学者の「机上の空論」に過ぎないじゃん

 番組に出演する学者さんの解説によると、距離を測定したい二点に長い棒を立て、棒の影の長さを測る。そして二点双方から見える山の頂上などを基準にして、三角関数を使用し距離を算出する、という。

「そのような方法が用いられたのではないか、と考えられます」

 と。……


 自慢じゃないけど、あたしは数学が苦手。でも、頼りない知識を必死で掘り起こしつつ想像するに、やっぱ実際には無理があるっぽいのよね。

 しばらく考え込み、ようやく問題に気付いた。そのやり方で距離を測定するには、多分、条件がシビア過ぎて現実には使えないのよ。――


 まず、二点双方から、山頂などの基準点が見えないといけないわけ。また棒の影の長さを測るのは、合図して二点同時にやらないと意味ないでしょ!? つまり二点間の距離があまりにも離れ過ぎていると、この手法は使えない。

 それと、棒に太陽が当たって出来る影の長さを測るんだから、二点の経度が完全に一致してないとダメっぽい。つまり南北の距離しか計測出来ないの。


 それから経度だけでなく、二点の標高も一致していないと三角関数は使えないよね。

 そうそう、基準点たる山頂の標高も計測しておかなければいけない。しかし三世紀当時、標高を知る方法があったのかな? 多分ないよね!?

 仮にそこがクリアだとしても、同一経度の短距離間しか計測出来ない手法なんて、邪馬台国までの行程をリポートする際に役立ったのかどうか。……


(学者の『机上の空論』に過ぎないじゃん)

 あたしの中で、ようやくそういう結論に至った。


 しかし自身の結論に自信がない。そこでグループウェアの掲示板に、

「SOS(プライオリティ低)」

 と書き込み、番組動画のURLを載せてあたしの考えが正しいかどうか、三人に検証を依頼する。


 ふうっ……、と溜息をついた。

 大きく伸びをしもう一度大きく息を吐き、それから再び番組動画を視る。


 大陸には大昔から「渾天儀こんてんぎ」という天体観測器具が存在し、それらを用いて正確な方角を知ることが出来たのではないか、という。

 レプリカの写真が掲載されていた。結構デカい。

 いや、そりゃそうだよね。アナログの器具で、微細な天体の動きや座標を計測するんだから、ある程度大きなサイズになるのは仕方がない。しかしまあ、魏朝の使者一行が、こんなデカい器具を携えて邪馬台国を往復しただろうか。


(いやいや。まさかね……)

 牛車も馬車もない、荷駄車すらないのに、そりゃ難しいでしょ。

 ただでさえ、一行は大荷物を抱えていた筈なんだから。――


 当時はスーパーやデパートのような、便利な食料調達手段もないわけで、一行は予め大量の食糧を確保して担いでいたわけでしょ!? 荷物が増えれば随行する人夫も増える。人夫が増えれば当然荷物も増える。荷物の量と一行の人数の、丁度折り合いが付くのはどこか。数百人規模なのは間違いない。いや、下手すりゃ千人超えだったかもしれない。デカい渾天儀なんてモノを携える余力が、あっただろうか。


 番組の解説では、

「この渾天儀の、小型のモノを担いで行ったのでしょう」

 と言っている。

(う~ん……。これ以上小型化して、ちゃんと天体計測出来るのかな?)

 そういう疑問も生じる。


(色々、胡散臭いな)

 という思いが強くなり、動画再生を中断しブラウザーを閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る