「周髀算経」という数学書

 ふと気付くと、時刻は昼過ぎを回っていた。

(もうこんな時間か……)

 今更ながら、空腹を覚える。

 キッチンに移動し食器棚を覗き、カップラーメンを発見した。ポットのお湯を注ぎ、割り箸を探して自室に戻る。


 ラーメンを啜りつつ掲示板を見ると、早速敬太郎君の、

「紗耶香サンキュー。すっげー参考になった。この御恩は忘れるまで忘れません、じゃあ!!」

 というレスが付いていた。どうやら敬太郎君もガッコをサボって調査研究に没頭し、おかしな精神状態になっているらしい。


 あたしはラーメンを一気食いし、先程の番組動画の続きを視聴する。

 番組ではどうやら、「邪馬台国四国説」をっているようである。最新の研究成果に基づくと、

 ――邪馬台国は徳島、という結論になる。

 という。

(おいおい。それだと方角がおかしいじゃん……)


 解説者は、

「末盧国は福岡県宗像市付近である。壱岐から、長崎県唐津市付近ではなく宗像付近に上陸し、大分に抜けた」

 と説明する。上陸地点末盧国とは宗像市周辺。そして伊都国が福岡県京都郡付近、さらに奴国を経由し(大分県)中津市宇佐市といった海岸端に出る。即ちそこが不弥国だ、という。


 なるほどそこまでは良い。しかしそこから先がアヤシい。徳島までの方角も「陸行一月」の説明も、

「今度は女王国を基準に、南」

 と突然恣意的に読み替えて、行程を解読しているのである。


(な~んか、こじつけっぽい……)

 と思わざるを得ない。より正確な記述を信条とし信頼されていたとされる、著者陳寿が、突然何も明記せず方角の基準点を変更するだろうか。そりゃ不自然だよね。――


 加えて、番組では魏志倭人伝の行程記述を、

「方角は全て正しく、距離は全て直線距離で書かれている」

 と見做した上で、マップツールを使用し解説を試みている。

 古代の大陸には既に、地面に棒を立て影の長さを測り、距離や方角を計算するメソッドが確立していた、という。だから魏朝の使者一行も、邪馬台国までの行程を正確に測量しリポートしたのではないか、と主張しているのである。


(う~ん……)

 あたしは腕組みし、考え込む。

 何とも説明し難い「警告音Warning」が、頭の中でガンガン鳴っている。


 何度も番組をリピート再生し、漸くその原因に気付いた。あちらの国では紀元前二世紀前後に書かれた「周髀算経」という数学書が存在するそうで、そこに書かれている二点間の距離測定方法を学者さんが解説している。

「こういう方法により、距離を測定していたと思われます」

 と説明しているが、ホントにそのやり方で、実際に測定可能なのか!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る