006  二十年連続初戦敗退の弱小校Ⅵ

 そして、春休み最後の練習はこの後三時間みっしりと練習し、解散した。


 春休み最後の夜は母親の実家で過ごした。

 故郷に帰ってから初めておばあちゃんの家に行き、豪華な料理を食べた。テレビを点けると丁度サッカーのエキシビションマッチの生放送をやっていた。昨シーズンのJ1優勝チームと三位のチームの試合だった。前半三十分に差し掛かるいいタイミングだった。スコアは1―0で三位のチームがリードしていた。

 MFからFWへと速い展開に持ち込んでいる。中から外に、外から中へとパスを回していく。そして、エースのシュート。だが、ボールはゴールポストに当たりキーパーが止める。掴んだボールをすぐに蹴り、カウンターを始めた。

 やはり、どのスポーツにもそれぞれルールがある。それに則ってプレーする選手こそ、心技体全てを兼ね備えた素晴らしいプレイヤーなのだろう。

「ねぇ、お兄ちゃん。すごいよね。なんで二本の足であれほどのパフォーマンスができるんだろう?」

 畳に寝そべりながら、妹の紗耶香さやかが不思議そうにテレビ画面を見つめていた。

 テーブルに置いてあった週刊少年漫画雑誌を読んでいた翔也しょうやがテレビ画面に目を向けた。

「それは小さい頃からの努力があったからこそ、こういう舞台で最高のパフォーマンスができるんだよ」

「ふーん、そう言えば右利きよりも左利きが有利とかスポーツ界ではよく聞く話だよね。どうしてなの?」

 乱れた服からへそがちらりと顔を出している紗耶香を見て、翔也は視線を逸らす。

「左利きは右利きよりも使う人が少ないだろ? それにボールを使う競技は特に回転が逆になったりといつも練習している時よりもやりにくいんだ。サッカーや野球も同じ、テニス、バレーも似たような説明だ」

「じゃあ、皆左利きにすればどんな競技でも勝てるということ?」

「いや、それは絶対にない。しっかりと左利きの対策をして入れば、右利きの人でも勝てる」「結局はすべてが運任せってわけね……」

 むすっとふて腐れた顔で面白くなさそうにする。

 どれだけ努力しても最後にはどれだけ運があるのかってわけか……。

 紗耶香はサッカーの試合を見ながらそう思った。

 翔也は、充電しておいたスマホを取り出して、ネットで上がっているスポーツニュースを読み始めた。プロ野球や春の選抜大会の結果も記載されていた。

 明日からは高校生生活がスタートする。県の予選まで残り四ヶ月を切っていた。

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