今日、父が愛人を作りました。

夜乃巫女

第1話今日、父が愛人を連れてきた。

海夜、大事な将来の仕事の話がある。と父に言われ、とあるカフェに呼び出された。

さぞ何も知らないであろうという目で「あの女」は、娘である「私」を見つめている。

白い肌に映える白いワンピースと、黒髪のふんわりとしたボブヘアは、清純な雰囲気を漂わせていた。

「こちらは春伽さん。僕の大切な愛人なんだ。この人は音楽の才能があって、千年に一度の逸材になる。だから将来、海夜と春伽さんと2人で会社を継いでほしい」

父がSNSで目の前にいる女をアプローチをしていた事は知っているので、驚くことでは無い。だが今なんと言った?

娘と愛人2人で会社を継げ?

訳が分からなかった。何より、不倫は家族には隠すはずだ。こんな堂々と発言をするのか。こんな父を、愛する女もおかしい。金しか取り柄がない父を愛する目の前の女は、明らかに何か隠している。そんな違和感を覚えた。


おそらく、いや、確実に父は狂っている。


しばらくして、注文したダージリンティーを無理やり飲みきり、駅に向かった。

「春伽さん。会社まで通り道が一緒だから、駅まで送るよ。海夜は家に先に帰っててもいいよ。」

「わかった。」


1人、歩いていると、雨が降り始めた。私は母に伝えるかどうか考えていた。傷つけたくなければ、伝えない方がいいだろう。だが、そういうわけにもいかない。


父と母は修復が不可能なくらい仲が悪い。

それでも今日まで離婚しなかったのは、私の学費や生活費などの「生きる為のお金」が必要だったからだ。精神的暴力も肉体的暴力も、今まで耐えられたのは、将来、母と私で穏やかで幸せに暮らす為の遺産を手にする為でもあった。それが今、途中から入ってきた「あの女」によって脅かされている。会社を継いで権利を握られてしまったら…

私と母の今日まで受けてきた苦痛に耐える意味がなくなってしまう…ここにいる意味がなくなってしまう………


さっきまでの雨が、激しい雷雨となり、急いで母の待つ家に向かって走った。



この激しい雷は、これから起こる出来事の前触れなのか。それとも、私の心の中の激情を表すのか。

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今日、父が愛人を作りました。 夜乃巫女 @cnoel333

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