弥生時代と古墳時代って、何が違うんやろか

 敬太郎君は、その白地図パネルを何度も写真に撮っていた。

「ここへ来た目的は、このパネルだけや」

 というので、四人は古代史関連の展示をざっと見回すだけに留め、さっさとクルマに乗り込んで次の目的地を目指した。約五km先の、あおき古墳である。


 日向灘に面する海岸から二km内側の、海抜ゼロメートル地帯に存在する。イザナギが愛するイザナミに逢いに行ったものの、ゾンビと化した彼女に襲われ、命からがら逃げ出した後みそぎを行った……といわれている阿波岐原あわきがはらに程近い。


「ここは昔から、何度も日向灘沖地震の津波で流されてる筈やけど、この古墳はよく残ったなあ……」

 と、雄治が檍一号墳を眺めつつ関心している。

 智ちゃん先生の説明によると、この一号墳は全長五〇mのバチ型(最初期型)前方後円墳。今世紀に入り、日本最古級かつ最大の木槨が見つかった、という。


「その木槨って、なに?」

「弥生時代の墳丘墓はね、棺にそのまま土を被せてるの。ところが古墳の方は、『槨』という構造を設けてその中に棺を収め、槨の上から土を被せてるわけ。木槨だとか石槨だとか。あと粘土で棺を覆っただけのタイプもあって、それは粘土槨って呼ばれてるらしいんだけど」


「なるほどね。この檍一号墳は、掘ってみたら木槨が見つかったから、墳丘墓ではなくて古墳なんだ」

「そうそう。つまり、日本で一番最初に作られた『古墳』のひとつ……ってことになるみたい」


「そもそも墳丘墓と古墳って、何が違うの? どっちも前方後円墳があるじゃん」

「さっき生目古墳の人に教えて貰ったばっかなんだけどね。弥生時代の築造だと墳丘墓、古墳時代の築造だと古墳……らしいよ」

 なにそれ!? 大差ないじゃん。どちらも外見はそっくりだしさ。


「で、墳丘墓だと今言ったように、槨がない。古墳だと槨がある。つまり実際に掘ってみないと、墳丘墓なのか古墳なのかは判別がつかないんだってさ」

「へ~~~~」

 なんか違和感があるんだけど。……


 その原因はすぐに解った。敬太郎君が智ちゃんに、

「長年、解ったようで解っていないモヤモヤを、俺たちは放置したまんまやっちゃね。そもそも弥生時代と古墳時代って、何が違うんやろか」

 と問いかけたからである。


本当だねまこっぢゃね

 と、雄治。

「昔は『大和時代』ち言うちょった。日教組教科書採択基準に『時代区分が政権の所在によってなされているようなことはないか』っちゅう条項があっせ、大和朝廷の歴史を否定しつつ『古墳時代』ち呼び名を変えた。じゃったら弥生時代と古墳時代の実質的差異は何じゃろか。墓に、槨構造が有るか無いか……だけの差か!? そこに、わざわざ別の時代やち区別する意味があっとやろか!? どうもよく解らん」


「そうやなあ……。縄文と弥生の区分も、よく解らんよな。昔は『渡来人が沢山やってきて縄文人との混血が進んだ末、弥生人誕生。同時に農耕社会に変遷した』っち言われちょったよね。そイが弥生時代だ、と。でもそれも、今では否定されちょるやろ!? 縄文弥生だけじゃなくて、弥生と古墳時代っちゅう区分も意味がなくなってるっぽいな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る