あれは全然「王墓」じゃないね
四人で鍋をつつきつつ、ビールを飲む。
今回あたしは、日頃の三人へのお礼を兼ねて奮発した。宮崎で穫れたエビや、豪華宮崎牛がふんだんに入っている。ビールも、普段のインチキビールじゃないよ(笑) なにしろ宝くじが当たったからね。
あ、そのお金で、お父さんにナイショで車の免許取ろ~っと♪
「原稿は既に三分の二くらい出来ちょる。あとは雄治担当分の原稿に手を入れるだけやっけど、まあ、ほぼノータッチで良さそうやな。雄治の原稿はスゴいね」
と、敬太郎君がエビに食らいつきつつ、言う。
ちなみに今回、敬太郎君の凄さをまざまざと見せつけられた気がする。あたしのメモ書き的な散文を上手くまとめ、カンペキなリポート調に編集してくれてるのね。
特に、諸説との比較が秀逸なのよ。あたしが断片的に触れている内容を、きっちり補足して理路整然と編集してくれてる。敬太郎君は、
――紗耶香の考察はスゴい。
って褒めてくれるけど、敬太郎君のウデあってこそのリポートだと痛感させられるの。あたしもまだまだ修行しなくちゃね。今、敬太郎君の文章術を分析中。
「Webページ化も、半分位出来てるよ」
と、智ちゃん。
デザインテンプレートを上手く利用したシンプルなレイアウトだが、スゴくイイ感じに仕上がってる。見易い。あたしも今作成している遺跡巡りリポートページが完成次第、智ちゃんの作業の支援に入る予定。
「智ちゃんの遺跡巡りのリポートも、面白かったな」
と、雄治が言う。
「うん。伊都国と奴国比定地を見てきたんだけど、やっぱ何か違う……って実感したよ」
智ちゃんが白ワインのグラスを傾けつつ、応える。
「原田大六っていう強烈な先生がいて、すっごく熱心に福岡近辺の古代史研究をやってるの。ケンカ大六ってあだ名が付いてたらしいんだけど、結局その先生の声のデカさで、今日の伊都国奴国観が市民権を得たんだ……って感じがしたよ」
「なるほどねぇ~」
「糸島市の伊都国歴史博物館って
「へ~~~~」
「確かに大陸由来の副葬品が多かったらしいんだけどさ、めぼしい出土品と言えば、直径四六cmの大っきな銅鏡ぐらいかなあ」
「四六cmはデカいな。相当デカいよ」
「まあ、それだけはスゴいと思ったんだけどね」
智ちゃんはエビをつつきながら、ワインを飲む。
「雄治君の文章を読みながら、『王って何だろう』って考えさせられちゃったよ。あたし的には、あれは全然『王墓』じゃないね。有力者の墓ではあるだろうけど、権力者の墓ではないな~」
「ほう」
「原田大六って先生も、例えば宮崎だとか畿内の古墳群をほとんど見てないんじゃないかな。ちゃんと見てたら、あれを王墓なんて言い出せなかったと思うよ」
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