紗耶香は良かオナゴやなあ

 翌日。――

 朝から快晴。カンカン照りである。国内有数の降水量を誇るここ宮崎も、今年は空梅雨気味なのか!?


 ガッコに行き、一時限目の講義を受けるとすぐに家に帰る。それだけで頭から足先まで汗だくになった。朝食の残りで軽くお昼を済ませると、シャワーを浴びる。特に深い意味はないけど念入りに体を洗う。


 髪を乾かし、着替える。特に深い意味はないけど、タンスの奥から一番良い上下揃いのブラとパ○ツを取り出し、身に付ける。いやいや勝負下着とかじゃないから(焦)

 下は、いつものジーンズ。これからエアコン運びだもんね。ただし上は、これまた特に深い意味はないんだけど、いつものTシャツではなくキャミを着た。だってさあ、暑い最中さなかにエアコン運びだよ。ちょっとでも涼しい格好の方がいいじゃん(焦)


 それから、昨晩ゆっこがやってくれたメイクのテクを思い出しつつ、真似してみた。普段は二分ちょいで済むところを、一〇分以上かかってしまった。あ、いやいや、それも特に大した意味はないからね。重ねて強調しておくけど。

 あと、出掛けにほんの軽く、イイ香りのミストなんか使ってみたけど、それも全然たまたまだからね。妙な勘違いはしないでよね(滝汗)


 五分歩いて母校に着くと、丁度良いタイミングで雄治のクルマがやって来た。

「これが、従兄弟のお兄さんから貰ったって車?」

「じゃっど~。二〇年以上前の、シルビアS14ち車やっど~」

 クルマの周囲をぐるりと回り、眺める。カッコいい。余程大切に乗っていたらしく、二〇年という年月を感じさせない。


 助手席のドアを開け、乗り込んだ。途端、先日引越しの際にあたしがドラッグストアで選んだ、雄治のボディソープの爽やかな香りをかすかに感じた。ちょっとドキっとした。

 雄治はクルマを、国道二六九号線へと向け都城みやこんじょを目指す。クルマのオーディオは、R・シュトラウスの「アルプス交響曲」を控えめなボリュームで奏でていた。


 昨晩の智ちゃんのせいで、妙に雄治を意識してしまう。

 雄治は平気な顔をしているが、やはり智ちゃんとの会話のせいか、あたしのことをちょっと意識してるっぽい。若干のギクシャク感がある。

「急に力仕事を頼んで、すまん」

 と言ったきり、会話もあまり弾まない。この空気、ちょっと辛いよ。なにか上手い話題はないかな。……


 車内は、さすがに二〇年以上乗り続けているだけあり多少色褪せているが、しかし汚くはない。オシャレなシートカバーやフロアマットが施され、乗り手の愛着を感じさせられる。こんな良いクルマをタダで貰えたなんて、雄治すっごくラッキーじゃん。


 スポーツ車らしい少々硬目の足回りで、ゴツゴツと路面からの突き上げを感じさせられるが、坂道を力強く加速するのが心地良い。あっという間に山中の、オトナの宿泊施設が幾つか建ち並ぶ地点を通過する。その禍々しい看板がつい目に止まり、ヘンに意識してしまう。ふたりの間に、何とも表現し難い悶々モンモンとした空気が漂う。


「お礼は、食事でよかと?」

 そんな空気を変えようと、雄治が無理に話題を捻り出し、口にする。

「うん、いいよ。外食とか、無駄にお金使うのもアレだから、マジで雄治の手料理でいいよ」

「そっか……。紗耶香は良かオナゴやなあ」

 ――惚れてまうやろ~~っ!!

 と冗談っぽく、某お笑い芸人のセリフを真似る。


 思わずギクっとした。いやいやいくら冗談でも、今この状況でそのセリフはマズいってば!!

 あたしのハートを守るバリアが、脆くも崩壊してしまうじゃん。ヤバいよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る