002 二十年連続初戦敗退の弱小校Ⅱ
時は流れて、一年後の春————
座席を起こし、しっかりと座り直した後、外の景色を見るとそれは今まで見たことのない景色を見ることが出来た。電車が過ぎていくたびに街や自然の景色が変わっていく。こんなに海が近いのは初めてである。
隣の席には、自分と妹の荷物を山のように載せていた。
目の前には妹の紗耶香がすやすやと寝ていた
ここは
「ここが新たな場所か……」
そう呟くと、スマホの画面に目をやる。
あと少しで目的地か……。
今まで関東地方の海のない埼玉県に住んでいた。この宮崎には何度か訪れたことがある。ここには母の実家がある。今まで見たことのない景色。どんな奴と出会うのか。そして、ここでもやっていけるのか。様々な事が頭の中をよぎった。
三十分後、電車は終点・延岡駅のホームに一センチもずれずに指定位置に止まった。先に社会人や学生が降りて行った後についていく。
妹の手を引っ張りながら階段を上り、橋を渡り、また階段を下りた後、改札口を抜けると、行きかう人々でいっぱいだった。すると、目の前の停車場で見覚えのある車から母の佑理が出てきた。翔也の荷物を受け取り、車の荷物入れにいれる。
「よかった。無事にたどり着いたようね。長旅、疲れたよね」
「ああ、飛行機を経由して、電車に乗った後が長かったよ。予定よりも十分以上遅れたんだぜ。田舎はこんなことがよくあるの?」
話しながら、荷物を車に積み込んだ後、後部座席に座った。
運転は父親がハンドルを握って、発進させる。駅から七分程度の川沿いにある家の前に停まった。車から降りると、長年使っていたような木造建築の一軒家だ。
「ここは母さんの知り合いが大家をしている家で、中古で買い取ったのよ。すごいでしょ!」
自慢げに言う
「へぇ、母さんにしてはすごいね。未だに古い友人と交流があるんだ」
翔也が関心下口調でそう言った。
まあ、川も近いし、学校も近いからいいか……。
佑理が買った家は、二階建ての一軒家で裏には広い庭がついている。開拓さえすれば何でもできそうな広さだ。目の前には川があり、そこには小さなグランドみたいな場所がポツン、とある。
ここで新たな高校生活が始まろうとすると、ドキドキしてたまらない。
「まあ、それよりも俺は疲れたよ。父さんもありがとうね。仕事があるんじゃなかったの?」
「今日は仕事が休みだったんだよ。気にするな……」
父の正義が腕を組みながら笑い、翔也の隣に立つ。翔也が苦笑いをしながら顔が引きずっていた。
家の中は春先中に両親が色々と片付けしていたらしく、翔也の荷物だけだった。玄関に自分の荷物を置くと、床に大の字になって寝そべった。
台所に行き、旅疲れでお腹が空いていた。テーブルには、おにぎりと目玉焼き、ウインナーなどが皿の上に載っていた。
両親は、翔也と紗耶香よりも先に宮崎に来ていた。父親の仕事の都合で三月中旬からこちらに転勤している。翔也は、中学卒業後、春休みの間は埼玉の方で二、三週間程度友達の家や親せきの家に泊まって十分に遊んでいた。そして、時間は迫り、荷物をまとめて一人、埼玉から南の宮崎県延岡市で新たな生活がスタートする。
お腹の空いた腹を満たすために全部平らげた後、翔也は手を洗い、持ってきた自分の荷物を肩に回し、両腕に辛そうに持ち上げた。
「母さん、俺の部屋はあそこでいいの?」
「あ、うん。階段上がってすぐの場所ね」
目の前の階段の奥にある部屋を見ながら、溜息をついた。
「あそこまで、これを持って行かないといけないのか。でも、往復するは面倒だからな。しょうがないか……」
一歩、一歩上がるたびに足が重たい。
「母さん。後で、飲み物持ってきて……」
「自分で取りに来なさい! それくらいできるでしょ?」
「はーい」
佑理は、皿を洗いながらそう言った。
今まで住んでいた埼玉とは違って、都会からずいぶん離れた場所にあるこののどかな地域は、東京みたいな都会に行こうとするならば高速や飛行機、特急の電車を使って北に位置する九州内最大規模の福岡に行かなければならない。
さて、この暇な時間どうするかな……。
以前、母さんの友人の大家が住んでいた家の所には住んでいた証の傷が残っている。古い木の階段を上がりながら目の前の自分の部屋らしき場所に入る。ベットは二つ、勉強机も二つと妹と同じ部屋らしい。
「マジかよ。一人部屋じゃないんだ……」
荷物を自分の机の下の置き、ふかふかの椅子にぐったりと座る。
前の家も同じ一軒家で妹と同じ部屋だったが、翔也は今年から高校生になる。中学生の妹と一緒の部屋というのは少しおかしいと思った。だが、これはもう母の佑理が決めたことなのだろう。逆らうと、怖いのを知っている。
自分の荷物を開けると一つ目の荷物には引っ越しの際に入れなかったマンガや小説がごっそりと入っていた。二つ目は野球道具が入っている。グラブや帽子、練習着などが詰め込まれていた。
漫画でも読むか。この地域は発売日が一日くらい遅れるんだっけ?
一冊手に取るとそう思う。
それは中学校のアルバムである。卒業生は全校生徒に配られ、三年間の思い出の写真がぎっしりと詰め込まれている。その中でも野球部やクラスメイト達と一緒に写っている写真が印象に残っている。
修学旅行、対抗試合、全中予選。皆と過ごした時間がその中に閉じ込められたようだった。そして、高校に入ったら甲子園に行く。そう皆と誓って、翔也はこの
絶対に高校で甲子園を目指してやる! そして、あいつらとまた、野球がしたい……。
翔也は、埼玉の中学校軟式野球部で二番手の主にリリーフで投げていた。エースで4番のライバルとは、部内で争う程の実力だ。ライバルが完璧に抑えたら、翔也が後半からしっかりと繋いで試合を締める。この二枚看板だった。
そのライバルは、今年の春そのまま同じ中学の系列校の高校に進学した。
次に会うとしたら甲子園だな……。俺達は必ず行く。お前もそっちの県立高で勝ち上がって来いよ。じゃないとやる意味がないだろ……?
翔也が埼玉を去る際に、彼との交わした最後の言葉だった。中学校三年間、市の予選を勝ち上がり、県予選では一度も優勝することは出来なかった。良くて準優勝止まり、ついたあだ名は、『勝ちきれない強豪校』だった。強いことは強いが、あと少しの所で負けが多いチーム。どんなに足掻いても優勝に手が届かなかった。
「こっちでも勝ち抜くには強豪校を相手にしないといけないんだよな……特に選手強化をしている私立校に勝たないと意味がないか……」
アルバムを閉じ、床に置くとベットに飛び移り、横になった。
目を覚ましたのは午後の六時頃だった。妹の
「さて、ご飯にしようか。今日は寿司よ……」
そう言いながら、何種類の寿司が大皿に載せられて、テーブルの上に出された。埼玉では、あまり食べられなかった珍しい食事だ。
「ここは北浦で魚が大量に捕れるの。それに近くのスーパーでは一貫五十円。安いでしょ。これが田舎の凄さよ」
母親の地元は
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