やっぱ邪馬台国文化圏って感じがしないなあ

「卑弥呼様も言うちょったけど、日本に王制はえ。いわゆるマルクス主義史観的な、権力者たる王はおらん。大陸人がそげな差を理解出来んまま、王と表現しただけやろなあ」

「うん」

「古事記を読み直してみたら、確かに王はおらんかった。皇族の子女を王と呼んだに過ぎん。まだ適切な用語がかったから『王』と書いただけや。そイを現代の学者がマルクス主義史観どっぷりに解釈しっせ、王墓だの王権だの言うちょる」


 なるほど。そういうわけね。――

 王って言葉は、歴史書では親王とか内親王って意味で使われているのか。……

 先日卑弥呼様が言ってた話が、やっと解ったよ。大陸や西洋の王、つまり権力者とは違うんだ……。多分智ちゃんの直感通り、権力者たる王の墓ではなく「有力者の墓」なんだよ。


「それとね、やっぱりあっちの遺跡は、二世紀後半辺りから集落の環濠が埋められてるらしいの。つまり倭国大乱の頃にやられちゃったんだろうね。大阪冬の陣で、豊臣が大阪城の堀を埋められたようにさ……。逆に邪馬台国勢力は、その頃から勢力を伸ばしてるんでしょ!? となると、邪馬台国は絶対北部九州じゃないよね。北部九州は、邪馬台国に負けてその傘下に収まった『外様』勢力っぽいよね」

「そうやなあ」


「実際に現地に行って幾つか遺跡を見て、そう実感したよ~。あと宮崎の遺跡と随分様相が違うね。あっちは弥生前期~中期の、甕棺墓とか方形周溝墓が多いの。古墳はあるけど初期型は少ないしサイズは小ぶりだし、宮崎みたいに密集してなくて、あちこちに点在してるって感じ~。古代宮崎とは完全に別の文化圏……って感じがしたよ」

「ほう。面白いな」


「それから春日市の須玖岡本遺跡も見てきたんだけどね。奴国の拠点じゃないか、って言われてるところ。そこも何か異質だったよ。青銅器やガラス製品の工房だらけだったっぽいの。ガラスって、日本でも結構古くから作られてたんだね」

「へぇ~~」


「奴国って、二万余戸だったっけ!? そういう大規模な国のイメージは、全然無かったよ。まあ一部しか調査出来てないだろうから、全容が見えないだけだろうとは思うけど。ただ、やっぱ墓は甕棺墓なんかがメインで、古墳文化は遅れて入ってきたんじゃないか……って感じ」

「なるほどね」


「魏志倭人伝には『棺』って書かれてるでしょ!? もし邪馬台国が北部九州なら、魏朝の人達は『甕』って書きそうだよね。そういう細かい点でも、あっちじゃないよな~、って感じたよ」


 そっか。――

 やっぱ邪馬台国文化圏って感じがしないなあ。卑弥呼様情報によれば、そもそも奴国も博多湾沿岸ではないっぽいし。


「そうそう。豪華客船の話も聞かせてよ。オレ、そっちもスッゲー興味があるんだけど」

 と、相変わらずご飯を景気よく頬張りつつ、敬太郎君が催促する。


「うん、スゴかったよ。一五万トン位の、巨大ビルみたいな船だった~♪」

「一五万トン……!? 戦艦大和の二倍以上じゃん!! スッゲェ……」

「客室は多少おシャレなホテルって感じかな。小さなバルコニーが付いてて海が見えるの。で、レストランとかカフェなんかが沢山あって、大抵食べ放題飲み放題なのね。あたし調子にのってスイーツ食べまくってて、二kg太っちゃった(笑)」


「ん? どこが太ったって!? あたしが調べちゃる!!」

 あたしはすかさず、智ちゃんのお腹の肉を掴もうと手を伸ばす。智ちゃんはキャっ、と声を上げつつ、身をよじってあたしの手から逃げる。

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