第5話
グミは洞穴に入れられた。理由はるぅるを破ったためである。
わたしたちに近づかないで。
グミはるぅるを知ったはずだったのに。
洞穴は暗かった。何も見えなかった。しかし、グミはそれをそのまま受け入れた。音を立てず、泣き叫ぶこともせず、ただこの暗闇に身を任せた。
グミは目を閉じなかった。暗闇をただ目に焼き付ける。洞穴は1歳のグミがすっぽり丁度よく収まる真ん丸の形をしていた。
グミには寂しいとか、悲しいとか、楽しいとかそういう感情はなかった。この時。
ただただ静かだった。
しばらくそのようにグミは感情がないただの物体のように洞穴に収まっていた。それから幾らか時間が過ぎた。グミは意図せずに目を閉じていた。自然と。すると母が見えた。母、美代子の姿形が現れたのではない。姿形ではなく、グミの前に母が見えたのである。
「グミが好きだからグミという名前をつけたのよ」
母が言った。
「ふぅん」
グミは呟いた。
グミが好きだからグミという名前をつけたのよ、間違ってはいない。
「グミってあなた自身のことじゃないわ。あの、ぶどう味の濃厚なフルーツグミのことよ」
母は付け加えた。
グミにとってはグミが自分のことであろうと、食べ物のことであろうとどちらにしても関係のないことだった。
グミにとっては理由と理屈という概念はなかった。「概念」という概念もなかった。ただぷかぷかとこの世に存在しているだけだった。遺伝子の疼きをたよりに生きているだけ。
この日を最後にグミはここに来ることはなくなった。
美代子は働くことをやめたのだ。グミがこの見慣れない異世界に加わってから1ヶ月たってからのことだった。美代子が働くのやめた理由は、結局のところやめ時だと思ったからである。理由という理由はなかった。
グミは異世界のデータを削除した。
グミ かゆかおる @kykor82
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