エピローグ
次の日、帰宅すると両親からものすごく怒られた。いや、私もその日のうちに帰りたかったのだ。だけど、とりあえず行くことだけを考えて飛び出したものだから、帰りのことをすっかり失念していた。なので、まあ、その、朝帰りになってしまったのである。夜に田舎で独りぼっち。めちゃくちゃ怖かった。二度としない。多分。
しかも一応置き手紙をしていたのだけど、その内容が「ホタルを見に行ってきます」だけだったから余計に心配させてしまったらしい。これ、別の読み方をすれば後を追ったように読めなくもない。「どんだけ心配したと思っているの!」とむちゃくちゃ泣かれてしまった。反省。警察に通報されなかったのはありがたかった。
本当に申し訳なかったので何度も謝った。伝えることは大事だ。大きなため息を何度かついて、両親は何とか許してくれた。感謝しかない。
とにかく疲れていたので土日はずっと寝ていた。やっぱり無理があったらしい。衝動的に何かをするのはこれを最後にしたいと思う。
そして月曜日、幸い宿題はない。そのかわりテストが返ってくる。あまり期待しないでおこう。
いつも通りの時間にいつも通り登校する。下駄箱で靴を履き替えて教室に向かった。教室は2階だ。教室に着いて後ろのドアを開けると、目の前に人が立っていた。学級委員の里村さんだ。どうやら向こうもドアを開けるつもりが鉢合わせしたらしい。私は驚いたし、里村さんも驚いていた。
「あ、山下さん。おはよう。」
あいさつをしてもらった。いつもならあいさつされても軽いお辞儀で済ましてしまうところだ。だけど今日は少しだけ勇気を出した。
「あ、えと、お、おはよう。里村さん。」
上ずった声になる。恥ずかしい。あいさつってこんなに大変だったっけ?
「ふふっ、今日もいつも通りね。それじゃ。」
里村さんは私の横を通り抜けてどこかへ行ってしまった。いつも通り?絶対ウソだ。顔真っ赤だったと思うけど。まあいいや。
大分緊張したらしい。肩が上がっていたので無理やりおろす。なんとか自分の席に向かう。これからは少しずつ変わっていかなければならないのだ。とりあえずあいさつができただけでも良しとしよう。先が思いやられなくもないけど。
自分の席に着く。かばんから教科書を取り出して机の中に入れる。教室の時計を見ると始業まで15分くらいあった。でも特に何もすることはない。教室の中を見渡してみる。何人かで固まって談笑している人もいれば、律儀に今日の予習をしているひともいた。皆もういつも通りになっていた。少し騒がしい。けどいやではなかった。
そして、前の席を見る。そこに座る人はもういない。悲しさがこみ上げるけど、もう彼女を頼ることはできないのだ。大丈夫。もう私は大丈夫だ。
ふと、あの川にいつまでホタルはいるのだろうかと思った。ホタルがいなくなれば夏が来る。親友のいない夏を私はどうすごすのだろうか?
今日から蛍のいない日々が始まる。
最後のほたる 東風 @Cochi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます