透明になった彼女へ
彼女が亡くなって早いことでもう冬を過ぎ、春を迎えようとしている。俺は、彼女の好きだった花たちを抱えて、彼女の元に来ていた。そう、桜が咲く季節。彼女と出会った季節に墓参りに来ている。もう、彼女の姿を見ることができない。透明になってしまった彼女へ、この地にいる彼女への手向けだった。墓石の前で俺は花束を供え、手を合わせる。
「遅くなっちゃってごめんな。けどな俺、お前の言う通りになりたいもの見つけてさ。必死に勉強したんだ。遅い出願だったけど、志望校にも合格して、その道に進めるように一歩近づいたんだ。お前のおかげだよ。ありがとうな。……そのなりたいものっていうのがな」
そこであふれる涙を制服の袖で乱暴に拭い、墓石に笑いかける俺は落ち着きながら、しっかりとそこにいるような、聞いているような気がする彼女に宣言をした。
「俺、花屋になるわ。お前……いや、陽菜みたいに笑顔で誰かに送る花を楽しそうに選んでる人たちを見て働きたいんだ。だから、見守っててくれな。ありがとう。最後まで名前も呼べない俺だったけど、俺……陽菜のこと、好きだった。今でも好きだ。そしてこの気持ちも、陽菜のことも忘れたりしない。想いながら前に進むよ」
そうとだけ言い、俺は墓石に背を向けた。
ここを一としてまた俺は進んでいく。歩き出したとき、ふとどこからか声が聞こえたような気がした。向日葵のような笑顔で優しい声をした彼女の声が。
―――私も、好きだよ。……応援してる。頑張れ、夏樹。
君と見た夏 泡沫りら @utakata1423
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