女の扱いに慣れた、ベテラン男みたいな感じじゃん
誰もいない平日の母智丘の山頂で、ふたりっきりのひとときを楽しんだが、
「遅くならんうちに戻ろう」
と、クルマに乗り込んで帰路につく。
車内には聴き慣れない曲が流れていた。R・シュトラウスのヴァイオリン協奏曲らしい。
「今週の
と雄治は言う。優美かつゴージャスなオケの響きに酔いしれつつ、山道を宮崎市へと目指す。
夕食のメニューはお好み焼きに決まった。市内に入ってすぐのスーパーに寄り、食材を買い込んだ後、雄治のアパートに到着。
室内は確かに、猛烈に暑かった。ふたりしてクルマからエアコンを取り出し、室内に運び入れて取付作業を行う。大汗をかきながら一時間以上かかって、どうにか作業が完了した。スイッチを入れるとたちまち涼しい風が室内に広がる。
「おお。感動や。紗耶香ホントにありがとう。生き返るわ……」
ちと待っちょっくり、と雄治はバスタオルと着替えを取り出し、バスルームへと消えた。
あたしもシャワーを浴びたいよ。汗だくじゃん。――
そう思ったが、言い出せない。彼氏でもないオトコの部屋で、バスタオルを借りシャワーを使わせてとは言い辛いよね。取り敢えずキッチンで顔だけ洗い、持参したタオルで顔を拭くと、手早くメイクを直す。
雄治がシャワーを終えると、ふたりして食事の準備を始めた。
意外にも手慣れた感じで雄治がキャベツを切り刻む。あたしはそれを受け取ると、ボウルで具材を混ぜる。雄治はホットプレートを取り出し、室内のテーブルに置く。で、あたしがそれでお好み焼きを焼いている間、雄治がちゃちゃっと野菜を切ってサラダを作る。
ミニコンポからR・シュトラウスの「英雄の生涯」が流れる中、ビールで乾杯した。
「いやぁ……マジでありがたい。涼しいわ」
雄治が喜んでいる。冷えたビールにアツアツのお好み焼き。ホント最高だよ。――
腹が満たされると、ふたりはテーブルの上を片付け、小さなラブソファーに並んで腰掛ける。
初めて飲むロゼワインが、甘くて美味しい。スペイン産。ベリー系の風味。
クラッカーにクリームチーズを乗せ、レーズンやアーモンドをトッピングしたモノに舌鼓を打ちつつ、ワイングラスを傾ける。
こういう小洒落たおつまみなんかをささっと準備しちゃうところが、雄治のスゴいところだよなあ。見た目に似合わず、色々と器用なんだよね。さっきはエアコンの取り外しや取り付けを自力でやっちゃうし。そうそう、車の運転も上手い。
そういえばあたしをスムーズに抱き寄せ、キスに持ち込むテクも特筆モノだったよ(笑) 女の扱いに慣れた、ベテラン男みたいな感じじゃん。全然、そんな風には見えないんだけど。……
ミニコンポはR・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」を、流麗にそして華麗に奏でていた。
東欧の巨匠がタクトを振り、世界最古の名門オケが演奏した歴史的名盤らしい。暫く雄治と音楽の話題で盛り上がっていたが、いつしかふたりはピッタリ寄り添い、キスが始まった。
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