古代人は、わざわざこン場所を選んだっぢゃろな

「それってスゴくない!? 何で気付いたの?」

「いや、たまたまや。古代人も多分、なんか意味があっせ、ここに施設を作ったっぢゃろなあ。観測目的なのか祭祀目的なのかは判らんけど」

 だよねえ。……


「周辺の山々にも似たような、磐座いわくららしきもンがあるらしい。今やったらWebツールなんか使っつこて、距離でン方角でンすぐわかぃけど、古代人は桜島ン尾根を下り海を渡っせまた山を幾つも越えて、どうやってどげんしてここまでの距離を測ったっじゃろか。さっぱりさっぱイ見当がつかん……」


 うんうん、そうだよそうだよ。周髀算経だとか、あとなんだっけ……渾天儀か。ああいった実用に耐えない初歩レベルのテクではなく、もっとスゴい技術がさらに大昔から存在したんだよ。それこそWebツールみたいに、桜島や霧島が噴火していようが問題なく測定出来るようなハイテク、とかさ。――

 あたしは都城市街地に目を向け、それから視線を転じて桜島を眺める。その山頂からは細い噴煙が上がり、上空で風に流され左に伸びていた。


 しばらく黙って眺めているうち、雄治の左手が伸びてきて、木製のデッキ手摺に置いたあたしの右手に重ねてきた。

(来たっ!!)

 まさかまさか、ここで来たか!?

 全身に、緊張が走る。でもどうにか平静を保つ。だってさ、動揺してるのがバレたら恥ずかしいじゃん。――


 そのうち雄治はあたしの右手を、ゆっくりと指先で撫で始めた。ちょっとくすぐったい。でも何か気持ちイイ。雄治は黙ったまま、あたしの右手を優しく、でるように撫で続ける。その感触と体温を味わっているうち、あたしの緊張もいつの間にかほどけてしまった。


 わずかな時間が、流れた。

 雄治の左手が離れ、右手に置き換わった。雄治の右手はあたしの右手を取り、そして互いに握り合う。自由を得た左手は、今度は背後からあたしの肩にそっと触れてきた。

 ふと気付けば、あたしはデッキ手摺に背を預け、雄治と向かい合っていた。雄治はあたしの肩を優しく撫でつつ、穏やかな表情であたしの眼を見る。何故かスゴくイケメンに見えた。視線を合わせるのが気恥ずかしくて、あたしは一瞬眼を逸らす。


(いや、ここで逃げちゃダメじゃん。オトナのイイオンナなら、多分ここが勝負ドコロの筈だよ……)

 勇気を出して眼を開き、雄治の眼をしっかり見つめた。

 不思議なもので、雄治と心がつながった気がした。雄治が何を考えているのか、何を望んでいるのかが全て、ダイレクトにあたしの心に流れ込んで来る気がした。あたしは雄治の想いを受け入れる決心がつき、そっと目を瞑った。


 程なく、あたしの唇に何かが触れる。

 ん? 何か感触がおかしくない!?

 目を開ける。雄治がニヤニヤ笑っていた。あたしの唇には、雄治の指先が添えられていた。


「もう!! バカっ」

 パシっ、と雄治の尻を叩き、つい勢いであたしの方から雄治の唇を奪ってしまった。今度は雄治も、自身の唇であたしの気持ちをしっかり受け止めてくれた。ふたりは暫く互いの唇を唇でまさぐり合い、体を密着し合った。

 絶対ナイショだけど、かなり濡れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る