫌っていて、今回の件で自分の後輩たちが危ない目に合っただけでキレ気味だった。


「ま、まぁ気持ちはわかるけど、落ち着きなよ。まだ話は途中だよ。」


 ハクエンは荒っぽく空いている椅子に座った。


「…それで、話し合い次第では実力行使を避けるって。」


「ハッ!あくまで主導権は譲らねぇってか!」


「その話し合いの日なんだけど…早くて来週…」


 ハクエンの苛立ちに若干気おされたササネがそう答える。


「来週か…それまでにはうちのギルドの戦力も確認しておきたいな。一応な。」


 ハクエンがそう答える。


「戦力確認といえば…新入りの能力とか、しっかり把握してないわね。」


「確かに!」


「ふむ、そうだな。ギルド内のメンバーを集めて、この情報も含めて共有しておいた方がいいな___」


一同は大きくうなずき、部屋のドアを開けて外に出ると、何やらギルドが騒ぎになっていた。













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