真夜中の遊戯

桜々中雪生

真夜中の遊戯

「おやすみなさい」

 挨拶をして、パパとママの部屋のドアを閉める。今からしばらく、いい子にしてなくちゃ。時間は23時36分。あと少し、部屋で寝たふりをしよう。


 紗空さらは近頃、夜眠れない。眠らない。23時を回ると、目がぱっちり冴えるのだ。

(……きっと、あの、変なテレビのせいだ)

 一週間ほど前だ。一人で留守番をしていて何の気なしにテレビをつけたとき、そこに濃厚に舌を絡ませ合う男女が映し出された。それは昼に放映されている恋愛ドラマで、そのシーンは、いわゆる、不倫現場だった。濃厚なキスは次第に女優の首筋を伝い、胸元へ到達した。俳優の手は画面の下へと移動する。はぁ、はぁ、と、画面越しに聞こえてくる二人の吐息が余裕のないものに変わる。

 ……そこからは覚えていないが、紗空にとって、それは大きな衝撃となった。

「おやすみなさい」

 挨拶をして、両親の部屋を出る。その日は、自分のベッドに入っても、目が冴えて眠れなかった。

「うぅーん……」

 いくら羊を数えてみても、一向に眠くなる気配がない。それどころか、股の奥が疼き始めた。

(あれ? なんだろう……)

 そっと疼く場所に手をやる。びくんっ、と、紗空の身体が跳ねた。

「ひゃっ……」

 それは初めての体験で、感覚で、紗空は戸惑いを隠せなかった。頭がぼうっとして、足がふわふわした。手を動かすのを止められない。息がひとりでに荒くなる。腰が勝手に揺らめく。

「ん、ん、ん……!」

 びくびくっ! と一際大きく腰が跳ね上がり、紗空はくたりと弛緩した。

「くふぅ……」

 いけないことをしてしまったような背徳感と、気持ちいいという快感が入り交じり、紗空は不思議な高揚感とともに深い眠りに落ちた。


 その日から、紗空は、その遊戯に夢中になった。


 何となく、幼心に人に知られてはならないものだと感じ、両親が寝静まった頃、一人遊びをするようになった。不思議と、その遊びをしたあとは、ぐっすり眠れるのだ。

「ぁ、ん、ふぅ……」

 指を動かす。くちゅくちゅと淫靡な音が、一人きりの部屋に響く。

 誰も知らない、知られてはいけない、わたしだけの真夜中の秘密。

 だから今日も、わたしは一人で遊ぶ。


「おやすみなさい」

 挨拶をして、パパとママの部屋のドアを閉める。今からしばらく、いい子にしてなくちゃ。

 もうすぐ0時を回る。パパとママは寝る時間。少しだけおとなな、わたしだけの遊びを始めよう……。

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