解決編 死角

「理科室の中にも、階段にも棒はなかった。

 隠していたのは二人が立っていたここ、廊下だったんだよ。

 みんなでやって来たとき、無意識に下を見ていたから見つけられなかった。

 ということは……」



「上だ!」

「あっ、あそこにあった!」

「本当だ!」

 女の子たちが指さした先には、梁へ取付けられた絵画用フックにきれいに収まっている黒い棒があった。

 校旗などを飾るときに使う旗棒のようだ。一体どこから持って来たんだか……。

「教室からここへ来た時は梁の裏側なんて気にしてなかったからね。

 俺も気付かなかった」



「理科室の中のことばかり意識してたからかぁ」

 朋華は感心したように棒を見上げる。

「でも、どうやって……私だってフックには届かないよ」

 高校生になり身長が百七十センチ程になった彼女も不思議そうだ。

「俺がジャンプして、やっと届くくらいだからね」

「投げたのかな」

「そんな上手くいかないよ!」

「えー、わかんない」

 女の子たちは勝手に盛り上がり始めた。


「おそらく、肩車したんじゃないかな。そうでしょ?」

 証拠も見つかってしまい、すっかり観念したキョースケ君がうなずく。

「いくら体が大きいからって、かなりきついんじゃない? 立ち上がるのが難しいでしょ」

「朋華がそう思うのも無理ないよ。二人はちょっと工夫したんだ」

「工夫って?」

「水飲み場の流しの縁にタケル君が棒を持って立ち、そこにキョースケ君が頭を入れて肩車したんだと思う」

 二人は自分たちがしたことを言い当てられて、とても驚いている。

「そうすれば立ち上がるのも楽だし、二メートル近い大男が出来上がるから、棒をフックの所に掛けるのも簡単さ」


 あらためて二人に話しかけた。

「照明を割ったのは君たちだよね」

「はい」「そうです」

 今度は黙秘権を使わないみたいだ。

「ここに隠したから、見つかってしまわないか心配で廊下にずっといたんだね。隠し場所を思いついたのは?」

「……僕です」

 小柄なタケル君が視線を外しながら答えた。怒られるのを予感しているのだろう。

「それじゃ、肩車もタケル君が?」

 タケル君が横目でキョースケ君を見た。

「それは俺です」

 きちんとこちらを見て、キョースケ君が答える。

 それを受けてタケル君が話し出した。

「僕があそこに棒を隠そうって言ったけど、流しに乗っても届かなくて……。そうしたら、キョースケがそのまま肩車してくれたんです」

「そうか。それじゃ、おじさんから君たちに言うことがある」

 二人が身構えた。 



「とっさに棒を隠す場所が閃いたタケル君の発想力は素晴らしいと思う。

 方法が行き詰った時のキョースケ君の行動力もお見事。

 これからはその力をもっと他のことに活かすようにしてね」

 怒られるとばかり思っていた二人は、また驚いている。

「自分たちで先生の所へ行って話をして、しっかり怒られておいで」

 すぐに二人は職員室へと駆け出して行った。


 彼らの後ろ姿を見送って振り返ると、リンちゃんが、ふぅんと言ってニヤリと笑った。

 直訳すると、「おじぃ、なかなかやるじゃん」といった所かな。


                *


 小学校を出て、駅へと向かう。

 駅ビルのレストラン街でランチにするつもりだ。

 校庭沿いの道を並んで歩いていると、ふいに朋華がこちらを向いた。

「あの男の子たち、もう悪戯はしなくなると思うな」

「んっ? そうかぁ?」

「きっとそうだよ。うん。」

 少し汗ばんできた。

 梅雨を飛び越えて、まるで初夏のような陽射しを受けているからかもしれない。

「何をご馳走してもらおうかなぁ。

 この前の天ぷらもいいけど――やっぱり、オムライスがいい!」

 ご機嫌な彼女と一緒に、駅への道を急いだ。




               ―了―

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